平穏にすごしたいモブの365日の報告書
その会社にはモブがいる。
モブはモブとして生きてきた。
とくに名前も知られてないし、知られようとも思ってない。
だから呼び名もMで十分。モブのエム。頭文字に他の意味はない。
日の当たるところが嫌いだ。
明るいスポットライトの下で、素顔をさらし、華やかに活躍する。
それは主人公たちの仕事だ。
応援したい。ぜひとも頑張ってほしい。
その頑張りは社会を変える。シナジーはモブにも波及する。
だからモブは仕事をする。
主人公たちの支援、彼らのドラマを引き立てるのがモブの主な仕事だと思っている。
小道具でも大道具でもなんなら必要に応じて筋書きでも書くし
舞台背景でもサクラでも、たいていのことはやる。
毎日の平穏。それがモブの生きがいだ。
自分で作ったご飯を食べて
お気に入りの紅茶を飲んで
思いつくままに日記を書いて
いい匂いのするお風呂に入ったら
くしゃくしゃになったお布団にくるまって
ふかふかと眠るのだ。
ヘイオンサイコー。
ノーモアヒョウガキ。ノーモアカテイノジジョウ。
モブはこの日常を愛している。
どんこい、退屈である。
だからモブはトラブルが嫌いだった。
あれはよくない。
止められるものなら事前に止めたい。
だが適当にトラブらないと主人公に経験点が入らない。
対応力がつかない。
主に舗装された道路を歩き、日当たりの良い場所でくらしてきたモブの家族がその証左だ。
あいつはわりとトラブルでキレる。
存在感がでかいのでちょうどいい日陰を作ってくれて助かるがもうちょい、もうちょいなんとか。
ファンブルダイスは成長のチャンスだけど、その塩梅が難しい。
神様の振るサイコロはいつだって理不尽で
主人公たちの落ち込みは社会を停滞させる。
そのシナジーはモブにも波及する。
それは困る。
だからモブは盛り上げる。
がんばれがんばれ主人公。
応援してるぞ主人公。
褒めて称えて拍手を送る。
スポットライトの調整をして、光をあてて伝えてる。
ほら、あなたが主人公。
毎日の平穏。それがモブの生きがいだ。
モブはこのとりとめのない日常をとても愛している。