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一話二章

今回の話しの舞台となる学校に到着です。

「今日はわざわざ休日に来てくださって本当に、ありがとうございます!!」

「いいえ、こちらこそお役にたてれば。それに休日なのはお互い様じゃないですか」

「いえいえそんな…あ、ここが図書室です」


土曜日。

本来は休日のはずだが部活動が盛んな学校なのか、案内されている間廊下で何度か女子生徒とすれ違う。


緋上秋は始めて一人で担当する依頼の詳細を聞く為に依頼者が通う私立高校に出向いていた。

この高校に着いて案内されること約十分ほどだったが驚くことが多くあった。


まず先程の生徒達について。

朝の9時に会う予定で学校には誰もいないものだと思っていたため少し驚いた。そしてこの高校、第一印象は校庭が広く校舎は少し古いというよくある高校と思っていたが校舎に入るとガラリと印象を崩された。

校舎内は慎ましい装飾がされた窓枠や教室扉で広い廊下を最近開発されたばかりの小型自動掃除ロボが動き、空き教室を覗くと黒板がなくプロジェクタが置かれていた。

生徒一人に下駄箱、ロッカー、ノートパソコン、簡易更衣室があたえることで自己管理を身に付け、授業で使われる言語を日本語、英語、中国語、ロシア語のなかから入学の際選びクラス分けに反映し、就職、進学を問わずよりよい人間を育てる方針である、と彼女から渡されたパンフレットに書かれていた。


「ここって最近建てられた学校なんですか?溝口さん」

「いいえ、もうだいぶ古いですよ。確か二百年は経ってたかと。でもこの学校すぐに修理や工事を行って新しいものに造り変えるんです。伝統もあったもんじゃないですよ」

「そうなんですか」


すると前を歩いていた溝口はくるりと秋の方を振り向いてにっこり笑った。

「分からないことはなんでも聞いてくださいね。だいたいのことは応えることができると思うので」

「ありがとうございます。」


彼女は秋を高校に案内する役割らしく着いて早々学校の案内をしてくれていた。秋の緊張を和らげようとしているのかよく笑顔で話しかけてくれる。


「今のところ大丈夫です、けど…」


秋もくるりと後ろを向く。今日は一人で来たのだから振り向く必要はない。

しかし、数メートル後ろでは数人の女子生徒がおり、校舎に入ってからずっとついて来ていた。

それが気になって仕方がない。


「…やっぱり目立ってしまいますね。すみません。こちらも…その、男の方が来られるとは知らなくて」

「いえ、きっと…悪いのはこちらの上司です」


軽くため息を着きながら秋は少し後悔しつつ事務所に帰ったらあの二人にどんな文句を言ってやろうかと考える。


昨日自分を励ましてくれた社員の二人はあのあとこの学校に向かう為の地図と電車、バスの乗り換え案内を渡してくれた。

他に電車代はあとで給料日に含まれて支払われるなどの説明を受けたあと、いつも帰宅のときに利用するバスのなかで気づいた。

地図と乗り換え案内を読んでみても乗り換えや目的地の駅名は分かるが肝心の自分が向かう学校名が書かれていなかった。

不思議に思ったが地図も細かく書かれていたため大丈夫だろうと思いそのまま指定の日時にこの高校にやってきてしまった。

そして後悔した。

電話でもいいから聞けば良かったと。

『本日秋が最も驚いたランキング』をつくるならダントツの一位。


今回の依頼に指定された場所である高校が私立の全寮制女子高だった。


ちなみに初仕事にあたって、真面目な秋は事務所に出勤するときと同じように今日、自分が通っている中学の制服である校章が入ったブレザーで来ていた。

女子高にいるわけがない、いるはずがない男子生徒が校内をうろついている。

目立たないわけがない。


きっとわざと、わざと教えなかったんだろう。


気恥ずかしい思いを堪えつつ折れそうな心のなかで思う。しかし、ふと



どうして今回僕だけなんだろうと思う。


依頼した女子高生がわざわざ通っている高校を場所に選んだのだから今回の仕事の内容は高校、もしくは女子高に関連することなのではないか。

もしそのような依頼だと事務所の中では最も秋が不適切な人間だろう。共学の中学に通う2年生である秋にそのような話しをして解決するのはとても難しいのではないか。

依頼内容は既に支部長は知っているはず、もしかすると正社員である他の二人も知っているかも知れない。

本当に自分一人で大丈夫な依頼なのだろうか?そう考えるとどうにも釈然としなかった。

一体何を考えて…


「あ…えと、どうしよう」

校内を案内してくれながら前を歩いていた溝口が、足を止め明らかにうろたえたかと思うと振り返りながら声をかけてきた。


「えと、少しここで待って頂けますか?いつもならすぐ入れるようになるので…」

「?」


その言いかたが気になった秋は小柄な身体を傾け、溝口の横側から前を覗いた。

いくつかの部屋がある中の一番近くの教室に『生徒会室』と掲示されている。

そしてこの高校の制服を着た女子生徒が一人生徒会室の扉の前に佇んでいた。


「あの、一階フロアをすべて回ったあとに生徒会室にお連れするように言われるんですけど…」

「少し入りずらいですね。あの人はいつもここの前にいるんですか?」

「先生の話しだと朝のホームルームから授業が始まるまでいるそうです。でも、学校が休みでも現れるとは聞いてなかったです…」


その生徒は扉の真正面の位置にいるため入るのは難しそうだった。

女子生徒は男子生徒がいるのに気づいていないのかこちらを向いたりもせず、扉を真っ直ぐに見つめている。

そして彼女が着ている制服も室内靴も彼女の肌や顔全てが透けていて、廊下が続くさまが彼女を通り越して、文字とおり通り越してみえていた。

それをみた秋は溝口より前にでて女子生徒に近づいていった。


「あ、危ないですよ!」


溝口は慌てて秋を止めようとした。もし怪我でもしてらどうなるか。


「あと少しで消える時間になりますから…」

「いや、消える前に関わらないとだめですよ」

「ええ!?」

「必ず理由があるんです。強く思って、思いすぎて自分が気がつかないうちに、思いだけその場に残ってしまう」


知り合いに声をかけようとするように秋の歩調はいたって普通で、それがかえって溝口の不安を強く煽る。

秋は扉の前にいる生徒との距離を詰めて話しながら軽く右手を挙げ、まるで透けている彼女の肩をたたこうとする動作だった。

しかしその手を見た溝口は一瞬身体を震わせた。


「それがどんな思いなのか、分かることが僕の仕事なんです」


一体どこに隠していたのか秋の手には刃物が握られていて、それはドラマなどで強盗が持っていそうなナイフよりも切れ味がありそうに見えたため短刀、と表現されるものだと頭の端で溝口は思った。



そして秋は短刀の切っ先を彼女に向かって降りおろした。


次回はこの世界で起こっていることを明らかにする予定です。

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