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勇介君は巨乳が嫌い  作者: 諏部たぬき
17/24

17話 美月の思い出1

 私、安達美月は、今、喫茶「NAGISA」にいる。

 窓から見えるほどではないけど、海が近いため、風は少し潮の香りがする。

 この時期のカフェテラスでのお茶は、秋の穏やかな陽気と潮風で最高のひと時。


 目の前には渚ちゃんがいる。

 ここは渚ちゃんのうちが営んでいる喫茶店。

 なんでもご両親は、渚ちゃんが産まれた時に、店の名前を産まれたばかりの娘の名前に合わせて変更したらしい。


「だから、高野君は意外と怒ったりするんだよ」

「へー」


 渚ちゃんは、今、高野君と同じ職場でバイトをしている。


「しかも、ボクのことを完全に下にみてる」


 そういう渚ちゃんはなんだか嬉しそうに見える。

 渚ちゃんが言うには、「潜入捜査」らしいのだけれど、高野君に惹かれてきている気がする。だから私はやめたほうがいいと忠告したのだけれど……

渚ちゃんと男の子をめぐって三角関係なんて、想像もしたくない。


「渚ちゃん、バイト大変なら無理しなくても……」

「うーん、実はさあ、最初は美月のために高野君を調べてあげようと思ってたんだけど、バイトって結構面白くて」

「そうなんだ」

「うん、確かにきついんだけど、だからこそやりがいがあるってかんじ。高野君にも借りを返さなくっちゃいけないし」


 最近渚ちゃんとの会話は高野君のことが多い。


「そういえば、なんで美月は高野君好きになったの?」

「それは……秘密」


 渚ちゃんになら言ってもいいかな……とも思ったけれど、ちょっと恥ずかしいので。

 もう2年以上前。私たちが高校1年の頃の話……



 入学してしばらくたった4月のとある日。

 その日、日に日に浅くなる眠りから目覚めたのは、朝の4時。

 4時間しか寝ていない。部活で疲れていたはずなのに……

 寝る前よりもさらに憂鬱になった気持ちでは、もう一度目を閉じる気にはなれず、何となく制服に着替えて学校に行くことにした。


 意味のないおかしな行動。私もそう思う。

 きっと普段と違うことをすることで、この凝り固まって動きにくい現実をどうにかしたかったのだと思う。


 この時間だと人気はまるでない。学校まで徒歩で15分ほどの道のり。薄暗い、夜と朝の境目の不思議な空気は、冷たく澄みきり、とても心地良く、落ち込んだ気分を少しだけ晴らしてくれた。


 学校に着いたのは5時前で、当然校門は閉まっており、正面からは入れない。

 どこか入れる場所はないかと、学校の周りを周ってみる。


 金網のフェンス越しにグラウンドを覗ける場所へ差し掛かると、ボールを蹴る音が聞こえてきた。


 サッカー部だろうか。まだ夜も明けきっていないというのに?

 不思議に思ってグラウンドに目を向けると、どうも部活ではないようだ。というのも、グラウンドでボールを蹴っているのは1人だけだったから。しかも、よくよく見ると、Tシャツにジーンズという、運動をするにはあまり相応しくない格好だった。


 部外者? 私と同年代の男子みたいだけど。


 それにしても……すごい……

 私は目を奪われていた。その動きに。

 サッカーの経験がない私でも分かるほど、その人は上手かった。

 ある連続した動作を繰り返し行っている。ボールと自分の動きは変えず、徐々にスピードだけを上げていく。ここが限界だというスピードに達したら、それを維持したまま数回繰り返し、別の動作に移る。動作はスムーズでボールのコントロールを失うことも重心がぶれることもほとんどない。ずっと見ていると、そこにディフェンス相手が存在するかのような錯覚すら起こす。

 少しコツさえつかめば武術にも応用ができそう。などと、家業のせいかすぐにそちらへ結びつけてしまう悪い癖を自戒する。


 どれくらい眺めていただろう、気が付くと朝日が昇り始め、辺りは白んできていた。


 グラウンドで一人ボールを蹴っていたその人は、朝日に気が付くと、これがラストと言うように一気に動きのスピードをあげ、思いっきりゴールへボールを叩き込……もうとして失敗した。

 そして頭を抱えてその場に寝転がる。

 距離があるため、はっきりとは分からないけれど、笑っているみたい。朝焼けの中、グラウンドに寝転がって笑うその人は、現実感がなく、なんだか映画ワンシーンのようだった。


 しばらく寝転がっていたあと、トンボをかけてどこかへ行くまで、私はずっと見ていた。

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