クラス対抗戦(後編)
■昼休み
魔獣討伐戦を終えた蒼紫たちは、重い足取りで食堂へ向かった。
席を確保し、一息ついたところで、玲奈が口を開く。
玲奈「午後の団体戦はどうするの?」
蒼紫「……そうだな。玲奈を先鋒にして後はcH順にしようと思う」
玲奈「私が先鋒!?」
土屋「お、いいじゃん玲奈!勢いあるしな!」
紅莉「うん、玲奈ちゃんが最初なら安心できるよ」
澪「私もそう思う……」
夜宵「問題ない」
仲間たちの反応を受け止め、蒼紫は淡々と説明を続けた。
蒼紫「先鋒戦で大事なのは勢いだ。最初の一勝が流れを引き寄せる」
蒼紫「それに、順番を入れ替えることで勝率を上げる狙いもある」
玲奈は短く息を吐き、うなずいた。
玲奈「そういうことね。分かったわ」
蒼紫は深く息を吸い、仲間たちを見回す。
蒼紫「午前の結果から、俺たちは三勝しなきゃならない。でも──このメンバーならできる」
その一言に、沈んでいた空気がわずかに動いた。
昼休みの鐘が鳴る。
午後の団体戦が、静かに幕を開けようとしていた。
■玲奈vs佐々木茂
昼休みが終わり、生徒たちは再び校庭へ集まっていた。
灰原「5vs5団体戦のルールを説明する。」
5vs5団体戦――
各クラスから代表を5人決め、1vs1を5回行う。
一人一勝するごとに300点が加算される。
相手のしっぽを奪うか、分身を消滅させると勝利。
結界の外に出た場合は強制的に敗北となる。
ルール説明が終わり、玲奈と佐々木茂が位置に着く。
佐々木「まさか、相手が女の子とはな」
玲奈「舐められたものね」
玲奈は肩をすくめ、挑発を軽く受け流した。
二人のやり取りを見届け、灰原が手を上げる。
灰原「それでは、試合開始!」
灰原の合図と同時に玲奈が黄色のオーラを放つ。
――瞬間。
黄色の閃光が走り、次の瞬間には玲奈が佐々木の背後に立っていた。
その手には、佐々木のしっぽ。
灰原「勝者、黄瀬玲奈!」
まさに電光石火。
(黄瀬玲奈――。身体能力の高さにcH4.6の強化系魔法の相性は抜群だ。
それはまるで、天からの贈り物のようだ。)
先鋒戦は玲奈の勝利で幕を閉じた。
佐々木茂がどんな魔法を使うつもりだったのか──誰にも分からないままだった。
■澪vs夜部幻斗
玲奈が先鋒戦を終え、戻ってくると賞賛の声が上がる。
土屋「さっすが玲奈!」
夜宵「神速」
紅莉「かっこよかったよ、玲奈ちゃん!」
蒼紫「……ああ」
玲奈は照れたように視線をそらす。
玲奈「べ、別に普通よ。それよりも、澪。次鋒戦、頼んだわよ」
澪「うん!」
玲奈の勝利を見て、澪の胸は高鳴っていた。
(私も……みんなの役に立ちたい!)
一方、対戦相手の夜部幻斗は、どこか無気力だった。
夜部「……面倒だな。さっさと終わらせよう」
二人が位置に着くと、灰原が手を上げる。
灰原「試合開始!」
開始の合図と同時に、澪は飛行魔法で一気に上昇した。
夜部は紫色の霧を展開し、視界を奪う。
蒼紫「……霧か」
結界の中は霧で覆われ、世界が急に静まり返ったように感じられた。
澪は思わず動きを止める。胸の奥に、わずかな不安がよぎる。
(……なに、この感じ……?)
しかし、澪はすぐに頭を振り、気持ちを立て直した。
風魔法を発動させ、霧を吹き飛ばす。
その風と共に、澪が加速する。
(玲奈ちゃんみたいに──!)
澪は一直線に夜部へと突っ込み、しっぽを掴み取った。
澪「やった!」
掴んだ感触は“確かにそこにあった”。
夜部は小さく肩をすくめた。
夜部「やられたよ。君の仲間も喜んでいるみたいだ」
澪は蒼紫の方へ振り返り、右手を掲げる。
だが、その手には何もなかった。
周囲には”無”を掴む澪の様子が映っていた。
背後から、夜部の声が落ちてくる。
夜部「試合はまだ終わってないよ」
澪「……え?」
次の瞬間、澪のしっぽが掴まれていた。
灰原「勝者、夜部幻斗!」
玲奈「何が起きたの?」
玲奈の声に、周囲のざわめきが一瞬だけ止まった。
蒼紫は静かに推測を述べた。
蒼紫「……幻術魔法だ。発動にわずかな準備が必要だから、霧でその時間を稼いだんだろう」
蒼紫「そして、澪にしっぽを取らせたと錯覚させた。」
土屋「一筋縄じゃ行かねーな……」
その場には、夜部幻斗の放つ得体の知れない空気が、じわりと広がっていた。
■紅莉vs水瀬天
澪は状況を呑み込めないまま戻ってきた。
澪「……ごめんなさい」
土屋「ドンマイ!ドンマイ!」
蒼紫「問題ない。残る三人で二勝を掴んでみせる」
紅莉「うん!わたし、頑張るね!」
そう言い残し、紅莉は結界の中へ入っていった。
結界の中に水色の短い髪を揺らす少女が見える。
少女は柔らかな表情で話しかける。
水瀬「水瀬天です。よろしくね!」
紅莉「わたしは神崎紅莉、こちらこそよろしくね!」
軽い挨拶を交わすと、灰原が手を上げる。
灰原「試合開始!」
開始の合図と同時に、紅莉は桃色の火球を放った。
水瀬は水色の膜を重ねて受け止める。
火球の熱が霧散するのを見届け、水瀬は静かに息を整えた。
水瀬「飛行!」
水色の空気が水瀬を押し上げる。
土屋「水と飛行だと!?」
蒼紫「水色の魔法使いであれば飛行魔法は可能だ。」
(澪の飛行を”風”と表現するなら、水瀬の飛行は”空”のようだ)
水瀬は滑るように接近してくる。
紅莉は火の鳥を放ち、複雑な軌道で追尾させたが──
水瀬は水の膜を次々と展開し、すべて受け止めた。
距離を詰められた紅莉は、炎の渦で身を守る。
だが、水瀬も同時に水のベールを纏い、炎を押し返す。
そのまま紅莉の背後へ回り、しっぽを奪い取った。
灰原「勝者、水瀬天!」
紅莉は悔しげに唇を噛んだ。
■蒼紫vs暁熱志
紅莉が戻ってくると、肩を小さく震わせながら俯いた。
指先はぎゅっと握られ、悔しさを隠しきれていない。
紅莉「……湊くんに繋げたかったのに」
声はかすれていて、今にも泣きそうだった。
蒼紫は一瞬だけ紅莉を見つめ、静かに言葉を落とす。
蒼紫「ちゃんと届いてる」
その一言だけを残し、蒼紫は結界の中へ入っていった。
結界の中には赤髪の男が仁王立ちしていた。
暁「俺は暁熱志。赤の魔法使いだ、よろしくな。」
蒼紫「……湊蒼紫だ。戦う前に色を教えてもいいのか?」
暁は豪快に笑った。
暁「ああ!全力で戦いたいからな!」
蒼紫は、暁から立ち上る真っ直ぐな熱を感じ取った。
蒼紫「俺は青の魔法使いだ。悪いが勝たせてもらう。」
蒼紫は冷静だが、こういう熱い男は嫌いではなかった。
会話が終わると、灰原が手を上げる。
灰原「試合開始!」
開始の合図と同時に、暁は赤い火球を放った。
紅莉のよりも大きく、色も濃い。
蒼紫は瞬時に水の膜を何枚も重ねる。
次の瞬間――水の膜が爆ぜ、水しぶきが散った。
暁の火球は黒龍の灼熱より強力だった。
(……威力が桁違いだ)
蒼紫は反撃に転じ、氷の槍を放つ。
暁は即座に炎の膜を展開し、槍を溶かしきった。
暁「なかなかやるな、蒼紫!お前、cHはいくつだ?俺は5.3だ」
蒼紫「……5.0だ」
暁「なるほどな。そりゃあ、あの防御も納得だ!」
暁は嬉しそうに笑みを深める。
暁「……よし。じゃあ次は、俺の本気を受け止めてみろ」
蒼紫「……望むところだ」
暁「ヘルフレア!」
叫んだ瞬間、暁の前に真紅の炎が凝縮し、太陽のような“炎の球”が生まれた。
それは、触れたものをすべて焼き尽くす未来を容易に想像させる。
蒼紫は巨大な水の膜を一気に形成し、それらを重ねてひとつの“滝”へと変えた。
頭上から流れ落ちる水は轟音を立て、赤炎に立ち向かう壁となる。
滝は赤炎を飲み込み、蒸気と水しぶきを撒き散らした。
蒼紫「……お前の本気、確かに伝わった。なら、俺も応える」
蒼紫は静かに右手を突き出す。
蒼紫「……アクアブレード」
――瞬間。
一筋の青い線は、目にも止まらぬ速さで暁熱志の分身を貫いた。
灰原「勝者、湊蒼紫!」
蒼紫は深く息を吐き、わずかに笑った。
(……熱い戦いだった)
■夜宵vs黒崎影太
蒼紫が一勝を掴み取り、団体戦は二勝二敗となった。
玲奈「なかなかやるわね」
紅莉「かっこよかったよ!湊くんっ!」
蒼紫「……ありがとう。……あとは夜宵が決めるだけだ」
夜宵は静かに前へ出る。
夜宵「任せなさい」
澪「頑張ってね、夜宵ちゃん!」
土屋「夜宵なら勝ったも同然だな」
その声援を背に、夜宵は結界へと歩みを進めた。
結界の向こう側には、黒い影のように佇む少年がいた。
黒崎影太。
その存在だけで、空気がわずかに沈む。
影太は視線を上げ、夜宵を静かに見据えた。
その瞳には、熱も焦りもない。ただ深い闇のような静けさだけがあった。
黒崎「……よろしく」
夜宵「……ええ」
二人は短い挨拶を交わし、試合はすでに始まろうとしていた。
灰原「この試合に勝ったクラスが勝利だ。試合開始!」
夜宵は挨拶代わりに紫色の光束を放つ。
光束は黒崎を完全に覆い尽くした。
土屋「やったぜ!」
蒼紫は少し視線を落とした。
(黒崎影太。B組の大将が、あれで終わるはずがない)
光が晴れると、そこには真っ黒な影だけが残っていた。
土屋「まじかよ……!」
影の中から黒崎が姿を現す。
黒崎「どんなに強力な魔法でも、“影”には無力」
黒崎は右手に黒い鞭を生み出し、振り下ろした。
夜宵は即座にバリアを展開する。
しかし――
黒鞭はバリアをすり抜けた。
夜宵は身をひねって直撃を避ける。
蒼紫は静かに結界の中を見ていた。
(影に攻撃が通らないなら、影の攻撃が防御をすり抜けるのも当然か。
そして、この魔法にはおそらく弱点がある。
影に潜っている間は攻撃ができない。
また、影に潜っている間は魔力を消費し続けるだろう。
夜宵がどのように対処するかが見ものだ。)
夜宵は右手を軽く振り、黒崎の周囲に紫色の“星”を散りばめた。
黒崎は警戒し影に潜る。
しかし何も起きない。
黒崎は一瞬だけ姿を現し、また影に潜る。
(……罠か? だが、どういう……)
影の中で黒崎は夜宵の意図を探ろうとする。
だが、ずっと潜り続けるわけにもいかない。
黒崎は姿を現し、黒鞭を構えた。
――瞬間。
紫色の星々が一斉に爆ぜた。
黒崎が影に戻る隙を与えぬまま。
黒崎の分身は光に呑まれ、霧のように消えた。
灰原「勝者、紫条夜宵!」
大将戦は夜宵の勝利で幕を閉じた。




