マリーゴールドも悪くない
「この新作コスメよくね?」
「ええやん。あ、値段ヤバくね?」
「マ!?あー学生が買える値段じゃないわー」
「こっちのプチプラもよくね?」
「たしかし~」
奈奈さんは今日も元気で可愛い。
あれから奈奈さんと付き合うことになったけど、学校では前と同じだ。バスの時と放課後に二人きりで話すのは変わっていない。変わったことと言えば、休日にデートするようになったことと、前よりスキンシップが増えたことかな?まだ手をつないだり、ほっぺたに唇を当てたりする程度だけど。キスと言わないのは本当に触れるだけだからで、それをキスと判断していいのかわからないからだ。
「小鞠」
「……………」
「こーまーりー」
「………あっなに、来楽々」
「奈奈のこと見すぎだべ~?」
「うぇ!?」
そ、そんなに見てたかな!?ヤバイ、無意識だった!
は、恥っず!
「そんな慌てんでもええじゃろ」
「う~ちょっと待ってて、今正常に戻るから」
「………………小鞠さ、奈奈と付き合ってるん?」
「〰〰〰〰ッ!?!?っだつ~!」
驚きすぎて机に思いっきり足をぶつけてしまった。痛いやら恥ずかしいやらで顔があつい、そんな顔を見られたくなくて机に突っ伏して腕で顔を隠す。
え、てかなんで来楽々知ってるん!?いいやカマかけただけかもしれないし!
「大丈夫か~?」
「だっ大丈夫!てか、なんでそんなことを?」
「この前の日曜に奈奈と一緒に歩いてんの見かけて声かけようと思ったんだけど、な~んかいい雰囲気だったから声かけずらくてさ~。んで、ちょっとカマかけてみたら案の定この反応だしさ、これは当たりかにゃ~?」
くっそ、嵌められた!そんでニヤニヤすんな!
これ隠してもすぐバレるな。もうしゃべっちゃってもいいかな?いやでも……………。
「そうだって言ったら、ひく?」
「何で?むしろここは祝うべきでしょ、おめっとさん」
まるで普通に彼氏ができたときのように、普通にそう言ってくれた。
驚いて顔を上げてキョトンとしていると、来楽々が急に噴き出した。
「ぶっ!何鳩が豆鉄砲を食ったような顔しとるん?」
「え、あ、いや、普通にびっくりして」
「ん~なに、引いてほしかったん?」
「いや、そうじゃないけど———————」
「だったら、素直に受けとっときんさい」
「…………うん、ありがと」
「おうさ!あ、でも惚気はほどほどに~」
「しっしないよ!」
多分、きっと、おそらく。
話もひと段落したのでちらっと奈奈さんの方を見ると、こちらをじっと見ていた。私が見ていたことに気が付いた彼女は、すぐに顔をそらしてまた友達と話し始めてしまった。
「あー、後で奈奈に説明してあげな」
「何を?」
「今のこと」
来楽々は嫉妬されるのはごめんだぜぃと、小さく呟いて自分の席に戻ってしまった。
奈奈さんが嫉妬するとは思わないけど、一応放課後に話しておこう。
授業はいつも通り終わり、いつも通り奈奈さんと二人っきりの放課後だ。
「こまっちー、お腹すいたー」
「飴しかないけどいる?」
「う~なんもないよりマシだけど~」
「じゃあいらない?」
「いらる!」
「どっち?」
はいっと手を出しているので、多分いるんだろう。
その手に飴をのせてあげると、奈奈さんはありがとーと言って飴を口の中に放り込んで、ガリガリとかみ砕いてしまった。そんなお腹すいてんの?確かお昼、ちゃんとお弁当食べてたよね?
「ぜんぜん足りないよー」
「………………購買行く?」
「行く!」
奈奈さん、私がこれ言うの待ってたな。
この前人多いから購買行くの嫌だって言ったらその時は諦めてくれたけど、それ以来私から購買行く?の言葉が出るように誘導するようになった。まあ、見事に毎回引っかかっている訳ですが。
「うーん、今日はちょっと早かったかな?」
「かもね」
失敗した。ちょうど部活が始まる少し前の時間にかぶってしまったらしく、部活前の人たちが多かった。それでも、購買としては少ない方だけど放課後としては多い方だ。
そうなると、奈奈さんの友達に会う可能性が高くなるわけで———————
「お!奈奈じゃーん!」
「朱莉、おつ!」
「おっつー。てか葛葉さんもいんじゃーん、おっつー!」
「おっお疲れ様です」
こういうことになるわけで。
「お腹すいちゃってさー」
「わかるー。でも残念なことに、アタシは先輩のパシリ中。自販いくならついでにーって、お金は先輩持ちだけど」
「結果的に奢ってもらってんじゃん」
「そうともいう~」
基本的にこういう時の私は空気だ。
奈奈さんの友達が嫌いなわけじゃない。ただ私なんかが会話に入ったところで何にもならないと分かっているし、話しかけられてもどうしたらいいか分からないだけだ。
「ねえねえ、葛葉さん。奈奈の奴うるさいっしょ!」
「ちょっと朱莉!?」
「え?あ、まあいつも元気ですね」
「でっしょー?あの音楽の先生よりはマシだけどさ!」
「それはヒドくない?」
「ふふっ、確かにあのトリッピーみたいな先生よりは可愛いし、静かですね」
「ブハッ!トリッピーってのめっちゃあってる!葛葉さんまぢウケんだけど!」
おお、爆笑してる。ギャルは笑いの沸点低いのかな?
因みにトリッピーとは音楽の先生は髪色がカラフルで、声が結構キンキンしているから私と来楽々の間で密かにつけていた先生のあだ名だ。
その後もあの先生は?この先生は?と、来楽々と考えたあだ名を聞かれた。名づけは私だったり、来楽々だったり半々くらいだ。高校の先生は中学の頃に比べて、なぜかキャラが濃い人が多い気がする。その分あだ名がつけやすいから面白いんだけどね。
「あー笑った笑った!小鞠さんがこんなセンスあると思わなかったわ!」
「半分くらいは来楽々ですよ」
「あーあの子も面白いよね!」
「朱莉、時間大丈夫?」
「ヤバッもうこんな時間!じゃね、奈奈、小鞠さん!」
「うん」
「バイバイ」
時計を見ると15分くらいは話していたらしい。朱莉さんは買っていた飲み物とお菓子を持って、急いで購買を出て行った。
朱莉さん、いい子だったな~。まあ、奈奈さんの友達に悪い子はいないんだろうけど。
「こまっち」
「ああ、ごめんお腹すいてたんだよね。早く買って教室もどろ?」
「うん」
あれ、奈奈さん元気ない?
そう思ったけど、購買のおばちゃんと軽く話してクレープ買ってたしいつも通りだったから、さっきのは気のせいだったのかな?
「…………………」
「た、食べないの?」
「…………うん」
気のせいじゃない、明らかに元気ない。
教室に戻るときも私が話しかけても、あーとかうんとか前の私みたいなそっけない反応しかしなかったし、今もせっかく買ってきたクレープも声をかけてようやく手を付けたくらいだ。食べる様子もモソモソといつもの勢いがない。
う~ん、これは私がなんかしてしまったか?そうだとしても奈奈さん関係で今日したことと言えば、来楽々に奈奈さんと付き合っていることがバレたことと、奈奈さんの友達と一緒にしゃべったこと……………………あれ?もしかっして一番目がまずかった?いやでも、これは奈奈さんにも話したし、反応も「そうなんだ。まあ、来楽々ちゃんならバレても問題ないかな~」とさほど気にしている様子もなかった。むしろ祝ってくれて嬉しいね、とも言ってたし。
じゃあ、なんだ?
「こまっち」
「な、なに?」
「ずっと唸ってるけどどしたん?」
いや貴方のことで悩んでたんですが?
いつの間にかクレープを食べ終わっていたらしく、こちらを不思議そうに見ていた。
このまま考えても分からないので、直接奈奈さんに聞こう!いやまずは謝ろう!
「ごめん!」
「………へ?」
「なんか購買の帰り道くらいから機嫌悪かったからさ。私、気が付かないうちに嫌なことしちゃったかなと思って、でも考えても分からなかったから、差し支えなければ教えていただきたいなぁと………」
しゃべってて段々と嫌な奴かなとか、こいつ駄目だなとか思われてるとかネガティブなことがどんどん浮かんできて、声が尻すぼみになってしまい最後は相手に聞こえるか聞こえないかくらいになってしまった。
「……………うー」
「………奈奈さん?」
ありゃ?今度は奈奈さんの方が唸り始めちゃったぞ?
と思っていたら急に奈奈さんが立ちあがって、私の椅子の横まで来てガバっと抱き着いてきた。
え?え?どゆこと!?
「ごめーん、こまっちー!!!」
「ぅえ!?奈奈さん!?」
「うちが勝手に嫉妬してただけなのー!!」
……………………Why shit?あ違った、嫉妬?あの奈奈さんが?
「えっと、しっと?しっとってあの嫉妬?」
「…………そうだよ。さっき朱莉と楽しそうに話してたのみて、うちの友達とこまっちが仲良くするのはいいことなのに……なんか、モヤっとしちゃって、それで素っ気なくしちゃった。うち、ヤな子だ」
さっきの私と同じように奈奈さんの声がどんどん尻すぼみになったけど、私の肩に顔をうずめているおかげで最後の言葉までハッキリと聞こえた。
落ち込んでいる奈奈さんとは裏腹に、私は嬉しいと思ってしまった。その嫉妬が私のせいだということに優越感を覚えてしまった。
「こんなんカワイくないよね?」
「うーん…………少なくとも私は嬉しい、かな」
「………はいぃ?え、だって……」
奈奈さんから今後聞くことがないだろうと思うような変な声が聞こえた。ちょっと某紅茶が好きな刑事さんみたいだった。
だって嫉妬ってその人を尊敬していたり、好きだったりしないとしないことだから。私だけみていてほしいとか、独り占めしたいとかそんな感情が込められていると思うから。奈奈さんが私のせいでそんなこと思っていることが嬉しい。
抱き着きが少し緩んでいたので、奈奈さんと向き合うように態勢を変える。奈奈さんはまだ下を向いたままだ。
「好きじゃないと嫉妬なんてしないもん。私だって奈奈さんが他の人と仲良さそうにしてるとモヤるよ?奈奈さんはそんな私イヤ?」
「そんなことない!」
奈奈さんは勢いよく顔を上げて、速攻で否定した。ちょっとびっくりした。
「そういうこと。だから嫉妬してもいいんだよ」
「…………あはは、すごいねこまっち」
「すごくはないよ」
嫉妬する自分を嫌だなって思うことはあるし、嫌いだって思われないかなって怯えてる。でもさ、もう好きになっちゃったんだもん、大好きだって気づいちゃったんだもん。
「嫉妬するくらい、奈奈さんのことが好きなだけ」
「〰〰っうちもこまっちのこと大好き!」
「わっ」
今椅子に横向きに座ってるから背もたれがないわけで、そんな勢いよく抱き着かれたら後ろに倒れてしまうわけで!?うわっマジで倒れ————————
ガタンッ
「いっ……たくない?」
「っとごめん、勢いつきすぎちゃった。大丈夫?」
「え?〰〰〰〰っ!?」
椅子だけが倒れて大きな音がした。奈奈さんが素晴らしい運動神経で私を支えてくれて、倒れることはなかったが、今の問題はそこじゃない。私が奈奈さんの腕の中にいて、顔が滅茶苦茶近いことの方が問題だ。
私が倒れることはなかったけど、今この状況に倒れそう。
「ムリ………」
「え、どっか打った!?痛いとこある!?」
「ない、だいじょばない」
「どっち!?」
ドキドキしすぎて心臓がやばいです、とは言えない。
とりあえずどこもいたくないことは伝えよう。
「怪我はしてないよ」
「ほ、ホントに?」
「うん」
「よかった~」
奈奈さんは心の底からほっとしたような顔をする。
よいしょっという掛け声と共に体を起こしてくれたけど、手は私の腰と背中に添えたままで放してくれない。
「あの~奈奈さん?」
「なーに?」
「もう大丈夫、ありがとう」
「うん」
いや、うんじゃないです。
さらにぎゅってしないで?ドキドキ止まらなくってもうヤッベーですよ?
「奈奈さ」
「こまっち」
周囲の音が消える。
さらに強く抱きしめられたことで、ワイシャツの第三ボタン付近に顔が近づく。奈奈さんの心臓の音が聞こえる。
私と同じくらい、ドキドキしてる。
「もうちょっとこのままがいいな~」
「あ、えっと………」
「こまっちはヤ?」
見上げたその顔に見惚れる。
私がその顔に弱いって知っててやってるよね。それもこんなにドキドキしながら。
「ヤ、じゃない、けど」
「けど?」
「もう、キャパオーバーです」
さすがに心臓が持ちません!
[おまけ]
———奈奈視点—————
「ヤ、じゃない、けど」
「けど?」
「もう、キャパオーバーです」
涙目、上目遣い、ほっぺた真っ赤っか。
なにこれ可愛すぎない?うちが男子だったら襲ってるよ?誘ってる?誘ってんの?ちょーヤバイ。語彙力溶ける。
よし、一旦落ち着け棗奈奈。こまっちこのままだとまぢ卒倒しそうだから、冷静になれ。
「奈奈さん?」
あ、無理。
「こまっちー!カワイすぎんだけど!?ヤバない!?てか破壊力えっぐ!」
「え、え、えぇ—————!?」
「あーもー今週泊っていい!?」
「え、あ、はい……………う゛ぇい!?」
「やったー!あ、もうスクバの時間じゃん!こまっち、支度支度!乗り遅れちゃう!」
「え、あ、もうそんな時間!?わわわかった!」
帰り支度を大急ぎで済ませて、スクバに直行。
いつよもり遅かったので席がかなり埋まっていたけど、幸いいつもの席は空いていた。
「焦った~。こまっち、大丈夫?」
「だっだい、じょう、ぶ」
ここまで全力ダッシュだったからか、こまっちは息切れしていた。まあ、それ以外の理由もあると思うけどね~。
「出発しまーす」
部活終わりの人たちが乗ってきて、満杯になったところでバスは出発した。
「こまっち、さっきは勢いで言っちゃったけどお泊り本当に大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫。お母さん、奈奈さんならいつでも大丈夫って言ってるから」
まさかのお義母様公認でした。
まあ、うちのママもこまっちならいいよって言ってるし、うちらの親の理解がありすぎてこっちが困る。
「じゃあ、今週の土曜日ね」
「う、うん」
「また後でラインするね」
「うん」
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回もpixvの企画「青」で、これ書けんじゃねと思い筆を執った次第です。青春だな~とか思って頂けたら幸いです。