御伽噺の最後は『めでたし、めでたし』で
「あっ……宰相さん、来たみたい……です、っん」
「大丈夫、結界があるのだろう?」
「でもっぉ、魔術師さんっがぁ……あっ!……結界を」
「無理矢理、突破したのか無粋だねぇ」
「だ……から……あぁっ!」
「だから、何?」
「もぉ……ぬいっ……てぇ」
「おや、貫いて欲しいの? でも絡み付いて放してくれないのは、君の方なんだけど」
「ちがっ……もうすぐ、来ちゃうから……あんっ!」
「ふふ、最中に他の男の事を考えるなんて、許せないねぇ。 コレは『お仕置き』決定かな」
「えっ!? ちょっ!! やぁ、んあぁぁぁぁっ!!!」
少女の否定の声は高らかな声に変換された、男が律動を再開したからだ。
入り口には、これ見よがしに複数の鍵が掛けてあった。
こんなに掛けても彼の魔法の前には一発だと言う事は解っているのだろが、あくまで知らしめる為に。
「『開封』」
魔術師が、手を添え呪文を唱えると全ての鍵が外れ、中の空気と外の空気が混ざる。
一種、独特の濃密な雰囲気で最奥にある寝室の様子は、手に取る様に分ってしまう程で……ってか態と分らせているのだろうが。
「今日は出遅れてしまいましたからね、仕方がありません」
宰相は大きな溜息と零し、執務室に入った。
来たらすぐ仕事をさせる為に書類を整理していると、魔術師が首を傾げる。
「今日は、拘束して引っ張り出さなくて良いのか?」
「そうしたいのは山々なのですがね……止めておきましょう」
前に一度、強制的に終わらせたら、その後に酷く王子が拗ねてしまい、一日中、仕事にならなかったのだ。
少々時間は狂ってしまうが、満足させた方が後々の効率がいい。
「では私の仕事はここまでだな、夕刻に副団長と迎に来よう」
「済みませんね、お願いします」
「問題ない」
魔術師はそう言い残すと、執務室を後にした。
一人残された、宰相はもう一度大きな溜息を吐く。
まるでこの部屋の酸素は、彼の為に用意されているかの様に。
「全く、朝も早くから元気な御人だ」
王子の行方が分らなくなって、彼の愛馬だけが森で見付かって一週間後。
魔術師と魔女と白魔導師の、不眠不休の懸命の魔術による捜索のお陰で、ようやく所在地を特定する事が出来た。
森の中心部、特殊な結界に護られた場所。
その結界を部分的に解除し中に入ってみると、木々に囲まれた広場に小屋があった。
そしてそこには、愛しい少女を手に入れ至極満足そうに蜜月を過している王子の姿が。
……王子にに宰相からの雷が落ちたのは言うまでもない……
マディの話によると、彼女の全てを龍神に捧げた為、神体である森と完全に一心同体化してまって、外には出られないらしい。
だから、王子も城を出て森で暮らすと言うのだ。
あの龍神の白い光のお陰か、王の病気も完治して以前よりも元気になって執務をこなしているし。
森と完全一体化した少女の恩恵で、山脈を越えた王国の入り口には不可思議な結界のような物が出来、あからさまな悪意のある者は弾かれるようになっていた。
なので王子には必要最低限の時だけ城に居てくれれば、それはそれで構わないのだ。
どうせ今迄も散々逃げ回っていたのだから、居場所が確実な方が有難い。
王国を拓いた生き先祖への御礼である。
満場一致で王子を差し出した……押し付けただけでしょう!とは魔女の言葉。
一ヵ月後、その場所に小さいがそれなりの屋敷が建てられ、毎日の様に宰相がその屋敷に王子の仕事を携え通う様になっていた。
ただ生来の悪戯気質と言うか、マディとの二人っきりの時間を延ばそうと、色々な仕掛けを施してくるので辿り着くまでが大変なのだ。
基本、魔術の行使が可能な者と、騎士団の誰かが付き従う羽目になっている。
たまに馬番が馬の面倒を見に来たり、今日みたいに料理長が料理の仕込みの手伝いに来たりする。
朝早くに辿り着ければ良いのだが、ちょっとでも遅れてしまうと既に二回戦が始まっている状態で。
そうなると、ちょっとやそっとでは終わらない。
三度目の溜息を零していると、目の前に香りの良いお茶が差し出された。
「先日、姫から教わったハーブティーなんです。 イライラが少しは治まりますよ、宰相様」
「有難うございます……あぁ、美味しいですね」
「それは、良かった」
「イライラが抑えられる様なハーブティーがあるなら、王子の元気を抑えられる様な物も、ありますかね?」
「あ~ソレは、毒草使って機能不全にするしかないと思いますよ」
「……いざとなったら、お願いしましょうか」
「じゃぁ、色々取り揃えておきますね」
冗談半分の宰相に、ニッコリと微笑む料理長。
秘め事はまだまだ終わりそうになく、宰相は苦笑しながらもう一口お茶を飲んだ。
王国は今日も平和である、少数の犠牲の名の下に。
めでたし、めでたし
こっ声だけだから、なろうに置いても平気だよね(←無責任~っ!