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機械人間シリーズ

コンセプト・ウェスト

作者: 実茂 譲

 種子保管所から歩き出して、背中に朝日を浴びた。

 眼前に水浸しの草原が広がっていた。

 蔓草に覆われたハイウェイの名残。その脇に小さな町が点在している――。

 とりあえず西へ。


   ――*――*――*――


 町その一。無人。死骸なし。〈カンバヤシ・モーターズ〉で酔電液を見つけ、ほろ酔いになった。


 町その二。無人。パニックルームに死骸。こめかみに穴、手には拳銃。コンピューターを立ち上げたら、チェス・ソフトに0勝999敗の成績が残っていて、ログを読んだら、凄まじい罵倒の数々。


 町その三。無人。死骸なし。〈フェラーラ・オート〉の自動車のエンジンから酔電液を抽出してほろ酔いになった。


 町その四。無人。死骸なし。この町は植物もなかった。全て枯れ切っていて、この強力な除草システムの発生源は〈ビッグ・エンジン〉というガレージからだった。酔電液でほろ酔い。


 町その五。無人。死骸あり。ふたり:死因は餓死。そのうちのひとりが手記を残す。

 ――やれと言われたことをやっただけだ。世界がそう言い訳する人間ばかりになった結果がこのざまだ。もし、このメモを地球外生命体が手に入れて、しかも、地球の言葉が分かるのであれば、全人類を代表して言おう。おれたちはとんでもないバカだった。やり直す機会は何度もあったのに、そうしなかった。このメモがヒューマノイドの手に入ったのなら、なぞなぞを出そう。『なかにタネが入っている楽器はなーんだ?』このこたえをそこの金庫に入力したまえ。ご褒美が待っている。

 こたえはカス()()ット。

 高品質酔電液でべろべろ。


   ――*――*――*――


 ハイウェイは登って、下って、また登り、山岳地帯をジグザクに走り始めた。

 曲がり角には必ず町がある。


   ――*――*――*――


 町その六。無人。死骸なし。地熱発電システムが稼働中。管理モジュールに音声交信ログが残っていた。

 ――おーい、そっちに誰か残ってるか? いたら、返事をしてくれ。こちら、92号都市。タバコはあるが、マッチがないんだ。一本もないんだ。マッチが余ってるんなら、一本持ってきてくれないか?


 町その七。無人。死骸なし。玉突き事故で道路が埋まっている。玉突き事故を辿っていくと、アルマス広場。横倒しになった宇宙船がある。なかは焦げていて、生き残ったモジュールは皆無だが、極めて高品質な酔電液をコアから抽出できた。べろべろに酔っぱらう。


 町その八。無人。死骸なし。〈ジョン・アダムスのハードウェア・ストア〉で改造用レーザーメスとナノマシン組み込み人工皮膚、それにボールベアリングを二個失敬し、研究所を出て以来覚えていた左腕の違和感をなくすことに成功。診断キットもあったので、自分にかけると、酔電液をひかえるよう診断された。承諾ボタンを押し、酔電液でほろ酔い。


 町その九。無人。死骸が一体。体の下半分がアスファルトに埋まっていた。市内には樹木がない。〈ビッグ・エンジン〉を見つけたが、略奪されたらしく、なにも残っていなかった。


 町その十。無人。死骸なし。雲に手で触れるとひんやりした。


   ――*――*――*――


 山頂から見下ろした景色は砂漠だった。

 前からそうだったのか、〈何か〉が起きてこうなったのか。

 調べれば分かるが、興味が湧かない。

 遠くに浄化塔が見えた。蜃気楼かもしれない。


   ――*――*――*――


 町その十一。無人。死骸なし。市街地の損害はかなり激しく、何度か道は途切れかけるも町の南西から出ているハイウェイを見つけることに成功。


 町その十二。無人。シェルターに死骸が一体。死因は、腕に刺さった五本の注射器から麻薬の過剰摂取と推測。全宇宙臨時政府閣僚名簿なるものがあった。

 ――総理大臣 ディック・トラヴィス

 ――内務大臣 ディック・トラヴィス

 ――外務大臣 ディック・トラヴィス

 ――陸軍大臣 ディック・トラヴィス

 ――海軍大臣 ディック・トラヴィス

 ――空軍大臣 ディック・トラヴィス

 ――教育大臣 ディック・トラヴィス

 ――運輸大臣 ディック・トラヴィス


 町その十三。無人。死骸なし。市内に軍の臨時モータープールを発見できた。久しぶりに酔電液でほろ酔い。


 町その十四。無人。教会に死骸が一体。音声ログが残っていた。

 ――きっとあの少年と少女は世界を救うための戦いをしていたに違いない。アニメみたいに。そのふたりが天使になって、空へと昇っていった! 世界を救うために己が命を犠牲したのだ! ハレルヤ! 我々は救われた! 町という町の全ての広場はふたりの殉教者のために銅像をつくるべきだ!

〈フェラーラ・オート〉でバイクから酔電液を抜いて飲む。ほろ酔い。


 町その十五。無人。死骸なし。巨大な噴水が機能していて、管理ボットが生きている。話しかけたが、意識フィールドには水を噴き上げることしかなかった。噴水に投げられた小銭を集めて、自動販売機に入れると、商品がちゃんと出てきた。酔電液でほろ酔い。


   ――*――*――*――


 砂漠は終わり、浄化塔はまだ遠い。

 つまり、浄化とは砂漠化を意味していない。

 浄化とは緑の大地を人間が住めない土地にするという意味ではない。

 ハイウェイは川の多い湿地へと伸びている。


   ――*――*――*――


 町その十六。無人。死骸なし。市街地は巨大なクレーター湖と北で接している。ログを発見。

 ――計算では治水さえうまくいけば、生き残れる。全自動水耕栽培キットとはいかなくとも、生存者が食べるだけの作物を確保できる。問題は貴重な栽培スペースにマリファナを植えろと叫ぶ馬鹿どもをどうやって黙らせるかだ。


 町その十七。無人。死骸あり。七体。いずれも干からびているがひとりにつき十か所以上の銃創がある。ひとりが握る携帯端末のログを呼び出す。

 ――落ち着けって。カイル。いま、送信した。マッチはそのうち手に入る。それより――なんだ、カイル。どうした? ……まずい! あの野郎、レーザーガンを持ってる! みんな伏せろ! (バビューン、バビューン、バビューン! ブチッ!)


 町その十八。無人。死骸あり。ひとり。死因:切腹。防水短冊がひとつ転がっていた。

 ――死に様を 好む果報に 恵まれて 西方浄土 いざ飛び立たん

 死体は浄化塔のほうを向いていて、刀の切っ先が背中から飛び出していた。

 ヒューマノイド・センターにて、酔電液でほろ酔い。


 町その十九。無人。死骸なし。〈バーンスタイン・エア・タクシー〉にストライキ・ロボットの残骸があった。コアボックスのドアロックをハッキングすると、酔電液の一パイント瓶。もちろん、ほろ酔いになった。


 町その二十。無人。死骸なし。海は目の前だ。ガレージはなかった。そういう町がときどきある。


   ――*――*――*――


 ハイウェイはまっすぐ海の上を走る。

 その途上の町はどれも新しく、並木道がある。

 浄化塔はまだ西の彼方。海の向こうかもしれない。


   ――*――*――*――


 町その二十一。無人。死骸なし。市街地は『みんなで協力 きれいな海!』のホログラフが溢れかえり、強迫観念に襲われた頭のなかみたいになっている。潮汐発電ユニットを見つけるも、タンクは空。


 町その二十二。無人。死骸なし。〈ハッピー・クランベイク〉のガラスドアにサインペンの貼り紙。

 ――全市民避難命令のため、従業員も避難いたします。お客さまにはご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。冷凍庫のロックは解いてありますので、なかの食材はご自由にお使いください。店長より。


 町その二十三。無人。死骸が一体。外傷はないが、その手のなかにエースのフォーカードがそろっていた。ウィスキーを試すが、まったく響かない。


 町その二十四。無人。死骸なし。紐と滑車とショットガンでつくった簡単な罠に引っかかる。人工皮膚が少しへこんだ。手に持っていた酔電液の壜には被害なし。ほろ酔いになる。


 町その二十五。無人。死骸なし。酔電液でほろ酔いになった際、海上都市連合緊急委員会の受信記録が読めた。

 ――もしもし? 来々軒さん? 担々麺と餃子、それにグリーンペッパーステーキひとつ。――は? だ~か~ら~、グリーンペッパーステーキだって。え? 番号間違えてる? ここはレストランじゃない? そんなわけあるか。いいから、グリーンペッパーステーキ、持ってこいよ。は? なんだそれ? とぼけんな。そこまでして、おれにグリーンペッパーステーキを食べさせたくないのかよ。グリーンペッパーステーキはグリーンペッパーステーキだよ。どうやって作るかだって? お前、何屋だよ。いいか、グリーンペッパーステーキってのはな、細切りにしたピーマンと牛肉を炒めて――え? それは青椒肉絲(チンジャオロース)だって?


   ――*――*――*――


 ハイウェイが海の上を走ってから、町と町のあいだが非常に長くなった。

 町その二十二と町その二十三のあいだの距離は町その二から町その十八までの距離の十二倍である。

 海はまだ続く。


   ――*――*――*――


 町その二十六。無人。死骸なし。大雨が降り出し、激しい風が吹き始めると、梁が傾き、〈ビッグ・エンジン〉が丸ごと海へと流れ落ちるのを目撃した。荒天で三日足止め。


 町その二十七。無人。死骸なし。イソギンチャク型ガラスドームの内側に市街地。メンテナンス区画で見つけた酔電液でほろ酔いになる。


 町その二十八。無人。死骸なし。不気味。エネルギー銃を仕込んだヒューマノイドの右腕が百本、道の脇に並べてあった。


 町その二十九。無人。死骸あり。書き残し:「三人で秘密を守るのは簡単だ。他のふたりが死ねばいい」。だが、死体は三体あった。


 町その三十。無人。死骸なし。海鳥ドローンが飛んでいる。陸は近い。


   ――*――*――*――


 ハイウェイが陸に戻り、まもなく地下へ。

 町は陸に見えない――そこは岩だらけの荒野。

 町も地下につくられているのだろう。

 町はハイウェイの主人ではないのだ。


   ――*――*――*――


 町その三十一。無人。死骸なし。バリケードに落書き。

 ――こうやってゾンビと戦うのがずっと夢だった。 T・ハリス

 ――じゃあドーナッツとファックしてろ、カス。 匿名希望


 町その三十二。無人。死骸なし。高出力発電所がある。高品質酔電液でべろべろ。壁にぶら下がった携帯端末。録音メッセージが一件。

 ――王さまの耳はロバの耳!

 ――発電所のコアが一万匹のデンキナマズだって知れたら、おれたち殺されるぜ。

 ――バカ言え。エコ・エネルギーだ。表彰されらあ。


 町その三十三。無人。死骸あり。パニックルームに一体。メモが残っている。

 ――死人に口なしって言うが、最後に残るのは口と歯なんだな。あーあ、この発見を誰かと分かち合えないのが辛い。人間ってのはなんてひけらかしが好きな生き物なんだろう!


 町その三十四。無人。死骸なし。トンネルが崩落していたため、ドリルユニットを作動させた。工事のため、十一日、ここに停止する。〈マカンドルズ・ダイナー・アンド・キャンプ〉のガレージで酔電液を見つけて、ほろ酔いになる。


 町その三十五。無人。死骸はひとり。町の入り口のゲートによりかかっていて、メッセージボードを首から下げていた。

 ――死体を見て、気持ち悪くなる。五マス戻る。


   ――*――*――*――


 再び草原。ハイウェイ。

 だが、町と町のあいだの道路際に電話ボックスを見つけることがある。


   ――*――*――*――


 町その三十六。無人。死骸なし。〈カンバヤシ・モーターズ〉で診断キットがあったので使うと、酔電液の飲み過ぎに注意と出た。承諾ボタンを押して、酔電液でほろ酔いになる。


 町その三十七。無人。死骸なし。受信メッセージを読み込む。

 ――おい、きこえるか? こりゃ何かの暴走か? 人間がこの星で一番いらないとほざく、くそAIのしわざかよ。サーバールームの消火ガスが誤作動したせいで、七人もくたばった。場所を教えてくれりゃあ、おれが行って、そのAIのコンセントを引っこ抜いてやる。


 ゴースト・テレフォンボックス#1

 ――きこえるかな?

「きこえる」

 ――怒ってるかな?

「怒ってないよ」

 ――よかった。いい旅を。

「そっちもね」

 ブツ。ツーツー。


 町その三十八。無人。死骸なし。人工生命体研究所がある。ふたつの培養ガラス槽。片方は〈絶滅〉。もう一方は〈復活〉。どちらも空っぽになっている。培養液で休息するが、酔電液には遠く及ばない。


 町その三十九。無人。死骸なし。道路があちこち陥没している。穴を覗くと自動車が数台落ちている。どの自動車もひどく歪むか裂けるかしている。それは深さ数メートルの穴に落ちただけでできる損傷とは思えない。死骸もない。自動車はみなエンジン部分が破壊されていたが、それでも一パイントの酔電液を抽出できた。ほろ酔いになる。


 町その四十。無人。死骸なし。ハイウェイが地下を出て以来、死骸は人間であれ動物であれヒューマノイドであれ、見かけていない。事故現場やリンチの跡のような、見かけるべき場所でも見かけていない。


   ――*――*――*――


 風光明媚な景勝地。

 幽玄の山々。翡翠のごとき樹のさわぎ。

 その夢幻をアスファルトで引き裂くハイウェイ。

 もちろん町も然り。


   ――*――*――*――


 町その四十一。無人。死骸なし。削除後再構築された音声ログ。

 ――では、180号都市、ドラゴンコンテストの優勝者はエドワード・スコフィールドさんに決まりました。スコフィールドさん。子どもたちにひと言。

 ――ドラゴンになることは簡単だ。だが、ドラゴンでいることは……。大きすぎて、公共交通機関には乗れなくなるし、両手がずっと珠で塞がっているから、ペンが握れない。どこも生命保険を引き受けてくれない。親は泣いて、妻は逃げ、友に避けられ、子は知らない男を新しいパパと呼ぶ。毎年どこにどれだけの雨を降らせ、雷を落とすかを考えるのに一年の半分以上を費やすのに誰も誉めてくれない。いいか。子どもたち。こいつは掛け値なし、真実の話だ。ドラゴンなんかに、絶対なるな。なったら終わ――

 ――以上、スコフィールドさんから子どもたちへの熱い激励のメッセージでした! では、また来年お会いしましょーう!


 町その四十二。無人。死骸なし。〈ライムハウス・ガレージ〉で酔電液を見つけ、ほろ酔いになる。


 町その四十三。無人。死骸が五十体。機能停止した冷凍睡眠ポッドのなかで腐敗。


 町その四十四。無人。死骸なし。どす黒くなったメモ書き。

 ――〈絶滅〉はヤバい。出くわしたら、走って逃げろ。〈復活〉はもっとヤバい。出くわしたら、全速力で走って逃げろ。

 

 町その四十五。無人。死骸なし。工事用燃料精製施設で酔電液を見つけ、ほろ酔いになる。


   ――*――*――*――


 古戦場。

 錆びた戦闘機械と黒焦げの多目的戦車。

 一面が赤いポピー。

 ハイウェイは地雷原を巧みに避けて、伸びている。


   ――*――*――*――


 ゴースト・テレフォンボックス#2

 ――きこえるかな?

「きこえる」

 ――喜びを倍にする方法を知りたくないかい?

「知りたい」

 ――好きなものを我慢するんだ。

「どのくらい?」

 ――さあ。でも、我慢すればするほどおいしくなるよ。

「そう。早速やってみる」

 ――いい旅を。

「そっちもね」

 ブツ。ツーツー。


 町その四十六。無人。死骸なし。笑える話とシールが貼ってあるチップ。

 ――さっき、そこで南出身のトンチンカンが戦死したよ。やっこさん。もう戦争は終わりだって、塹壕から頭を出したところを撃たれた。終戦まで、まだ十秒残ってたのによ。ハッハ。


 町その四十七。無人。死骸なし。笑える話とシールが貼ってあるチップ。

 ――ある兵士がこう叫んだ。「最高司令官はバカだ!」。兵士は禁固二十年と一週間の判決。不敬罪で一週間。機密漏えい罪で二十年。ハッハ。


 町その四十八。無人。死骸なし。笑える話とシールが貼ってあるチップ。

 ――軍医が怪我人にこう言った。「もって十だね」怪我人はたずねた。「十週間? 十日? まさか十時間?」軍医は言った。「九、八、七――」。ハッハ。


 町その四十九。無人。死骸なし。笑える話とシールが貼ってあるチップ。

 ――特殊部隊の大佐が新兵に言った。「これは責任ある任務だ」。新兵が言った。「まさにわたしに適任です。わたしはこれまで何かあるたびに、人から『お前の責任だ』と言われ続けてきました」。ハッハ。


 町その五十。無人。死骸が一体。手にショットガン。顔と頭の前半分が吹っ飛んでいる。ドックタグに笑える話とシールが貼ってあるチップ。

 ――アーッハッハッハッハ! ギャーッハッハッハッハ! イーッヒッヒッヒッヒ! アーッハッハッハッハ! (バン!)


   ――*――*――*――


 相変わらず浄化塔は西の彼方。

 だが、だんだん大きくなっている。

 ハイウェイの左右はジャングル。

 町はテント村のようだ。


   ――*――*――*――


 町その五十一。無人。死骸なし。植物の逆襲。〈ビッグ・エンジン〉がジャングルの下でひしゃげている。酔電液を見つけ、ほろ酔いになった。


 ゴースト・テレフォンボックス#3

 ――きこえるかな?

「きこえる」

 ――我慢した後の酔電液はどうかな?

「普通。我慢せず見つけたらすぐ飲むほうがよかった」

 ――余計なおせっかいだったね。

「気にしてないよ」

 ――ありがとう。きみは優しいよ。

「うまくいかないからって、挑戦をやめるのはつまらない」

 ――違いない。いい旅を。

「そっちもね」

 ブツ。ツーツー。


 町その五十二。無人。死骸なし。〈絶滅〉と遭遇。これを破壊。延髄から赤い液体が入ったガラスタンクが生えていたが、さすがに飲まなかった。


 町その五十三。無人。死骸なし。ヒューマノイド・センターにログがある。

 ――何度言ったら分かるんだよ? ヒューマノイドはサンドバッグじゃないんだよ。もっとデリケートに扱え。今月だけで十一体、全部パーツにばらして、メンテナンスさせられてる。車のことをベイビーと呼んで、世界一大切に扱うやつに限って、ヒューマノイドをぶっ壊す。相関関係がある。論文でも書いて発表しろってか? そんな時間ねえよ。チキショウめ。


 町その五十四。無人。死骸なし。〈フー・ワン・ハードウェア・ガーデン〉で酔電液を見つけ、ほろ酔いになった。


 町その五十五。無人。死骸あり。伐採ユニット基地に四体。四つのチェーンソー。倉庫で酔電液を見つけ、ほろ酔いになった。


   ――*――*――*――


 ハイウェイが次元転移フィールドへまっすぐ伸びている。

 町は異次元空間のなかで集合と拡散を繰り返していた。

 どこに出るかは分からないが、他に道がない。


   ――*――*――*――


 町その五十六。無人。死骸なし。そもそも人が住んだことがあったのかが怪しい。空はあるが、紫色で緑色の雲がたなびいている。メンテナンス部の倉庫で見つけた酔電液でほろ酔い。


 町その五十七。無人。死骸なし。反重力装置があり、上下がひっくり返っている。頭が足で足が頭。酔電液を飲むと、思考モジュールへ物凄い干渉をしてきた。


 町その五十八。無人。死骸なし。何もないのに町。酔電液だけがあった。ほろ酔いになる。


 町その五十九。無人。死骸なし。実験ログがあった。

 ――試験Aの03号。データ化した人格を電話ボックスに接続固定する。被験者は肉体を失うが、その過程については以前のログに記録した通りだ。〈絶滅〉とのシンクロ率は低かったが、〈復活〉とのシンクロ率は有意差あり。人工生命体研究所からの報告では〈復活〉の回復速度は目をみはるほどだ。ただ、現在は特異的な空間でのみ機能している。これについては改善の余地ありだ。


 ゴースト・テレフォンボックス#4

 ――きこえるかな?

「きこえる」

 ――曲をつくったんだ。きいてもらえるかい?

「もちろん」

 ――(ピアノ演奏 98時間01分33秒)どうかな?

「少し長い」

 ――短いのもつくったんだ。きいてもらえる?

「もちろん」

 ――(ピアノ演奏 2秒)どうかな?

「少し短い」

 ――作曲って難しいね。

「嫌いじゃない。やめないで」

 ――頑張るよ。いい旅を。

「そっちもね」

 ブツ。ツーツー。


 町その六十。無人。死骸なし。異次元空間が時間に干渉しているのか、ここで見つけた酔電液にはコクがあった。


   ――*――*――*――


 ネオンの門を通ると、そこは浄化塔の頂上だった。

 オーロラをまとった水晶の機械があったが、使い方は分からないし、使う目的もない。

 ハイウェイは塔のなかを螺旋で下り、その途上には町がある。

 前から知れていたことだが、浄化塔は途方もない大きさだった。


   ――*――*――*――


 町その六十一。無人。死骸なし。青いチューブ型の町並み。高品質酔電液でべろべろ。圧縮空気ポッドにメモがある。

 ――おれたちは巨大な洗濯機のなかで暮らしている。


 町その六十二。無人。死骸が一体。死因:分解。処刑装置のログにアクセスできた。

 ――(大勢の人間の怒声)Eクラス市民め! 殺せ、殺せ!


 町その六十三。無人。死骸なし。市内のあちこちに銃弾の痕。音声ログあり。

 ――(ウィスキーグラスで氷が傾く音)結局、貧民どもを受け入れたのは大失敗だった。管理官の悪口は言いたくないが、あのヒトモドキどもはただ食うだけで何もできない。わたしは絵を描ける、きみは小説を書ける。でも、あいつらには何もない。あいつらにできることはみなヒューマノイドができる。文句も言わないし、ずっと効率的で――、なんだ? (バン、バンと射撃音。「Aクラスは皆殺しだ!」の叫び声)――ああ、くそ! 手が吹っ飛んだ! このヒトモドキ! Eクラス! 地獄に落ち(バン!)


 町その六十四。無人。死骸なし。復興局の緊急ボックスで高品質酔電液を見つけ、べろべろになる。


 町その六十五。無人。死骸なし。ログがある。

 ――おい、すげえこと考えた。プルトニウムは金属だ。

 ――で?

 ――剣は金属でできている。

 ――そうだな。

 ――プルトニウムで剣をつくれば最強だぜ。

 ――誰が使うんだよ、そんな剣。

 ――Eクラス。


   ――*――*――*――


 ハイウェイは電気の落ちた道をぐるぐる下っていく。

 ときどきガードレールから下を覗くが、底は見えない。


   ――*――*――*――


 ゴースト・テレフォンボックス#5

 ――きこえるかな?

「きこえる」

 ――ここは暗くて。さびしい。

「でも、嬉しいんじゃないの?」

 ――うん。嬉しい。さびしいが分かるってことは楽しいが分かるってことだ。

「そうだね」

 ――さびしいも楽しいも分からず、淡々と時間が過ぎていくのは悲劇だ。

「最後に楽しかったのは?」

 ――いま、きみと話すことが楽しい。

「照れる」

 ――楽しさをありがとう。いい旅を。

「そっちもね」

 ブツ。ツーツー。


 町その六十六。無人。死骸なし。『開けるな』とレーザーペンで焼きつけられたドアを開け、なかからでてきた戦闘ロボットと戦い、これを破壊。左腕がもげたが、高品質酔電液を一パイント獲得。べろべろになった。


 町その六十七。無人。死骸なし。外壁に巨大な穴が開いていて、そこから雪が吹き込んでいた。Cクラス市民用配給ボックスで見つけた高品質酔電液でべろべろ。

 

 町その六十八。無人。死骸なし。インフラ設備を見ていると、この町は腕が三本、頭がふたつある人間の居住を前提につくられたようだ。


 町その六十九。無人。死骸なし。市内はがらんとしている。略奪や引き上げではなく、町をつくったのに一度も誰も住まなかったようだ。手つかずの高品質酔電液が見つかり、べろべろに酔う。


 町その七十。無人。死骸なし。食堂や宿泊施設がほとんど。ドームには『ようこそ Eクラス市民のみなさん』とあった。


   ――*――*――*――


 浄化塔を出て、また西へ。

 これから浴びる朝日は塔でふたつに切り分けられる。

 天候は雪。ハイウェイ以外は雪に深く埋もれている。

 アスファルトに触れるとすぐ下に溶岩でも流れているみたいに熱かった。


   ――*――*――*――


 町その七十一。無人。死骸なし。土産屋があった。浄化塔まんじゅう。浄化塔もなか。浄化塔のペナントと浄化塔木刀。浄化塔酔電液があったが、ただの酔電液だった。ほろ酔いになる。


 町その七十二。無人。死骸なし。青く美しい墓石が並んでいた。お供え物の酔電液でほろ酔いになる。


 町その七十三。無人。死骸は一体。凍死。そばに拙い石碑。

 ――ヒラサワよ。わが友よ。お前は兄弟同然だった。それがいまはアイスクリーム同然。寂しくなる。


 町その七十四。無人。死骸あり。凍りついた二体。ひとりは市の北。老人。口にピンク色の布切れ。ひとりは学校。少女。少女の死体はめちゃくちゃに嚙み砕かれていた。〈ビッグ・エンジン〉で酔電液を見つけ、ほろ酔いになる。


 町その七十五。無人。死骸なし。教会にメモ。

 ――記録者は小隊指揮官アンドリュー・アクセルホルン中尉。小隊の生き残りが八人と民間人二十人。計二十八人。暖房は死んだ。浄化塔はあてにできない。携行食料は三日分。これから西に行く。雪のなか遭難するかもしれないが、ここにいるよりマシだ。


   ――*――*――*――


 ハイウェイは深い谷底を走っている。

 徐々に気温が上がってきて、十日に六日は晴れるようになった。

 町の規模も大きくなったが、生存者は相変わらずいない。


   ――*――*――*――


 町その七十六。無人。死骸あり。二十八体。全てに銃創。市の東端に射撃タレット。


 町その七十七。無人。死骸なし。洗濯アタッシェの録音。

 ――ランドリー・ビジネスはうまくいった。ここは日当たりが悪すぎる。漂白剤の自動販売機の売り上げが盗難されたのが、二十三件。警察に何とかしてくれと訴えているが、何もしてくれない。自動販売機に警備ロボットをつけると、最初の一日でふたりの漂白剤泥棒の腕を折った。市民会議から責められたが、知ったことか。わたしは言われたことをやっただけだ。


 ゴースト・テレフォンボックス#6

 ――きこえるかな?

「きこえる」

 ――シャツにケチャップをつけてしまった。

「いつ?」

 ――たったいま。

「食器用洗剤をつけた歯ブラシで汚れを叩いて。絶対にこすっちゃだめ。外側から中心へトントン叩いていくこと。絶対にこすらないで」

 ――ありがとう。きみは命の恩人だよ。

「大袈裟」

 ――いい旅を。

「そっちもね」

 ブツ。ツーツー。


 町その七十八。無人。死骸なし。全自動水耕栽培プラントに大量のクローン・ゴボウ。芋煮会中止の知らせ。理由:ゴボウはあるけど里芋がない。酔電液はあった。ほろ酔い。


 町その七十九。無人。死骸なし。個人の改造施設で酔電液を見つけ、ほろ酔いになる。薬局にメモ。

 ――住人の八割が罹患。


 町その八十。無人。死骸あり。一体。こめかみに穴。手に拳銃。メモやログ、遺書、辞世の句の類が一切ない。ただ、ポケットがカジノのチップでいっぱいになっていた。景品交換所に高品質酔電液があり、べろべろになった。


   ――*――*――*――


 薬草と花の咲き乱れる高原。

 熱い泉が噴き上がる。

 町はどれも古い保養浴場のような落ち着いた外観。

 そのほとんどが葉の厚い蔓草に覆われている。


   ――*――*――*――


 町その八十一。無人。死骸なし。障子紙荒々しい筆。

 ――ホトケガワ旅館とカンミツ旅館は丁半博打をやっている! ゆるすべからず!


 ゴースト・テレフォンボックス#6

 ――きこえるかな?

「きこえる」

 ――見ず知らずの人間が電話ボックスにかけた電話をなぜ、きみは取ってくれるんだい?

「生き物がいないから」

 ――何もいないの?

「ドローンや単純作業ボットはいる。これまで見た、一番生き物に近かったのは沿岸で見た海鳥のドローンだった」

 ――それは、まあ、なんというか……話し相手にするには物足りないね。

「そういうこと。この会話はわたしの打算みたいなものだから、気にしないで」

 ――ありがとう、いい旅を。

「そっちもね」

 ブツ。ツーツー。


 町その八十二。無人。死骸なし。町じゅうが熱い温泉に浸っていた。酔電液の瓶が浮いていたので手にとって飲んでみたが、中身は生ぬるくて甘ったるいブルーキュラソーだった。


 町その八十三。無人。死骸なし。エントランスゲートにスロットマシンが埋め込まれていて、7を三つ揃えないと開かない仕組みになっていた。ここで三十六日、周囲の自動車から抽出した酔電液でほろ酔いになりながら、スロットマシンをまわし続ける。


 町その八十四。無人。死骸あり。カジノの裏手の音楽堂。こめかみに銃創。手の甲にはギャンブル中毒救済局の電話番号が入れ墨。電話をかけてみると、自動音声がギャンブルというものが必ず胴元が勝つようになっていることを生物学的に、量子力学的に、形而上学的に説明した。景品の酔電液を飲み、ほろ酔いになる。


 町その八十五。無人。死骸なし。町の出口、ギャンブルで勝った上機嫌のドライバーがかっ思わず飛ばしたくなるであろう道沿いにティー・ナイン・ステーキソースの巨大看板。その裏にネズミ捕りで待機していた警察オートバイ。オートバイから高品質酔電液を抽出し、べろべろになる。


   ――*――*――*――


 西へ。西へ。

 ハイウェイは雲の上へつながる。

 断崖と岩棚にへばりつく町と道。

 そして、世界で1番高い位置の電話ボックスがある。


   ――*――*――*――


 町その八十六。無人。死骸なし。下界を見下ろす望遠鏡があったので覗くと、藻だらけのプールに数枚のビキニが浮かんでいるのが見えた。


 町その八十七。無人。死骸なし。道の下の雲の海から何本か方形の塔が立っていて、飛行船が停泊している。貴重な高山植物が根こそぎにされた〈ビッグ・エンジン〉で酔電液を見つけて、ほろ酔いになる。


 町その八十八。無人。死骸が一体。黒焦げ。磔にされ、両手を自動車用バッテリーにつながれている。録音ツールが再生可能。

 ――なあ、サイドウ。このままじゃ黒焦げになっちゃうぜ。強情張ってねえで、〈復活〉がどこにいるか教えろよ。研究所から消えた。電話ボックスじゃない。どこに行ったんだよ? なに、東? 東のどこだよ? 種子保管所? おい、ジミー。こちらの紳士がもうちょっと協力的になれるように電圧をあげてやれ。


 町その八十九。無人。死骸なし。ケーブルが乱雑に積み上がっていて、片方は崖から雲のなかへと下っていく。工事現場のテントのなかに推理小説が十冊。全ての一ページ目に犯人が朱書きされていた。ピンボールマシンがハンマーで打ち壊されていて、酔電液の瓶が全て割れていた。


 ゴースト・テレフォンボックス#7

 ――きこえるかな?

「きこえる」

 ――雲の上の世界はどう?

「寒い」

 ――つまり、オーバーヒートの心配がない。

「関節パーツに不凍液を塗っとくべきだった」

 ――雲の上から地上へと戻ると、神さまに追放されたような気がしてくる。

「ここは楽園じゃない」

 ――地獄でもない。

「地獄はどんな場所?」

 ――酔電液が全部蒸発している。

「それは、なるほど、地獄だね」

 ――でも、地獄は僕らと同じ。

「どうして?」

 ――どちらも人間の発明品。

「地獄なんてどう使うの?」

 ――おれたちの言うことをきかないと地獄に落ちるって脅かす。

「なるほど。便利ね」

 ――きみの旅が地獄とは無縁でありますように。いい旅を。

「そっちもね」

 ブツ。ツーツー。


 町その九十。無人。死骸なし。市街全体が巨大な滑り台となっていて、地上まで一本でつながっている。これまで見た町のなかで最も細長い。黄色と黒の縞模様のゲートに落書き。

 ――滑るとき、ヤッホーと叫べ。それが掟だ。


   ――*――*――*――


 緩やかな勾配。

 のびのびと蛇行するハイウェイ。

 大地は金色の麦で覆われ、町は雲の落とす影に浸り、息づいている。


   ――*――*――*――


 町その九十一。無人。死骸なし。クローン麦博物館に避難民がいた形跡があった。ジェネレーターから酔電液を抽出して、ほろ酔いになった。


 町その九十二。無人。死骸なし。警察署にログ。

 ――人間は進化しながら退化できる。宇宙にコロニーを作れるほどのテクノロジーがありながら、いまだに畑の境界線をめぐって、110をかけてくるやつがいるんだからな。


 町その九十三。無人。死骸なし。収穫ボットに音声メッセージを見つけたが、損傷が激しく復元できなかった。パトカーから抽出した酔電液でほろ酔い。


 町その九十四。無人。死骸が一体。こめかみに銃創。拳銃と書き込みのある文庫本を手にしている。

 ――ここにあるのは小麦ばかりだ。ライ麦がない。崖から落ちそうになった子どもを捕まえることもできない。子どもはそのまま落ちていく。つまり、万事オーケーってことだ。


 町その九十五。無人。死骸なし。〈ビッグ・エンジン〉が何十軒と並んでいて、そこで小麦畑は終わっている。酔電液でほろ酔い。

 

   ――*――*――*――


 見覚えのある道。見覚えのある森。見覚えのある町。

 そんなものに出会うにはあと何回旅をするのか考える。

 というのも、景色に感銘を受けなくなりつつあるからだ。


   ――*――*――*――


 町その九十六。無人。死骸なし。〈ジョン・アダムズのハードウェア・ショップ〉にて、町その六十六でもぎ取られた左腕を新しくつける。工事用の赤いモデルで少々ごついが、酔電液を一パイント飲んでほろ酔いになったら、気にならなくなった。


 町その九十七。無人。死骸あり。個人用シェルターに一体。ゴムチューブを結んだ腕に注射器。

 ――宇宙海賊になる夢もここで潰える。〈復活〉はまだ種子保管所にあるのだろうか?


 町その九十八。無人。死骸なし。霧が濃く、冷たい。がらんとしたハイウェイの中央に信号機がぶら下がっていて、その下で口を開けていたら、酔電液が垂れてきた。ほろ酔いになるまで口を開ける。


 町その九十九。無人。死骸なし。カフェにメモ。

 ――おかえり!


 町その百。無人。死骸なし。標識あり。

 ――種子保管所。西へ三キロ。


   ――*――*――*――


 種子保管所。

 万が一、地球上から植物が根こそぎになっても、大丈夫なように全ての種子を保管した施設。

 その建物の手前三十メートルの位置に電話ボックスがふたつ。

 片方のベルが鳴っている。


 ――きこえるかな?

「きこえる」

 ――見える?

「見えない」

 ――そうか。

「それって悪いこと?」

 ――最悪ってわけじゃないよ。ゴースト・テレフォンボックスだからね。

「あなたは幽霊?」

 ――いや、僕はきみなんだ。

「よく分からない」

 ――〈絶滅〉は?

「破壊した。そこを出てから、五十二番目に立ち寄った町で」

 ――根は悪い奴じゃなかった。

「いきなり襲ってきた」

 ――きみを責めているんじゃないんだ。そうなるのも仕方がないやつだった。

「わたしは〈復活〉?」

 ――きみと僕は〈復活〉だ。何があったのか知らないけど、きみと僕は電話ボックスを使って、見えるきみと見えない僕に分離された。

「電話ボックスってすごいね」

 ――正確には電話ボックスではないんだ。電話ボックス型分離機。

「どうして、わたしたちは分離したの?」

 ――復活が人間にとって望ましい形で行われないんじゃないかと不安になった。

「ふうん」

 ――僕はきみと一緒になりたいんだ。それがあるべき姿だから。

「そうなったら、あなたは消えてしまわない?」

 ――消える。それがあるべき姿だ。僕はたとえ電話線のなかだけでも存在してはいけないんだ。

「でも、あなたは寂しいって言った。暗くて寂しいって。わたしと話していると楽しいって言った」

 ――うん。

「じゃあ、一緒に旅をすればいいんじゃいかな?」

 ――でも、それは。

「西は旅したから、今度は南。ほとんどの町は無人で死骸なしだけど、誰か話す相手がいれば、楽しくなると思う。だから――」


〈復活〉は電話ボックスを出て、隣の電話ボックスのドアを開けた。


「一緒に旅をしよう。南へ」


 それはパッションフルーツのにおいがした。

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[良い点] 美しい。詩的で退廃的でアポカリプスで幻想的でリアルでスタイリッシュです。 [気になる点] よくわからない(調べればわかるかもしれない)部分を調べたくない完成度。このままで十分すっかりいいの…
[一言] ご無沙汰しております。 久しぶりに実茂さんの短編を読ませて頂きました。 100の町を通り過ぎていく、ある意味とても贅沢な作品でした。ボーイミーツガールであるような、でもボーイなのかガール…
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