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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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母の手料理

作者: 小埜我生
掲載日:2026/07/15

※ややグロ、暴力匂わせ

苦手な方はお気をつけください

日も落ち始める時間帯。

家路につく私の足取りは重い。

公園で友と別れ歩いて行く。


色んな家から様々な香りが漂う。

夕飯の匂いだろう。


家に着くと我が家からも匂いが漏れ出ている。

ガチャ

玄関を開け、ただいまと言い手を洗う。


キッチンからはジューっと何かを焼く音。

ぐつぐつと煮る音。

ピーと米の炊けた音がする。


これは母のステージだ。

料理で奏でる彼女の。


まもなく完成したようで呼ばれる。

ダイニングテーブルには皿に綺麗に盛り付けられた料理たち。

出来たてだからか湯気が匂いとともに立ちのぼる。


「さぁ、召し上がれ」


「いただきます」


私は箸をとり、食事をはじめた。

先程まで鳴っていた音は全て消え、私の咀嚼音だけが体内に響く。

一口、また一口と口へと運ぶ。


「おいしい?」


「うん」


母は、私の返事に気を良くしていた。

作った料理を食べるでもなく、ただただ食べ続ける私をニコニコと眺める。


しかしひたすら食べても料理は減らず、箸の動きは次第にゆっくりとなっていく。

腹は膨れ、いよいよ限界が近かった。


「食べないの?」


ついに私の箸が止まった。

同時に母がそう問いかける。

私の心臓はドクドクと鼓動を早くする。


「ご、ごめんなさい。お腹いっぱいで「せっかく作ったのに!!」

母はテーブルをドンッと叩き立ち上がった。

顔を赤くしてこちらを睨む。


私はひたすらごめんなさいと謝って頭を抱え、椅子の上で丸々。

そんな私に母は何度も同じ言葉を吐きつけ、ドンッ、ドンッ、とテーブルを殴りつける。

その衝撃でコップは床に落ち、ガラスが飛び散る。


母が落ち着く頃には完全に日が落ちていた。

そんなに食べたくないなら食べるなと料理ごとシンクに投げられた皿はまた何枚か割れていた。


私は、慣れた手つきでテーブル、床、シンクを片付ける。

片付けが終わるころ寝室に籠もっていた母が部屋から出てきた。


「明日はちゃんと食べるのよ?」


「はい」


これが毎日繰り返される。

かつては美味しくて好きだった母の料理の味はもう分からない。


「料理ひとつ満足に出来ないのか」

かつて父が母に言った言葉だ。

私は今より子供で当時はよく分かっていなかった。

父という人はあまり家にいなかったし、いても母をいじめるから怖かった。


母は、ひたすら謝るだけで何一つ反抗せず。

父は、私に興味がなかったようで常に無視された。

だから私にとっての家族とは母だけだった。


ある日父はとても酔って帰宅した。

私はすでに寝ていたが父の怒号で目を覚ました。

恐る恐る覗けば父が母を怒鳴っていた。

謝る母は泣いていた。そんな母の目と覗く私と目があった。

父がよそ見するなと更に怒鳴る。


私は怖くて布団に戻ってガタガタと震えた。

母の助けを求める目だけが脳裏に焼き付いていた。


次の日から父は家に帰って来なかった。

私は、怖い人がいなくなった安堵を感じていた。

しかし母は違った。


「美味しい料理をたくさん作れば帰ってきてくれるわよね」


そう言って大量の料理を作った。

けれど父は帰ってこない。


冷蔵庫は食べきれない料理でパンパンになっていった。

一生懸命食べたがそれでもどうしても食べきれず。

少し減らしてと頼めば母はそれまで見たこともない形相を浮かべた。


「料理がないとお父さんが帰って来ないでしょう!!美味しくないから食べないって()()もいうの!?」


初めて母に怒鳴られた。

それから私はただひたすらに食べるしかなかった。


いつしか毎日のように食べれない事を怒鳴られた。

私は謝ることしか出来ない。

それはまるでかつての両親の姿のよう。


父はまだ帰ってこない。

きっと帰ってこない。

父が消えた次の日の食卓には見たこともないお肉が並んでいた。


「おいしい?」


母はそう聞くだけで作った料理に箸はつけなかった。

今日も家に帰ると母の料理を作る音だけが家に響く。

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