表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盟約の杜  作者: セアル
1/6

リハビリなう。

消えてしまった自HPのパラレル小説から、二次部分を削除しました。

戦闘による残酷描写、R-15あります。

(おさわりと、声程度ですが、さらに控えます)

 そこは、何処でもない世界。

 過去でも現在でも未来でもなく、古代でも中世でも現代でもない。

 剣と魔法が存在する、不思議な世界の御伽噺。




 世界中どこの勢力にも属さない小国があった。

 軍備が強い訳ではない、魔法に長ける訳でもない。

 高く険しい山脈に囲まれ、更に広大で奥深い森に阻まれた、小さな小さな王国。


 要は、その労力に対し侵略するに値しない……と諸大国に判断された国。


 だがその土地は肥沃で天候は穏やか、主な産業が農業と畜産と林業であるが故に食料自給率は高く、飢える心配のない国民は優しく朗らかで暖かい。

 小さな箱庭の様な国ではあるが、相応の文化を持ち決して大国に劣っている訳ではない。

 まるで、大きな御手でそっと守られている様な不思議な国。


 そんな平安な場所にも騒動の種はある……まぁ人物限定の喧騒なのだが……



「王子っ! 何処にいるのですか!? 王子っ!!」


 歳若い青年の声が城内を響き渡る。


「宰相様、また王子に脱走されたのですか?」

「全く持って面目ない。 本日は隣国の謁見隊が来るので城に居て頂く様にと、あれ程っ! 言っておいたのですが」

「あぁ、そんな事を先に言っては駄目ですよ。 王子は、面倒事が嫌いなんですから」

「しかし王の病状が優れない今、代わりは王子しかいませんし」

「そういう時は、僕に言ってもらえれば食事に一服盛っておきますよ」

「料理長殿!」


 眼鏡を抑えながら怪訝な表情を零す青年に、金髪の柔らかな巻き毛の少年は正に人畜無害かの様な天使の笑みを返す。

 本来ならば身分の違う二人、こんな風に親しげに会話できる筈もないが、この国では身分など唯の役職名に過ぎないのだ。


「冗談ですよ……で脱走したとなると、馬番の所に行ってみてはどうですか?」  

「そうですね、有難うございます」


 青年は慌しく頭を下げ、その場を後にする。

 残された少年はソレを微笑ましそうに見ながら、一言呟く。


「……宰相様、今度は一服盛りに頼みに来るかな?」


 青年が馬小屋に辿り着くと、そこには馬番の少年がご機嫌で馬の手入れをしていた。

 それはいいのだ、それが彼の仕事だし……しかし彼の脇に掛けられている服を見て、悪い予想が当っていた事に頭を抱える。

 それでも一縷の望みを賭け、馬番の少年に尋ねた。


「馬番殿……もしかして、王子は?」

「よぉ、遅かったな宰相サンよ。 王子が逃げ出したのは、一時間ぐらい前だぜ」

「逃げたのが分っているのなら、止めるか、教えるかして下さいっ!」

「俺に王子を止められるかよ。 それに、アイツの尻拭いはアンタの仕事だろ?」


 深紅の瞳を細めてニッ!と笑うその表情が、今は無性に腹立たしい。


『そんな事は私の職務ではありません!』

 と怒鳴りたいのは山々だが、半ば間違ってはいないだけに何も言い返せないのも事実で、青年はその怒りを空に向かって発散させた。


「あぁぁぁ、もうっぉぉぉぉぉ! 馬鹿王子がぁぁぁぁっぁぁぁ!!」


 と、王国にはこんな風に周りを翻弄する……特に生真面な宰相が一番の被害者……一粒種の王子がいた。

 翡翠の瞳に、同色の緩やかにウエーブする長い豊かな髪。

 容姿端麗、頭脳明晰、剣の腕にも優れ、実力は寡黙な騎士団長に匹敵する程。

 だが性格は少々性質が悪く折角の才能を生かす事もなければ、何事においても飄々とかわし、人を揶揄う事を趣味とする。

 年齢が三十一歳なので……実は宰相よりずっと年上……王子と呼ぶにはどうかと思うが、現在、病の床についているとは言え王は存命。

 更に彼は、未だ妃さえも選んでいないので、王位を譲れず王子のまま……恐らく、本人は王位に就きたくない為に妃を選ばない様だが。





「……そろそろ、宰相にバレる頃かな?」


 怒り心頭の彼の顔を脳裏に浮かべ、ククッと咽で笑う。

 その微笑を世の女性達が見ていたら、あまりの色気に腰が砕けた事だろうが、残念ながらこの場にそんな観衆はいなかった。


 王国をグルッと取り囲むように原生している森。

 その森に彼は腰を落ち着けていた。


 いくら王子の装束から平民の服に着替えたとは言え、彼の顔は城下では知れ渡っていて、存在自体が非常に目立つ。

 騎士団には大雑把ながら気性が好いのが受け、城下の者に好かれている副団長がいて、すぐ情報が彼に渡ってしまうのだ。

 それでは簡単に見付かってしまうだろう。

 だから森に身を隠す。

 王国を肥沃な大地へと保ってくれている、しかし皆に恐れられている、この「禁断の魔女の森」に。


 森はあまりに深く広く大きく、街道周辺なら兎も角こんな奥まで訪れる者はまずいない。

「魔女の森」とは呼ばれるが、本当に魔女がいるかどうか真偽の程は不明ではあるが、「君子危うきに近寄らず」「触らぬ神に祟りなし」との諺にならい皆はそれに従ってきた。


 最初はホンの気まぐれだったのだ。

 魔女がいるなら逢ってみたいと、城にも虹彩異色の無愛想な魔術師や、黒髪の魔女や、気の弱い白魔導師がいる。

 だから別段、珍しくはないのだが、何故か心魅かれたのだ。

 しかし、いざ入ってみると森に人の気配はなく、その雰囲気も思った以上に穏やかなものだった。  

 だから森に身を隠す。

 自分を優しく包み込んでくれ様々な喧騒から守ってくれる、この「秘密の森」に。


 だが、流石に今日はこのままって訳にもいかないだろう。


「隣国の謁見隊ねぇ」


 何故、来るのか?

 隣国は大国だ、こんな小国に謁見する利点があるとは思えない、しかも態々、隊列まで組んで。

 なにやら、きな臭い感じがした。

 胸にざわめく、良からぬ予感。


 そんな彼の心境を映したのか次第に雲行きが怪しくなり、ポツリ、ポツリと雨が降ってきた。


「やれやれ、天の神までが私に『帰れ』と言うのかねぇ」


 仕方なく重い腰を上げ、傍に結わえてあった馬の手綱を掴んだ。


 次第に激しくなる雨足を少々鬱陶しく思いながらも、コレが恵みの雨だと言うことも、十二分に理解していた。

 この雨ならは、謁見隊も足止めを食らう事だろう。

 もしかすると二~三日の猶予は出来るかもしれない……その間に多少なりと手を下す事が可能だ。

 そんな事を馬上で考えていた瞬間、突然の落雷が目の前で爆ぜた。


「なっ!」


 それは咄嗟の事で何も出来ない。

 馬がけたたましく嘶き後ろ足で立ち上がり王子を振り落とすと、狂った様に暴れその場から走り去っていった。

 王子は暫く頭を守るように突っ伏していたのだが、馬が去っていってしまったのを確認し、ゆっくりと上半身を起す。


「っ!」


 その瞬間、両足に激痛が走る。

 どうやら馬が暴れた時に、蹴られてしまったようだ。

 骨が折れた様子はないが次第に暗紫赤色に腫上がり、立ち上がる事どころか力を入れる事さえ間々ならない。

 何とか這って近くの木まで辿り着くと、背を預け貯まり切った息を吐く。


「やれやれ、困ったねぇ」


 暢気な台詞をはいてはいるが、本当に困った状態なのだ。

 ここは「禁断の魔女の森」一般人はまず立ち入らないだろう。

 来るとすれば自分を探す為の騎士団位だが、森は深く広く偶然に会える可能性は低い。


「ふふ、こうなると剣の腕なんて大して役に立たない物だね。 回復魔法ぐらい覚えておくべきだったかな」


 元々、魔法の素質はあまりないのか彼が使える魔法はただ一つ、今のこの状態には何の効力もないものだった。

 それに、あの気の弱い白魔導師では『教える』事は出来ないだろう。

 腕は決して悪くないのだが性格が邪魔をするし、他の二人は攻撃系の魔法しか使えないのだから、最初から無理な話だ。


 そんな事に気を紛らわせていたが、雨は一向に止む気配はなく、馬が戻ってくる様子もなく、誰かが探しているような雰囲気もない。

 襲い来る激痛の中、冷たい雨が容赦なく王子の体力を奪っていく。


「……あまり良い行いはしてないからねぇ。 天国の門は私には開いてくれない……だろう……ねぇ……」


 薄れ逝く意識の中、暖かな何かが頬に触れた様な気がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ