体育祭開幕
■開会式
体育祭の日はあっという間に訪れた。
校庭に集合の号令が響き、全学年が整列していく。
朝の空気は少しひんやりしているのに、どこか熱を帯びていた。
A組の生徒は赤い鉢巻を着け、B組の生徒は白い鉢巻を着けている。
異なる色が並ぶだけで、すでに火花が散っているように見えた。
やがて、生徒たちの前に体育祭担当の赤沢が歩み出る。
赤沢「これより体育祭を開会する」
その一言で、ざわめきがすっと引き締まった。
赤沢「優秀な魔法使いは魔法だけでなく心身ともに優れている。今日はその力を、仲間とともに存分に見せてくれ」
開会式が終わり、蒼紫は赤い鉢巻を押さえながらA組のテントへ向かった。
テントの中は、すでに仲間たちの熱気でむんとした空気が満ちている。
紅莉がぱっと振り向き、明るい声を上げた。
紅莉「頑張ろうね、みんな!」
澪「う、うん……が、頑張る……!」
夜宵「ええ。やるべきことをやるだけ」
土屋「おっしゃー!燃えてきたぜ、A組いくぞー!」
玲奈「私の走り、しっかり見ておきなさいよ?」
蒼紫はその様子を見て、自然と口元が緩んだ。
蒼紫「……みんな、気合い入ってるな」
紅莉がにこっと笑い、蒼紫の腕を軽くつつく。
紅莉「蒼紫くんも、ね?」
蒼紫「……ああ」
赤い鉢巻が風に揺れ、A組の空気がひとつにまとまっていく。
まるで、これから始まる戦いに向けて鼓動が揃っていくようだった。
■借り”色”競争
蒼紫たちは最初の個人種目を行うため校庭に並んでいた。
ルールは赤沢先生により当日発表となる。
赤沢「個人種目は――『借り”色”競争』だ!」
聞き慣れない単語に、列のあちこちでざわめきが起こる。
赤沢「まずは中継地点まで一人で走る。そこに置いてある紙を一枚取れ。紙を取ると色が変わるから、その色の生徒を探し、走るように」
ざわめきがさらに広がる。
赤沢「つまり、借り物競争の“色”バージョンだな。誰と走ることになるかは運次第だ。しっかり探せよ!」
生徒たちは一斉に紙の色を想像し、周囲を見回し始めた。
赤と白が入り混じる校庭に、緊張とわくわくが同時に走る。
蒼紫は額の鉢巻を軽く押さえ、息を整えた。
スタートの合図を待つ空気が、じわりと熱を帯びていく。
種目はすぐに始まり、まずは一年生女子から順に走り出した。
生徒が紙を取るたびに、紙は鮮やかに色を変える。
周囲にも、どの色が求められているか一目で分かった。
やがて、紅莉と玲奈が走り出す。
紅莉と玲奈は同じ列だったため、蒼紫は二人の走りを見守っていた。
二人はほぼ同時に紙へ手を伸ばし、触れた瞬間、どちらの紙も青に変色した。
(青か……)
蒼紫は小さく息をつく。
紅莉と玲奈が猛スピードでこちらへ駆けてくる。
先に到着したのは玲奈だった。
玲奈「蒼紫! 力を貸しなさい!」
玲奈は迷いなく蒼紫の手をつかむ。
続いて紅莉が駆け寄ってきた。
紅莉「蒼紫くん、一緒に走ろっ!」
優しい笑顔で手を伸ばしてくる。
蒼紫は一瞬、どちらを選ぶべきか迷った。
この場での選択の”意味”を蒼紫は理解していた。
蒼紫「……」
その逡巡を断ち切るように、玲奈がぐいっと手を引いた。
玲奈「いいから早く!」
紅莉も慌てて蒼紫の反対側の手をつかむ。
紅莉「ま、待って! わたしも!」
蒼紫は引っ張られるまま、仕方なく走り出した。
右手は玲奈、左手は紅莉とつながれたまま。
美少女二人と三人で走る姿が目立たないはずもなく、周囲からは盛大なブーイングが飛んだ。
なんとかゴールにはたどり着いたものの、三人で走ったせいで結果は最下位だった。
玲奈は悔しそうに息をつきながら言い放った。
玲奈「まったく……紅莉のせいでビリよ」
紅莉はむっと頬をふくらませる。
紅莉「玲奈ちゃんが悪いよ!」
蒼紫「……勘弁してくれ」
蒼紫は肩をすくめながら男子の列へ戻った。
まだ自分の番も来ていないのに、すでにどっと疲れが押し寄せていた。
そして、蒼紫の番はすぐにやってきた。
中継地点で紙をつかむと、紙は鮮やかな赤に変色する。
(……赤か)
その瞬間、紅莉は蒼紫の紙の色を見て、胸の奥がきゅっと強張った。
紅莉「……蒼紫くん」
蒼紫は一年生の列の前に戻り、少し生徒を見渡した。
すぐに、目的の生徒を見つけ、声をかける。
蒼紫「俺と走ってくれ」
暁「おお!任せろ蒼紫!」
蒼紫は紅莉ではなく暁熱志を選んだ。
玲奈「残念だったわね、紅莉」
玲奈は嬉しそうに挑発した。
紅莉「蒼紫くん、どうして……」
紅莉は泣きそうな声で顔を覆い隠した。
蒼紫と暁はすぐに走り出した。
二人の足の速さはほぼ同じで、呼吸も自然と合う。
二人は瞬く間にゴールし、一位を獲得した。
蒼紫「ありがとう、暁。助かった」
暁「おう!俺も蒼紫と走れて楽しかったぜ!」
暁は満面の笑みを見せ、親指をグッと立てた。
周囲からは歓声と拍手が上がり、校庭の空気が一気に明るくなる。
最初の個人種目は、生徒の緊張をほぐすには十分だった。




