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虹魔学院の紅と蒼  作者: なまこ
水色の季節

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夏休み(後編)

■夏祭り

夏休みも後半に差し掛かる頃、蒼紫たちは夏祭りへとやって来ていた。


祭りは、普段買い出しに使う、学院近くの商店街で開かれている。

色とりどりの提灯が揺れ、屋台の匂いが夜風に混じって漂っていた。


紅莉たちはそれぞれ浴衣に身を包み、いつもとは違う雰囲気をまとっていた。


紅莉「玲奈ちゃんの浴衣姿、かわいい!」

玲奈「紅莉もなかなか似合ってるわよ」


二人は子どものようにキャッキャとはしゃいでいる。


夜宵「……二人とも、少し落ち着きなさい」

澪「お祭り楽しいね」


紅莉はふと蒼紫の方へ向き直った。

紅莉「蒼紫くん……どうかな?」


蒼紫は少しだけ視線を泳がせながら答える。

蒼紫「……みんな似合ってる」


その一言に、紅莉も玲奈も照れたように視線を落とした。


土屋「夏休みはいいですな~」

玲奈「あんたには聞いてないわ」

土屋「俺の扱い雑じゃない!?」

土屋と玲奈のやり取りに、自然と笑いがこぼれる。


いつも通りの空気なのに、浴衣と祭りの灯りが、どこか特別な夜に感じさせた。


玲奈「とりあえず、一通り見て回りましょう」

その提案に、全員がうなずく。


歩きながら、紅莉がぽつりと口を開いた。

紅莉「わたし、お祭りに来るの……初めてなんだ」


蒼紫「意外だな」

少し驚いたように紅莉を見る。


紅莉は小さく息を吸って続けた。

紅莉「魅了魔法が制御できるまでは、人前に出られなかったから……」


蒼紫「……なかなか苦労してるんだな」

紅莉「まぁ、魅了魔法でズルしたこともいっぱいあるけどね」

蒼紫「そういえば最近は使ってないんだな」


紅莉は視線を落とし、ほんの少しだけ笑った。

紅莉「だって……蒼紫くんには効かないんだもん」


その声は、蒼紫に届くか届かないかの小ささだった。

今の紅莉は、魔法ではなく“自分自身”を見てほしいと思っていた。


二人の間に静かな時間が流れる。

遠くで太鼓の音が鳴り、提灯の灯りがゆらゆらと揺れていた。


気づけば、周囲の屋台はほとんど見終わっていて、各々好きな屋台へと足を運んでいた。


蒼紫も、漂ってくる香ばしい匂いに誘われるように、焼きそばの列へ並んだ。

すると、後ろから玲奈の声がする。

玲奈「き、奇遇ね。私も焼きそば食べたかったの……」


蒼紫「本当か?」

玲奈「……ごめん、嘘。あんたならここにいると思って」


蒼紫「別の店に並ぶか?」

玲奈「いいわ。このままで」


少しの沈黙のあと、玲奈がぽつりと切り出した。

玲奈「あんた……今、す、好きな人とかいるの?」


蒼紫は一瞬だけ目を細め、正直に答えた。

蒼紫「紅莉と玲奈の気持ちには気づいてる」


玲奈「っ……!」

玲奈の顔が一気に真っ赤になる。


蒼紫「ただ……二人とも大切で、まだ答えを出せずにいる」


玲奈「何よそれ。二股でもするつもり?」

蒼紫「二股するつもりはない」


玲奈はふっと笑い、肩をすくめた。

玲奈「ならいいわ。私が紅莉より“いい女”だってところ、見せればいいんでしょ?」


蒼紫「……公の場でアピールするのは勘弁してくれ」

玲奈「分かってるわよ。ほどほどにしておく」


祭りの喧騒の中、二人の会話だけがどこか静かに響いていた。


その後、蒼紫たちは仲間の元へ戻り、屋台で買った料理を囲んで食事を楽しんだ。

焼きそばの香ばしい匂い、焼きとうもろこしの甘い香り、

夜風に乗って流れてくる祭りの匂いが、どこか心地よかった。


紅莉「おいしい……!」

澪「うん……なんか、こういうのって特別だよね」

玲奈「食べ終わったら、またどこか回りましょう」


そんな他愛ない会話が続く中――


ふいに、夜空が一瞬だけ白く照らされた。


次の瞬間、腹の底に響くような低い音が鳴り、大輪の花が空に咲いた。


紅莉「わぁ……!」

紅莉の声が自然と漏れる。

続けて、色とりどりの花火が夜空を染めていく。


土屋「たまやー!」

突然の雄叫びに、周囲が一瞬だけざわついた。


澪「綺麗……」

夜宵「そうね」

玲奈「ふん」

玲奈はどこか誇らしげに花火を見上げていた。


蒼紫は箸を止め、ゆっくりと空を見上げた。

仲間たちの笑い声と花火の音が混じり合い、夏の夜はいっそう賑やかさを増していった。


しばらくして、花火の音が少し落ち着き、

みんなもそれぞれ食事を続けながら、ゆるやかな会話が流れていく。


紅莉は空を見上げたまま、そっと息をついた。

紅莉「……ちょっとお手洗い行ってくるね」

玲奈「一人じゃ危ないから私もいくわ」

紅莉が席を立つと、玲奈もすかさず席を立った。


二人は提灯の灯りが揺れる通路を並んで歩いていく。

屋台の喧騒が少しずつ遠ざかり、代わりに水音と涼しい夜風が近づいてきた。


紅莉「ここだね……ちょっと行ってくるね」

紅莉は軽く手を振り、個室へ入っていく。


玲奈はその前の壁にもたれ、腕を組んで待っていた。


しばらくして、水の流れる音が止む。


紅莉が手を洗い終えて姿を見せると、玲奈は壁から体を離し、そっと紅莉の方へ視線を向けた。

紅莉「玲奈ちゃん、待たせちゃった?」

玲奈「ううん。ちょうどよかったわ」


玲奈は軽く笑ってみせたが、その表情にはどこか“言いたいことがある”気配が漂っていた。

紅莉が首をかしげた瞬間、玲奈は一歩だけ紅莉に近づく。


玲奈「ねぇ紅莉。ちょっとだけ……いい?」

紅莉「え? うん……?」


提灯の灯りが揺れ、二人の影が足元に重なる。

玲奈は深呼吸をひとつしてから、いつもの明るさを少しだけ抑えた声で言った。


玲奈「……蒼紫のことなんだけど」

紅莉は瞬きをする。


玲奈「蒼紫は私たちの気持ちに気付いているわ。……でも答えを出せずにいる」

紅莉「玲奈ちゃん……」


玲奈は視線をそらさず、まっすぐ紅莉を見つめる。

玲奈「だから言っておくわ。勝負よ!紅莉。どっちが蒼紫に選ばれるか……正々堂々ね」


強気な言葉とは裏腹に、玲奈の耳はほんのり赤く染まっていた。


紅莉は驚きつつも、ゆっくりと微笑んだ。

紅莉「……うん。わたしも、負けないよ」


その返事に、玲奈は満足げに小さく頷く。


玲奈「よし。じゃあ戻りましょ。蒼紫を待たせるのも悪いしね」


二人は並んで歩き出す。

その背中には、これまでとは少し違う空気が漂っていた。


蒼紫たちが食事を終えるころには、花火はすっかり鳴り止んでいた。

夜空には薄い煙だけが漂い、祭りのざわめきがゆっくりと広がっていった。


紅莉と玲奈が戻ってくると、土屋が手を振った。

土屋「おーい、二人とも戻ったか!」


紅莉「うん……お待たせ」

玲奈「待たせて悪かったわね」

玲奈はいつも通りの調子で言うが、紅莉と目が合うと、ほんの一瞬だけ互いに表情が引き締まった。


澪「そろそろ帰る?花火も終わったし」

夜宵「そうね。混む前に引き上げたほうがいいわ」

蒼紫「……そうだな」


それぞれが立ち上がり、帰り支度を始める。

屋台の灯りが遠ざかるにつれ、夏祭りの喧騒も少しずつ薄れていった。


紅莉と玲奈は並んで歩きながら、さっき交わした言葉を胸の奥にしまい込む。


友達としての距離は変わらない。

けれど――

二人の間には、確かに新しい“勝負”の気配が生まれていた。


こうして、夏祭りの夜は静かに幕を閉じていった。


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