クラス対抗戦(前編)
■クラス対抗戦(前編)
クラス対抗戦の日は、あっという間に訪れた。
午前中は全員参加の集団戦が行われる。
校庭には、開始を待つ生徒たちのざわめきが広がっていた。
B組の担任・桃園愛先生は審判に回るため、
進行はA組担任の灰原先生が務めることになっていた。
灰原先生が一歩前に出ると、ざわめきがすっと静まった。
灰原「午前の集団戦は、クラス全員による魔獣討伐だ」
灰原は続ける。
灰原「魔獣討伐の討伐時間を競ってもらう」
その一言に、生徒たちがどよめく。
「魔獣!?」
灰原は紫色のオーブに手を添え、淡々と説明を続けた。
灰原「心配するな。安全のため、分身魔法を使用する。」
灰原「ただし、分身が消滅した場合はペナルティーが課される」
低く通る声が校庭に響く。
灰原「今から魔獣討伐戦のルールを説明する。」
魔獣討伐戦――。
各クラス持ち点は1500点。
制限時間は20分で、討伐に要した”秒数”がそのまま減点となる。
分身が一体消滅するごとに-10点。
生徒の人数が一人になった時点で強制終了。
さらに灰原は午後の団体戦についても触れた。
灰原「午後の5対5の団体戦は、一勝につき300点が加算される」
ざわめきが再び広がる。
灰原「――魔獣討伐の前に、10分だけ作戦会議の時間を与える」
その瞬間、クラス全体が一気に動き出した。
白馬は表情を引き締め、すぐに声を上げる。
白馬「陣形は6人1組でいこう。連携の練習もしていたしね」
Aクラスの生徒たちは一斉にうなずいた。
白馬「山田君、水町君、田中君、湊君。君たちは各班の指揮を頼む」
蒼紫は静かに頷く。
土屋「頼んだぜ!指揮官!」
紅莉「何でも言ってねっ!」
玲奈「あんたなら問題ないわね」
澪「そうだね」
夜宵「期待してるわ」
あっという間に10分が過ぎ、灰原が再び前に出る。
灰原「それでは今から分身魔法を付与する」
灰原は紫色のオーブに手を当てイメージする。
瞬間、薄い紫色を帯びた分身が生成された。
灰原「痛みはないが、強い衝撃を受ければ分身は消える。」
灰原は続ける。
灰原「万が一分身を解除したい場合は、”分身解除”と唱えろ」
灰原は透明なオーブへ手を伸ばす。
灰原「転移先に魔獣がいる。――倒してこい」
灰原「準備はいいな」
全員がうなずく。
灰原「試合開始!」
透明なオーブが光り、生徒たちの分身が一斉に転移した。
■魔獣討伐戦
転移光が収まった瞬間、蒼紫たちの目の前に──黒い影が立っていた。
「……ドラゴン!?」
闘技場に響く轟音。
試合はすでに始まっている。
蒼紫は反射的に指示を飛ばした。
蒼紫「夜宵、最大火力で攻撃だ」
夜宵「了解。──消えなさい」
夜宵の手のひらに紫光が集束し、次の瞬間、放たれた。
それはもはや“線”ではなかった。
――光の柱。
紫色の奔流が地面を削りながら伸び、黒龍の巨体を丸ごと飲み込む。
眩光が周囲を染め、影ひとつ残さず塗り潰した。
(……相変わらず化け物じみた火力だ。cH5.6の魔力量に、天才的な制御精度。
紫条夜宵──A組でも頭ひとつ抜けている)
蒼紫は一瞬、黒龍よりも夜宵の方に意識を奪われた。
夜宵が短く息を吐く。
「……ありえない」
蒼紫は正面に視線を戻す。
そこに立っていた。
無傷の黒龍が。
光の柱に包まれていたはずのその巨体は、焦げひとつなく仁王立ちしている。
まるで何事もなかったかのように静止したまま──その存在だけが異様な圧を放っていた。
「嘘……だろ……」
いつもは冷静な蒼紫が、一瞬だけ動揺を見せた。
黒龍が喉を震わせ、わずかに首を傾けた。
反撃の予兆。
「来る!」
蒼紫が叫んだ瞬間、黒龍の口腔に紅が灯り、烈火が奔った。
蒼紫は水の膜を何枚も重ね、班のメンバーを守る。
気づけば、蒼紫と白馬の班以外は灰になっていた。
圧倒的な黒龍の力に、一同は息を吞んだ。
玲奈「……何よ、これ」
土屋「つ、強すぎる……」
紅莉「……湊くん」
白馬「どうする、湊君?」
蒼紫は短く考え、判断を下す。
蒼紫「玲奈、物理攻撃だ!」
玲奈は即座に意図を理解する。
玲奈「任せなさい!!」
玲奈が黄色のオーラを纏い黒龍に殴りかかる。
強化された拳が黒龍に叩き込まれるが、巨体は微動だにしない。
玲奈「全然効いてる気がしないわ!」
蒼紫は分析を進める。
(普通のドラゴンじゃないな……)
蒼紫「時間が欲しい。夜宵、みんなを守ってくれ」
夜宵「了解」
夜宵は紫色の多重バリアを展開する。
その防御は、どんな攻撃でも防ぎ切るかのような安心感があった。
土屋「夜宵ちゃん、すっげー……」
玲奈「規格外ね」
白馬が蒼紫に声をかける。
白馬「普通のドラゴンじゃないね」
蒼紫「……ああ」
蒼紫は思考する。
なぜ物理も魔法も通らないのか。
なぜ集団戦で魔獣討伐なのか。
そして、一つの結論にたどり着く。
蒼紫「……連携魔法」
蒼紫は紅莉と澪に声をかけた。
蒼紫「紅莉、澪。試してほしいことがある……」
紅莉・澪「うん……」
二人は息を合わせ、右手を掲げる。
紅莉の炎と澪の風が合わさり、熱風となって黒龍に襲いかかる。
黒龍は苦悶の咆哮を上げ、灼熱を解き放つ。
だが、夜宵の結界はそれを通すことはなかった。
土屋「効いてる!効いてるぞ!」
白馬「その調子だ」
連携魔法が通用することが分かり、蒼紫は胸を撫で下ろす。
だが、まだ火力が足りない。
蒼紫「夜宵、例えば──こういうのはできるか?」
夜宵「不可能はない」
蒼紫は即座に指示を出す。
蒼紫「俺、白馬、土屋でみんなを守るぞ!夜宵は紅莉と澪をサポートしてくれ」
白馬・土屋・夜宵「了解!」
夜宵はバリアを解除し、紅莉と澪の元へ駆け寄る。
夜宵「手伝うわ」
紅莉「心強いよ!」
澪「ありがとう!」
夜宵は二人の背中に手を置いた。
夜宵「魔力増強!」
紫色のオーラが二人を包んだ瞬間──
風は勢いを増し、炎は色を濃くした。
灼熱が黒龍を焼き尽くす。
灰となった黒龍を確認し、紅莉と澪は手を合わせた。
紅莉・澪「やったー!」
その姿を見て、夜宵は満足げに微笑む。
白馬「上手くいったね」
蒼紫「……ああ」
魔獣討伐は成功したが、予想以上に時間がかかった。
さらに脱落者18名。
決して良い結果とは言えない。
一方、Bクラスは序盤から全員で連携し、Aクラスより早く討伐を終えていた。
――結果。
Aクラス
討伐時間:10分13秒(-613点)
脱落者:18人(-180点)
合計:707点
Bクラス
討伐時間:7分20秒(-440点)
脱落者:6人(-60点)
合計:1000点
得点差は293点。
これを覆すには、午後の団体戦で三勝するしかない。
午前中の集団戦はA組の敗北で幕を閉じた。




