クラス対抗リレー
■クラス対抗リレー
個人種目を終えた生徒たちは、クラス対抗リレーの準備に入っていた。
校庭にはトラックが描かれ、赤と白の鉢巻が入り混じる。
空気はすでに熱を帯びている。
蒼紫は第一走者としてスタート地点に立った。
赤い鉢巻を結び直し、深く息を吸う。
その横から、白い鉢巻を締めた暁が勢いよく近づいてきた。
暁「よお、蒼紫! やっぱり来たか!」
声は弾んでいて、まるで蒼紫との再戦を待ち望んでいるようだった。
蒼紫は横目で暁を見て、わずかに笑う。
蒼紫「……俺も暁と走りたかった。だから順番を変えてもらった」
暁の目がさらに大きく開く。
暁「マジかよ! 最高じゃねぇか!」
性格は対照的だが、蒼紫と暁は不思議と相性が良かった。
生徒の準備が整うと、スターターが手を上げる。
「位置について――!」
蒼紫は前を見据え、足に力を込めた。
暁も同じ姿勢で、口元に挑むような笑みを浮かべる。
「よーい――」
風が止まり、空気が張りつめる。
「――ドン!」
二人は同時に地面を蹴った。
砂が跳ね、赤と白の鉢巻が並んで風を切る。
スタート直後から、二人はまるで競り合うように肩を並べた。
蒼紫の静かな集中と、暁の爆発的な加速。
タイプの違う走りが、同じ速度でぶつかり合う。
二人の足音がトラックに響き、観客席から歓声が上がる。
一年生とは思えないスピードに、上級生たちもざわついた。
バトンゾーンが近づく。
どちらが先に仲間へ繋ぐか――勝負はほんの数歩の差。
二人の速さはほぼ互角だったが、先にバトンを渡したのは暁だった。
蒼紫は走り終えると、空を見上げて息を吐いた。
(……俺の負けか)
そこへ暁が駆け寄ってくる。
暁「いい勝負だったな、蒼紫!」
蒼紫「……ああ。楽しかった」
暁は満足げに笑い、蒼紫の肩を軽く叩いた。
二人の間にだけ、走りの熱が残っているようだった。
その後も一年A組とB組のリレーは互角のまま進み、順位は何度も入れ替わった。
そして迎えた最終走者――アンカーの玲奈が、圧倒的なスピードでトラックを駆け抜ける。
玲奈はそのままトップでゴールテープを切り、一年A組の勝利が決まった。
■昼休み
蒼紫たちは午前の種目を終え、食堂で昼食をとっていた。
土屋「いやぁ~午前のリレーはいい勝負でしたな~」
澪「玲奈ちゃんの走り凄かった!」
夜宵「さすが玲奈」
玲奈「まあまあってとこね」
その横で、紅莉が勢いよく身を乗り出す。
紅莉「蒼紫くんもかっこよかったよ!」
紅莉は興奮気味に蒼紫を見つめていた。
蒼紫は少し照れたように肩をすくめる。
蒼紫「……負けたけどな」
すると玲奈が、ぱしんと蒼紫の背中を叩いた。
玲奈「何言ってるのよ。次勝てばいいでしょ!」
紅莉も慌てて頷く。
紅莉「うん! 午後も頑張ってね!」
蒼紫は苦笑しながら、箸を取り直した。
蒼紫「……ああ。午後も気合い入れるよ」
蒼紫たちは昼食を終え、食堂をあとにしようとしていた。
食べ終えた食事を片付けると、左右からひんやりした気配が寄ってくる。
凛「やっほー、蒼紫くん!」
冷「……遊びに来た」
振り返ると、氷山凛と氷山冷――二年A組の双子の先輩が立っていた。
蒼紫「……氷山先輩。何か用ですか?」
凛はにこっと笑い、蒼紫の前にすっと立つ。
凛「午前のリレー、見てたよ〜。あれ、めっちゃ良かった!」
冷は無表情のまま、蒼紫の肩あたりをじっと見つめる。
冷「……動き、安定。反応も悪くない」
蒼紫は思わず半歩下がったが、双子は同じ歩幅でついてくる。
紅莉「氷山先輩……蒼紫くん、午後の競技があるので……!」
紅莉が慌てて蒼紫の横に立つ。
玲奈も腕を組んで前に出た。
玲奈「先輩たち、蒼紫はA組のエースなんですから。あんまり絡まないでください」
凛はくすっと笑い、冷は静かに瞬きをした。
凛「あー蒼紫くんと一緒に走ってた子だ!」
冷「……蒼紫くん、ハーレム」
蒼紫「……勘弁してください」
そう言った瞬間だった。
双子が同時に一歩踏み込み、蒼紫の左右から顔を寄せる。
ちゅっ。
凛と冷が、蒼紫の頬に軽く口づけを落とした。
蒼紫「――っ!?」
紅莉「えっ……えええええっ!?」
玲奈「ちょ、ちょっと!? なにしてんのよ先輩!!」
紅莉は真っ赤になって顔を隠し、玲奈は怒りで声が裏返る。
凛は楽しそうに笑い、指を立てて言った。
凛「この前の仕返しだよ〜?」
冷「……不意打ち、返し。これでイーブン」
蒼紫「いや、全然イーブンじゃないんですけど……」
凛はひらひらと手を振り、冷は無表情のまま小さく頷く。
凛「午後も頑張ってね、蒼紫くん〜」
冷「……観察、続行」
双子はそのまま去っていった。
紅莉はまだ顔を覆ったまま震えている。
紅莉「……蒼紫くんのほっぺ……」
玲奈「落ち着きなさい紅莉! ていうか蒼紫、あんたも何されてんのよ!」
蒼紫「……俺が聞きたい」
蒼紫はため息をつき、額の鉢巻を押さえた。
紅莉と玲奈がまだ騒いでいる横で、蒼紫はそっと視線を前へ向ける。
頬の熱も、双子に振り回された疲れも、すべて一度胸の奥に押し込んだ。
午後には代表戦が控えている。
蒼紫は気持ちを切り替えるように深く息を吸い、静かに歩き出した。




