クラス対抗戦準備
■学級委員長・白馬翔
放課後の一年A組。
窓から差し込む夕陽が教室を淡く染め、いつもより静かな空気が漂っていた。
教壇に立つのは、白い髪を柔らかく揺らすクラス委員長——
白馬翔。
色は白。創造魔法に長け、攻撃も防御もそつなくこなす万能型。
cH4.2という優秀な数値に加え、明るく誰にでも分け隔てなく接する性格で、クラス内外からの人気も高い。
蒼紫から見ても、白馬は“能力も人柄も整った優等生”だ。
白馬「みんな、集まってくれてありがとう。今年のクラス対抗戦について、正式に説明するよ」
その声は穏やかで、けれど不思議と人を惹きつける力がある。
教室の空気が自然と引き締まった。
白馬「一年A組と一年B組が戦う、年に一度の大イベント。前半は“集団戦”、後半は“5対5の団体戦”。どちらも勝敗に大きく関わる重要な戦いだ」
ざわり、と教室が揺れる。
玲奈「やっぱり5対5あるのね……!」
夜宵「面倒だけど、勝つわよ」
土屋「俺も出たいんだけどなぁ〜!」
白馬は微笑みながら続ける。
白馬「5対5の団体戦メンバーは、基本的にはcHの高い順で決めていいかな?」
白馬の問いに、教室のあちこちでうなずきが返る。
白馬「じゃあ、上から順に——紫条さん、湊くん、黄瀬さん、神崎さん。この4人は文句なしで決定だと思う」
玲奈「まあ、そうなるわよね」
土屋「で、5人目はどうするんだ?」
白馬は少しだけ表情を引き締めた。
白馬「そこが悩みどころなんだ。神崎さんの次にcHが高いのは、僕と山田くんの4.2」
山田「お、おう……!」
白馬「それから、水町くん。cH4.0で身体能力も高い。候補に入れていいと思う」
水町「……まあ、やれるだけやるよ」
白馬は一度言葉を切り、教室を見渡した。
白馬「そして——今回の測定で驚異的な伸びを見せた翠川さん。この成長は無視できない」
その瞬間、教室の視線が一斉に澪へ向いた。
澪「えっ……わ、わたし……?」
紅莉「澪ちゃんなら出来るよ……!」
玲奈「伸び率だけならアンタが一番よ」
夜宵「……当然ね」
蒼紫は静かに澪を見つめていた。
白馬「5人目の候補は今の4人として、問題は決め方だ。何かいい方法はないかな?」
教室が静まり返る。
誰もすぐには答えられず、思考する空気が広がった。
その沈黙を破ったのは、玲奈だった。
玲奈「……だったら、4人でトーナメントでもやれば?実戦形式なら、実力も判断力も一番わかりやすいでしょ」
土屋「おお、それいいじゃん!」
紅莉「たしかに公平でいいと思う!」
夜宵「実戦で決めるのは妥当ね」
白馬は少し驚いたように目を瞬かせ、すぐに微笑んだ。
白馬「玲奈さん、いい案だね。じゃあ——候補4人でトーナメントをして、勝った人を5人目にしよう」
その瞬間、澪の胸が大きく跳ねた。
澪(……わたしも……戦える……?みんなと一緒に、5対5に……出たい……!)
白馬「対戦日は来週の金曜日の放課後。対戦相手は……くじ引きで決めようか」
白馬が箱を持ってくると、候補4人が順番に手を入れた。
引き終えた紙を開く。
白馬「——初戦は、翠川さん vs 水町くん、僕 vs 山田くんになるね」
水町「女子だからって手加減しないぜ、翠川」
澪「望むところです!」
玲奈「私たちで練習付き合うから、一緒に頑張ろう!」
蒼紫「……澪ならできるよ」
土屋「応援してるぞ! 澪!」
澪「みんな……ありがとう……!」
蒼紫は澪の瞳の奥から、小さく闘志が灯るのを感じた。
■澪の特訓
休日、蒼紫たちは中庭に集まり、澪の特訓を行おうとしていた。
校舎の影が落ちる静かな中庭には、まだ朝の冷たい空気が残っている。
玲奈「よし、全員そろったわね。澪、覚悟はいい?」
澪「……はいっ!」
紅莉「澪ちゃん、一緒に頑張ろうね……!」
夜宵は腕を組んだまま、少し離れた場所から澪を見ていた。
夜宵「……教えるのは得意じゃない。澪の成長を見守るのみ」
玲奈「アンタは天才すぎて教えるの向いてないのよ」
夜宵「事実を言われても困るわね」
玲奈は軽く肩をすくめ、澪の方へ向き直る。
玲奈「まずはルールの確認からね」
澪「うん」
玲奈「簡単に言うと、魔法ありの“しっぽ取り”。ただし、相手を傷つける行為は禁止。ここまでは大丈夫?」
澪「はい!」
玲奈「で、問題は対策よ。こういうのは蒼紫に聞くのが一番。ちょうど初戦が“青”の水町だしね」
玲奈が視線を向けると、蒼紫は静かに一歩前へ出た。
蒼紫「……じゃあ、始めようか」
蒼紫は短く息を整え、頭の中で考えをまとめる。
その場の視線が自然と彼に集まった。
蒼紫「まずは、澪が使える魔法の確認からしよう。どんな魔法が使える?」
澪「えっと……風の魔法と、治癒の魔法だけ、かな」
蒼紫「十分だよ。ただ今回は相手を傷つける行為が禁止だから、実質使えるのは風魔法だけになる」
澪「……そっか」
蒼紫「大事なのは“風魔法の使い方”だ」
澪「使い方……?」
蒼紫「攻めと守りで、魔力の流し方を変えるんだ」
蒼紫は淡々と説明を続けた。
蒼紫「俺が水町の立場なら、まず澪の風魔法を警戒する。水のベールで身体を覆って、風の衝撃を減らすはずだ」
玲奈「水町ならやりそうね。あいつ、意外と頭使うし」
蒼紫「だから“攻め”では、その守りをどう崩すかを考える必要がある」
澪「……どうやって崩すの?」
蒼紫「それは後で実際にやってみよう。次に“守り”。水町は身体能力が高い。だから、距離を取る技術が必要になる」
蒼紫は風魔法の本を開き、あるページを指さした。
蒼紫「澪がまず覚えるべき風魔法は……これだ」
紅莉が思わず息をのむ。
紅莉(……湊くん、説明がすごく丁寧……いつもは無口なのに……)
蒼紫は淡々と説明を続けていた。
蒼紫は一通り説明を終え、風魔法の本を閉じた。
蒼紫「……じゃあ、実際に動いてみようか」
その言葉に、玲奈がふと眉をひそめる。
玲奈「ちょっと待って。その“水のベール対策”って……濡れるやつじゃない?」
蒼紫「……ああ。だから、濡れてもいい服に着替えてくる」
玲奈「はぁ!? なんで先に言わないのよ!」
紅莉「そ、そうなんだ……じゃあ、私たちはここで待ってるね……」
澪「……ありがとう、蒼紫くん。私のために、そんな……」
蒼紫「気にしなくていい。必要なことだから」
土屋「蒼紫、意外とストイックだな……!」
蒼紫は淡々と頷き、更衣室へ向かった。
数分後、戻ってきた蒼紫は水着姿だった。
細身の体に、無駄のない筋肉が静かに浮かんでいる。
玲奈「……っ、あんた……意外と鍛えてるじゃない……」
紅莉「……すご……湊くん、かっこいい……」
土屋「見かけによらず細マッチョだな!」
澪は思わず息をのんだ。
澪(……蒼紫くん……こんな体してたんだ……)
蒼紫はそんな視線に気づく様子もなく、いつも通りの無表情で言った。
蒼紫「……じゃあ、続けようか。今から水のベールで身体を覆うから、さっき言った通りにやってみて」
蒼紫の周囲に水の魔力が集まり、薄い膜のような“水のベール”が全身を包み込む。
澪は一歩前へ出て、右手をそっとベールに触れた。
次の瞬間、澪は指先に魔力を流し込む。
澪「……っ!」
触れた部分の水流が一気に乱れ、ベールの表面に小さな穴が開く。
その穴は瞬く間に広がり、水のベール全体が“破裂するように”崩れ落ちた。
蒼紫「……その調子だ」
澪は間髪入れず、左手に魔力を込める。
風が集まり、鋭い一撃となって蒼紫の背後へ走った。
風がしっぽ代わりのタオルを捉え、ふわりと澪の方へ飛んでくる。
澪「……取れた!」
タオルが澪の手に収まった瞬間――
玲奈は思わず一歩跳ねるように前へ出た。
玲奈「ちょっ……今の、完璧じゃない!?」
紅莉は胸の前で手を握りしめ、目を潤ませながら言った。
紅莉「澪ちゃん……すごいよ……!」
蒼紫「……上出来だ」
蒼紫の口元が、わずかに緩んだ。
蒼紫「これができれば、水町の守りは崩せる」
蒼紫は視線を澪へ向け、淡々と続ける。
蒼紫「……次は守りだ。水町の身体能力に対応しつつ、水に足を取られない方法を考える必要がある」
玲奈「確かに……青の魔法使いなら足元を警戒すべきね」
蒼紫「だから、澪には風の力で“飛行”する魔法を覚えてもらう。地面にいる限り、水町の水流に捕まる」
澪「……飛行魔法って、かなり難しいんじゃ……」
玲奈「そうよ。普通は上級者向けでしょ?」
蒼紫「推奨cHは4.5だ。…………だが、魔法はcHだけで決まるものじゃない」
澪は驚いたように顔を上げた。
蒼紫「澪は基本に忠実だし、努力を怠らない。俺は澪なら出来ると判断している」
澪は驚いたように目を見開いた。
澪「……わ、私でも……?」
蒼紫「ああ。できるよ」
その一言が胸に染みて、澪の表情は希望に満ちていった。
紅莉はその様子を見つめながら、蒼紫の“静かな確信”に心を揺さぶられていた。
紅莉(……湊くんって……こんなふうに人を見てるんだ……)
彼の淡々とした声の奥にある優しさに、紅莉の胸はふわりと温かくなる。
――代表決定戦まで、残り1週間。
蒼紫の指導のもと、澪の特訓はさらに熱を帯びていく。
そして、運命の日が静かに近づいていた。




