蒼紫の策
■蒼紫の策
白馬「5人目の代表は翠川さんで決定だね」
白馬は素直に敗北を認め、委員長としての役割を全うしていた。
白馬「順番は5人に任せてもいいかな」
5人は顔を見合わせ首を縦に振る。
白馬「集団戦は当日にルールが発表される。個人の魔法と、連携の練習をしておいてほしい」
白馬の締めで、皆は寮へ向かった。
男子寮に戻る途中、土屋が興奮気味に話し始める。
土屋「いや~今日の試合はどれも凄かったな!」
蒼紫「そうだな」
土屋「山田も良かったけど、相手が悪すぎたな」
蒼紫「白馬の動きに無駄がなかった」
ちょうど寮の入口が見えてきた頃、背後から声がかかった。
白馬「湊君、ちょっといいかな」
蒼紫は足を止め、振り返る。
蒼紫「……ああ」
白馬は少し歩み寄り、真剣な表情で口を開いた。
白馬「単刀直入に聞くけど、翠川さんの作戦は湊君が考えたのかな?」
蒼紫「そうだ」
蒼紫は視線を落とし、淡々と語り始める。
蒼紫「山田との闘いを見て、白馬の戦闘には無駄がないことは分かっていた」
一度言葉を切り、静かな空気が流れる。
蒼紫「そして、澪に勝つには飛行が必要になるのも予想できた」
蒼紫「澪の風魔法では白馬のしっぽを狙うのは難しい。だから狙いを“しっぽ”ではなく“白馬本人”に変えた」
白馬は黙って聞き、わずかに頷く。
蒼紫は続けた。
蒼紫「風で相手を傷つけるのは違反だが、場外に押し出すのは問題ない」
蒼紫「白馬の加速に合わせて、澪の風でさらに加速させた」
白馬「見事な作戦だったよ」
蒼紫「……白馬の対応力も大したものだ」
白馬は場外に出され翼を失った瞬間、迷いなく新たな翼を形成していた。
その判断の速さは、誰の目にも明らかだった。
白馬は少し表情を緩め、問いかける。
白馬「一つ教えてほしい。僕が受けた風魔法が見えなかったのは何でかな?」
蒼紫「あれは普通の風だからだ」
白馬が目を瞬かせると、蒼紫は淡々と説明を続けた。
蒼紫「魔法を使う時は本人の色が魔法に反映されやすい」
蒼紫「ただ魔法が洗練され、多くの魔力を消費すれば、魔力の乗っていない本物の風を出すことが出来る。」
蒼紫「澪はこの一週間で、無色の風魔法と飛行魔法を習得した」
白馬「翠川さんの努力の賜物だね」
蒼紫は少しだけ目を細めた。
蒼紫「努力家の澪なら一週間で習得できるのは想定内だった」
蒼紫「だが今日の試合で、澪の“器用さ”には驚かされた」
白馬「器用さ?」
蒼紫「澪は3つの魔法を同時に扱ったんだ」
白馬は息を呑む。
蒼紫「黄緑の風で白馬にシールドを張らせて油断を誘い」
蒼紫「無色の風で白馬を加速させ」
蒼紫「最後に飛行でその加速を躱した」
蒼紫「この三つを正確に、同時に行った。魔法の器用さで言えば、クラスでも群を抜いている」
白馬「湊君の作戦に、翠川さんの努力とセンス。今日は完敗だよ」
白馬の素直な言葉に、蒼紫はわずかに目を伏せた。
その横顔を見て、白馬が人気な理由が自然と理解できた。
白馬「湊君の作戦に翠川さんの努力とセンス、今日は完敗だよ」
感心したように負けを認める白馬を見て、白馬が人気な理由が理解できた。
蒼紫「俺からも一つ聞いていいか?」
白馬「なんだい?」
蒼紫「5人目の代表は白馬でも良かったんじゃないか」
白馬「どういうことかな?」
蒼紫は少し視線を落とし、言葉を選ぶように口を開く。
蒼紫「cHは同じ4.2だが、山田戦での圧倒的な勝利……」
そこで一度言葉を切り、白馬の反応をうかがった。
蒼紫「おそらく相手が水町でも負けなかっただろう」
蒼紫「俺が策を授けなければ、澪も負けていただろうな」
白馬は黙って聞き、わずかに目を細める。
蒼紫は静かに言葉を続けた。
蒼紫「白馬が代表になっても十分活躍できたはずだ」
廊下の静けさが蒼紫の声を際立たせる。
蒼紫「なのに、なぜ一週間も猶予を設けた?」
蒼紫「……一週間あれば、澪は確実に伸びる。白馬も分かっていたはずだ」
白馬は少し笑った。
白馬「僕は見たかったんだ。努力家の翠川さんと要領のいい湊君が手を組んだら、どこまで伸びるのか」
白馬は視線を蒼紫へ向け、穏やかに続ける。
白馬「結果は僕の予想をはるかに超えた。事実、僕を打ち破ってみせた」
静寂が二人の間に落ちる。
白馬「……湊君。僕は紫条さんより、君の方が手強いと思っているよ」
その言葉に、蒼紫は小さく息を呑んだ。
蒼紫「……試されていたのか」
寮の灯りが二人の影を長く伸ばす。
蒼紫はそっと視線を白馬へ向けた。
(白馬翔。同じクラスでよかったとつくづく思う)
白馬は歩き出す前に、ふと振り返る。
白馬「団体戦の活躍、楽しみにしているよ」
その言葉を残して、白馬は寮の中へ消えていった。
蒼紫はしばらくその背中を見送っていた。




