連携魔法
■連携魔法
蒼紫たちはめずらしく実技演習室に集まっていた。
実技演習室には複数の結界が張られていた。
灰原「今日は連携魔法の実習を行う。今から隣の席同士でペアを作ってもらう」
その言葉に、教室の空気がざわりと揺れた。
紅莉は小さく肩を跳ねさせ、蒼紫の方をちらりと見る。
紅莉「……蒼紫くんと、ペア……」
蒼紫「……よろしく」
紅莉の頬がほんのり赤く染まる。
玲奈「なんであたしが土屋となのよ……紅莉だけずるいわ」
土屋「まぁまぁ、よろしくな、玲奈!」
玲奈「よろしくじゃないわよ!」
澪「よろしくね、夜宵ちゃん」
夜宵「ええ、よろしく」
夜宵は相変わらず落ち着いているが、澪は少し緊張しているようだった。
ペアが組み終わると灰原が説明を進める。
灰原「クラス対抗戦では連携魔法を使用したはずだが、今日はその練度を上げてもらう」
灰原は結界の中に置かれた黒い立方体を指差した。
灰原「結界の中にあるのは“波長反応体”だ。二人の魔力の波長が一致しなければ、これは絶対に壊れない」
生徒たちがざわつく。
灰原「魔力の波長を合わせるには、二人の体が触れ合っていることが条件だ。拳を合わせてもいいし、手を繋いでもいい」
土屋「おお、手ぇ繋ぐのか!」
玲奈「繋がないわよ!」
紅莉は一瞬で顔を真っ赤にし、蒼紫の方を見ては慌てて視線をそらした。
灰原「……騒ぐな。では各ペア、結界の前に立て。実習を始める」
生徒たちは緊張と期待を胸に、結界の前へと歩き出した。
蒼紫と紅莉も結界の中へ入り、向かい合った。
結界の中には、二人だけの静かな空気が訪れていた。
紅莉「……ちょっと緊張するね」
紅莉は蒼紫の顔を見ようとして、すぐに視線をそらした。
蒼紫「そうだな」
短い返事。
けれど、蒼紫の声はいつもより少し柔らかかった。
紅莉「れ、連携魔法って……相手と魔力を合わせるんだよね。うまくできるかな……」
蒼紫「……大丈夫だ。ゆっくりやればいい」
紅莉は驚いたように目を瞬かせる。
紅莉「……うん。ありがとう」
二人の間に、また静かな時間が落ちる。
気まずい――けれど、不思議と嫌ではない沈黙。
結界の光が揺れ、二人の影が近づいたり離れたりする。
紅莉「……その、手……繋いだ方がいいのかな?」
蒼紫「灰原先生が言ってたな。触れていればいいらしい」
紅莉「そ、そっか……」
紅莉はそっと手を差し出しかけて、恥ずかしそうに引っ込める。
蒼紫はその様子を見て、少しだけ息を吐いた。
蒼紫「……掌を合わせよう」
紅莉「う、うん!」
二人はそっと掌を開き近づけた。
触れた瞬間、紅莉の肩が小さく揺れた。
紅莉「……あったかい……」
蒼紫「……?」
紅莉「な、なんでもない!」
結界の中に、ほんのりとした熱と静かな緊張が満ちていった。
蒼紫「……それじゃあ、始めようか」
紅莉「うん……」
二人はそっと目を閉じ、空いている手に魔力を流し込んだ。
蒼紫の青い魔力が静かに揺れ、紅莉の桃色の魔力が温かく脈打つ。
二つの色が触れ合った瞬間、境界が溶けるように混ざり合い――
淡い藤色の炎がふわりと生まれた。
炎は音もなく広がり、波長反応体を包み込む。
藤色の光が結界の中で揺れ、反応体はゆっくりと形を失い、やがて静かに消えていった。
紅莉「……できた、のかな……?」
蒼紫は小さくうなずいた。
蒼紫「ああ。波長は合っていた」
紅莉の表情がぱっと明るくなる。
結界の中には、まだ藤色の余韻が淡く漂っていた。
二人が結界から出ると、他のペアも次々に姿を見せた。
玲奈「まったく、苦労したわ」
土屋「いいじゃん、上手くいったんだし」
澪「夜宵ちゃん、凄かった……」
夜宵「澪もその調子」
生徒たちが実習を終えると灰原が前に出る。
灰原「連携魔法は扱いを誤れば危険だが、正しく使えば非常に強力だ。しっかり覚えておけ」
灰原は少し間を置いて生徒を一瞥した。
灰原「それと――学期末には色魔法基礎学の試験がある。各自、復習を怠るな。以上だ」
“試験”という言葉が落ちた瞬間、教室にざわめきが広がった。
土屋は腕を後ろに回し、怪訝な表情を浮かべる。
土屋「試験かー……気が重いな」
紅莉「ねぇ、みんなで一緒に試験勉強しようよ!」
玲奈「紅莉は楽しそうね。まあ構わないわ」
夜宵「問題ない」
澪「もちろん!」
蒼紫「……そうだな」
こうして蒼紫たちは、週末に試験勉強をすることになった。




