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Part4 重い夜



「竹元さん、ようこそ!」



「かんぱーい!」



10数名のメンバーが勢いよくジョッキをぶつける。


そしてやっぱり勢いよく飲んでいく。


男女問わず。



「ここの女性はカッコイイね…」



竹元さんは少し引いていたけど、女性のノリの良さにすぐ打ち解けた。

すごく楽しそうにしている。



それを見て、私は少し安心した。



普通は、普通の恋人たちなら、『仲良くしないで』とか言って嫉妬したりするのかもしれない。



普通じゃない私が安心した理由。



他の女の子と仲良くしてくれたら、私と親しくても目立たないと思ったから。


楽しそうに笑う声を聞きながら、そんな事を考えていた。




それにしても…



早く二人きりになりたい。




「あんまり見てるとバレますよ」



「アキちゃん…」



彼の名前を呼ぶと共に、私は深いため息をついてしまった。



「…その反応は、ないっしょ」



アキちゃんは下を向いて泣きまねをする。



「ごっごめん。

違うの。アキちゃんが嫌とかじゃなくて。

ちょっと考え事を…

そうだよね、見すぎないように気をつける」



アキちゃんは、泣きまねを止めてニヤッと笑った。



「素直だね。

これからいいことでもあるの?」



「いいこと、かどうかはわかんないや。

普通の人がみたら悪いことだし」



自分でそう言いながら、落ち込んでしまった。


そんな私の様子に気がついたのか、アキちゃんは優しい声で言ってくれた。



「どうしようもないなら、とことん行けばいいんじゃねーの?

昇るとこまで昇るか、堕ちるとこまで堕ちたら変わるっしょ」



彼の言うことには何故か説得力があって、私はコクンと頷いた。


ふと、彼の手元を見ると彼はすでに違うお酒を飲んでいた。



「それ、なぁに?」



「焼酎のロック」



アキちゃんはまるで自分のボトルのように、焼酎と氷を近くに置いていた。



「私もそれにしよ」



残っていたビールを飲み干し、グラスを手にする。



「お嬢様、作ってあげるよ」



焼酎を注ぐアキちゃんの手は、なんだかとても綺麗だ。



「はい」



「あっ、ありがとう」



「乾杯」



アキちゃんがにっこり笑って言った。



「何に?」



少し考えて、アキちゃんは声のトーンを落しながら言った。



「奈々の幸せに」



照れずにそんなことを言うアキちゃん。


私の方が赤くなる。


心臓がバクバクいう。



「アキちゃんの幸せも」



恥ずかしいのを堪えて、やっと言った言葉に、アキちゃんは寂しそうな笑顔で返してくれた。



カツン、と可愛い音を立ててグラスが重なる。


ジョッキよりも薄く小さく脆いグラスは、まるで私たちの心のよう。



そして、アキちゃんがくれた焼酎は嘘みたいに美味しくて、泣きそうになる味だった。







―――――…




ここは地上何メートルなのだろう。


窓から外を見ると、眼下には都会の夜景が眩しい位に写し出されている。



レースのカーテンを少しだけ開けて、外を眺めていた私に竹元さんが言った。



「ここ、いいよね」



「うん。東京って感じ」



「給料もあがったし、たまには贅沢」



私たちは歓迎会のあと、飲んでいた場所から程近い、高級ホテルと呼ばれるホテルの一室にいた。



二人でこうして会うのは久しぶりだ。



私は車のライトと思われる、小さな光を目で追う。



すると、温かい手が左肩に乗った。



「シャワーは?」



「うん…」



「やっぱり駄目。我慢出来ないから」



竹元さんはそう言って私を振り向かせると、キスをした。


そのまま広いベッドの上に倒れこむ。



愛しい彼が近くにいる。



それだけで全身が熱く、のどの奥が苦しくなって…



「愛してる」



竹元さんの言葉を唇で吸い取る。


『愛してる』を自分に染み込ませたくて。


大丈夫だと思いたくて。



「竹元さん…」







そして、私たちの僅かな時間が過ぎていった。






―――――…




まだ明るくならない時間に、私は現実に引き戻された。



私と同じ、間抜けな着信音。


竹元さんの携帯だった。




着替えをしながら話す姿に、二人の時間が終わることを悟る。



「恵理が?えっ?そんなに?」



布団を被り、おとなしくしていた。


私が2歳児だったら、きっとめちゃくちゃ褒められるはずだ。



「とりあえず、タクシー拾って帰るから。

もっと熱が上がってきたら…」



そこからは聞かないことにした。


力を入れて耳を塞ぐ。



「ゴメン!」



布団に潜りこんでいた私を、竹元さんは力いっぱい揺らした。



「早く帰ってあげて」



布団から顔を出し、心配そうな表情を作ってあげた。



「本当にゴメン!」



そう言いながら、竹元さんはダッシュでいなくなった。



「よくあるパターン…」



私は裸のままひとり取り残されてしまった。



「ふふっ」



ちょっと笑えた。



ちょっと泣けた。



5分ぼーっとして、シャワーを浴びて、その部屋を後にした。







―――――…





菜々の彼氏?の歓迎会の後。



俺は兄貴の家にいた。



兄貴のマンションが、たまたま飲み屋から近いところにあったから、無理矢理転がり込んだのだ。



「超迷惑」



「いい部屋だよな〜1LDK?」



「人の話を聞け」



不機嫌な兄貴を適当にあしらい、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出す。



「兄貴、この水旨いね」



俺の顔をまじまじと見ていた兄貴は、何かを思い出したように話しだした。



「んなことより。お前さ、まだ引きずってんのか?」



その質問は予想していたけど、動きが止まってしまった。



「…」



「気持ちはわからなくもないけどさ…

そろそろ前向けよ」



「…ああ」



「彼女も望んでないと思うよ、そういうお前の姿をさ」



「わかってる。ありがとう」





兄貴が寝室へ行ったので、俺はでっかいソファに横になると、そのまま眠りについた。





久しぶりに見た夢には、彼女の姿があった。


俺は早く捕まえなきゃと思って、彼女に向かって走る。

だけど、全く距離は縮まらない。



「舞…!」



叫んだ自分の声で目が覚めた。



「舞…」



まだ夜が明ける前。


テーブルに置いたままの水を一口飲んだ。


ぬるい水が喉を通る感触。



俺は現実に引き戻された。




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