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後談】精霊たちの騒めき(2)

今回もヴィクトル視点。



「君は躊躇なく自分を傷つけるらしいね」


嗚呼、そうだった。

殿下にエミルさんの事は、報告相談はしていた。


エミルが生きてると断言して、尻を叩いて、送り出してくれたのは殿下だから、見つけ出してからは、嬉しさの余り、学生の時のように久々にめちゃくちゃ話した。

色々交渉もしてもらってしまった。


こうして居られるのも殿下のお陰だ。

感謝している。

あまり言うと何を言われるか分からないので、最初だけ謝辞を言ってそれっきりだが。


エミルが行う行為が、普段のおっとり呑気な様子の人間が起こすような事ではない気がする。

そんな気がするのに、本人は当たり前のようにして、『何が悪いの?』といった風で心配になる。


「僕は薬のデータが欲しいだけで、別に自分を壊したいとは……壊したいんだろうか?」


悩み出しちゃったよぅ…。

思わず、膝の上にチョンと乗った手をギュッと握った。


顔を顰められた。痛かったようだ。

慌てて緩める。ごめんなさい…。ナデナデ……許してね。

心配なんだよ。あなたを失うのが怖い。


「そうか、そうか。分かった」

急に殿下は上機嫌になった。


殿下は、光属性のあれこれをざっくり説明し始めた。


相も変わらず唐突な人だ。


教会には形式的なことしか伝わってない事柄が多いので、彼らから説明を受けてたとしても殿下からの説明は興味深いのだろう。エミルは真剣に聞き入っている。


私は、その真剣な横顔に見入っていた。

ほっぺ突きたい…。


「……という事で、これらは極秘なんだけど。君なら大丈夫だよ」

話は終わったようだ。


何故か、エミルがオドオドと落ち着かなくなった。

私にピトッとくっ付きて来た。私の服の裾をギュッと掴んで何かに耐えてるようだ。


エミルさんと殿下を交互に見て、腑に落ちた。

世間も教会も知らないとんでもない秘密を知ってしまって、口封じされるのではないだろうかと考えて…いるのかな?


あーもー、その発想! 可愛いね。

ぎゅっと抱きしめたくなる。


殺そうと思ってる相手に教えないって…殺そうと思ってて教えるって事もあるのか?

なんだか自分まで思考が迷子になりそうになった。


「あー、大丈夫だから。君は欲がないし、君が知ったところでどうって事ない情報だろ? 白くなるのが知りたいのかと思ったから開示したんだよ」


殿下も察したようだ。にこやかに宣ってる。


エミルさんは、パシパシ瞬き……ふわっと緊張を解いた。


「ですねぇ〜」

なんて軽い口調。可愛い過ぎる!

我慢できずに抱きしめていた。

柔らかな髪を頬に感じながら、彼の温もりを堪能……至福。

気持ちいいです…。


「でもね、どうしようか。後発発現の人間でここまで大きくしたのは初めてでね。ウチの研究院の人間が知ったら面倒だね」


「面倒は嫌ですねぇ」

害虫見つけて時みたいに物凄く嫌そうな声音。


エミルさんと離れるのは嫌だぞ。

ぎゅっと抱きしめる腕に自然と力が入ってしまった。


「そうだろ? なんだか君は、精霊の加護まで付いちゃってるし」


「そうなんですか?」

そうなのか?

いつもの事だが、殿下は不思議だ。


「そうだよ。あそこで、こいつとイチャイチャして過ご、して……あーあーあー、そういう事? 分かった。分かったよ〜」


ブツブツ言ってると思ったら、パッと表情が明るく輝いた。

赤毛に空色の瞳をキラキラさせている。

憎たらしいイケメンめ。


黙ってれば、ちゃんと王太子なんだが。

学院での所業と巻き込まれた私としては正体知ってるぞ的な気分だ。


殿下が、手を打って、分かった分かったとひとり納得している。


「ヴィー、お前さん程々にしてあげなさいね。それから、死ぬのは、この人を見送ってからにしてね」

ニヤニヤしながら、私を指差しながら、注意してくる。

人を指差すんじゃありませんッ。


「あー、愛ってヤツですか? 重い、重いよ、ヴィーくん」

厭らしい笑い方だな。王子様らしくしろよ。

睨んでやったが、全く効果がない。


これでも外交とかしっかりやってるんだからなぁ。ちゃんと王太子殿下してるんだよなぁ。


私が『もう揶揄わないでくれ』と口を開きかけると、手の平がこちらに向けられた。

言葉を飲み込む。


殿下は、制止を促して口元に指を当ている。

静かにしないといけないらしい。


殿下の視線が空をうろうろしてる。時々頷いてる。

いつもの奇行だが、初見のエミルは私に身体を寄せて固まっている。


急に席を立つと、机に向かい何か書き留めピッと破ると、私に差し出した。


エミルさんからそっと離れて、受け取る。

綺麗な字が綴られていた。


「ヴィー、やっと見つかった。すぐに競り落としてきて。オークションに出るらしい。資金は俺が出してやる。行ってこい」


エミルと紙、殿下へとウロウロと視線を動かしてしまった。動揺が丸わかりだ。


「エミルくんは置いて行って。お茶したいから。ソレを手に入れたら、いつものしてから、戻っておいで。くれぐれも順番を間違えちゃダメだよ。いい加減もダメだからね」


動揺がバレバレの忠告。


嗚呼、離れたくない。こんなところに置いていくなんて……でも、行かないと…。


両の手でエミルの手を纏めて包み掴む。

見詰めれば見詰める程、エミルさんが不安そうにしてる。


しまった。余計に不安にさせてしまった。

何と言ってやればいいのか。言葉が纏まらない。


手に唇が押し当てる。

大丈夫。ちゃんと戻ってくる。落ち着け。


「行って来る。出来るだけ早く戻る」


安心させる為だったが、逆効果だっただろうか。

眉がヘニョっと垂れる。更に不安そうな表情。


「さっさと行け。慌てて失敗るな。落ち着いて」


殿下がシッシと手を振って、早く行けとイラついた声。

仕方なしに手を未練たらしくゆっくり解いて立ち上がる。


クンッと袖を掴まれた。


「だそうなので、しっかり頑張って下さい」


キリッとした表情。

本人が平凡顔のおじさんと言ってたが、充分可愛らしい。童顔をやたら気にしてるけど、可愛いだけだからいいのです。


真面目な表情。レア表情かも。

惚れ直すよ!


拳を胸元に力を込めて握って応援してくれる仕草に胸を熱くしていた。

エミルさんの応援……感無量です。


「分かった」

笑顔全開! さっさと終わらせるぞぉぅ! 気力充実!


転移魔法で跳んだ。

会心の魔法展開であった。




次はエミル視点で殿下とのお茶会です。


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