【補足話】捕まえるまでの話。(ヴィクトル視点) 《後半》
後半です。
よろしくお願いします。
エミルの行方は分からないが、『幻の露店』の跡を追った。
地図を広げ、噂のあった場所に印をつける。
『幻の露店』は国外で出現している。
あとを追えば、外に出る事になる。
出入国手続きが面倒なので、偽名で冒険者ギルドに登録した。
国交のある国の往来は、ほぼフリーパス。
エミルも商業ギルド辺りに登録してるはずだ。ギルドは登録者には納める物と仕事をしていれば優しいが、余程の事がない限りは外に対して口が固くて敵わん。
『幻の露店』に出会えたという冒険者たちに接触出来たが、どの冒険者も店主の薬師の印象が皆無だった。
地図を改めて見る。
海に向かってる?
ーーーー海か。
港で小柄な男と露店の聞き込みをするが、掠りもしない。
この辺りのダンジョンでは『幻の露店』の情報がない。そのまま期限が来て帰る。
親戚スジから連れてきた青年は難なく領地の運営をしてくれてる。
優秀なので、期限を区切らなくてもと思うが、私のサインが必要なものもあって、まだまだ往復の日々だった。
港を中心に方々に足を伸ばしたが、露店の情報はなくなった。
さらには火山島にも足を伸ばした。
旅行者の話を聞いて回った。
髪の色はもう指定しなかった。髪染めを使ってるかも知れない。
小柄な男。露店をしてたのなら、大きな荷物。
そんな風貌の旅行者はいなかったかと。
そんな中、絵描きの小柄な男の話が引っ掛かった。
小柄な男は、少し嵩張る荷物を背負って、小さなスケッチブックに熱心に島の植物を描いていたらしい。
エミルのような気がする。
そんな情報も微かになった頃、砂漠の方からやってきた男のおかしな話を小耳に挟んだ。
オアシスが広がっている。
広がっている?
縮小はある事だが…。
砂漠にオアシスが出現するのは知ってるが、長く続いてもそれはいつか消えて、また別のところに現れる。それが世の常だと思っていたのだが…。
エミルも不思議な男だった。不思議な事があるところに彼がいるような気がする。
砂漠の国方面へ向かいそうな船を探して、大急ぎで手続きをした。
オアシスに到着早々に、知った匂いに出会った。
挨拶なしに胸ぐらを掴んだ。
街のメインストリートのど真ん中。
魔力が絡み合った。
相手も私のことを知っているようだった。
「待った。ここはまずい。移動しよう」
冷静な声音に、つられて冷静になった。
それもそうだ。
騒ぎを起こせば、ギルドが黙っていない。制裁金は痛い。
砂漠で対峙して、互いに理解した。
魔力は同程度。やり合えば無傷ではすまない。戦場ではない。ギリギリの対決は不毛だ。
相手も練っていた魔力を霧散させる。同じ事を考えたようだ。
決闘は始まる前に終わった。
ジリジリ照りつける太陽の下、訊きたい事を口にした。
「エミルをどこに隠した?」
ねじ伏せるのは諦めたが、単刀直入に切り込んだ。
こいつしか彼を連れ出す事ができる人間はいないはずだ。
「ーーーー隠したところで、仕方がないですね。彼は行方不明です。火山島までは一緒だったんです。オアシスに一人向かったまでは分かったのですが、ここで足取りが消えて…」
行方不明?
ここで消えた?
コイツは、何を言ってる?
彼は土属性だ。
植物好きだった。
ウチでだって、庭の隅で薬草か何か育てていた。
この緑が広がってるのに関わってると思ったのだが。
行方不明なんて……行方不明ってなんだ?
手がかりがない?
彼に関わりそうなモノなんて…もうない。
もう……会えない……のか。。。
力が抜ける。
ここで土いじりをしてるのではと思ってたのに。
こんなところで何をしてるんだって、笑ってやろうと思ったのに。
迎えに来たって言ってやろうと思ったのに。
今度こそ、いっぱい、いっぱい、話そうと思ってたのに。
気づいたら、膝をついて泣いていた。
やっと会えると思ってたのに……ッ。
砂に両手をつき、吸われていく涙の跡を見ていた。
ギチギチと砂に爪を立てる。
涙が止まらない。
堰を切って溢れてくるものを止められなかった。
嗚咽を溢しながら泣いた。
男が慰めてくれてる。
さっきまで殺してやるって圧を飛ばしていた相手を慰めてる…。
この男はお人好しか!
お人好しは私が泣き止むまで側にいてくれた。
街に戻って語り合った。
そして、悔しそうにグラントリーは自国に帰って行った。
オアシスに何度も通い、やっとこの辺りをふらふらしてた変な旅行者がいたと少年の証言を得れた。
小さい頃のすれ違った程度の記憶だから曖昧だと念押されたが、確信していた。
背格好は、エミルだった。
手や腕に草の蔦のような模様が描かれていたらしい。
綺麗だなと覚えていたそうだ。
あっちに向かったと、指差す方向に足を向ける。
楽しそうにふわふわしてる変なおじさんだったと。
エミルは旅を楽しんでいたようだ。
少年の見かけた頃の緑の端はこの辺りだったはずだ。ぐるぐる見て回るが何もない。
暑い。
木陰で水を飲みながら、乾いた風を感じつつ眠っていた。
『領主さまかな?』
それがヌシさまとの出会いだった。
目覚めて、夢だと思いつつも、手掛かりに縋りついた。
「エミル、見つけた…」呟いていた。
「もう消えないでくれ」願った。
ヌシさまが言うには、融合してしまったエミルを解放するには依代とヌシさまへのエネルギー供給量の増幅が必要なのだとか。
ここをもっと大きくして、エミルを移せる若木を育てる事。
それが、今の私の出来る事。
「ここに通うよ。このオアシスを大きくする。砂漠がなくなる程に大きくしてやる。
お前を解放して貰えるように。貰えるぐらい頑張るから。だから、だから、もう消えないでくれ……」
地面に両の手をついて呟く。祈りを込めて。
この下にエミルがいる。
不思議な感じだがそうなのだと確信にも似たものを感じていた。
掌に微かに感じる安らぐ魔力。エミルの魔力だ。
そこからが王都と領地の往復にオアシスへの滞在と権利の交渉。
ツテは使いまくった。
国家間の事は分からないが、王太子が何かしてくれたらしい。
またこき使われる予感がするが、致し方ない。
私は若木を育て始めた。
火属性の自分にとっては試練だった。
一度森を焼き払ってるので他の精霊にも見放されたか。
気候的にも、条件も揃ってるはずなのに。
自分の木以外はすくすく育つ。
私が手がけた木はなかなか育たなかった。
あの仕業の後から魔法も火力が思うように上がらなくなっていた。精霊に見放されたのだろう。
ヌシさまに何度も別の木にする話をしたが、あの木が気に入ったと譲ってくれない。
隣りの木は手をそれ程手を掛けてないのに、すくすく育っていく。
手を掛けなければ育つか?と思い、少し手を抜けば、途端に元気を無くす。
手をかけ、日参し、何年経っただろう。
時折り、夢でヌシさまと話をする。
エミルが泣いて困ると言ってる事もあった。子守り歌のようなものを知らないかと問われた。私はその辺りは疎いので、知らないと返した。
エミルは何が悲しくて泣くのだろう。
やはり地上が恋しいのだろう。
早く木を大きく育てなければ…。
今日も手入れの為の道具を手に若木に向かう。
オアシスは大きくなった。
地下水の汲み上げには一定の制限を掛けつつ、水路や浄化装置を配置して、街を整備した。砂漠は存在しているが、緑は少しずつ広がっている。
若木のあった場所に人が座り込んでいた。
裸で全身泥だらけだった。特に脚はドロドロだった。泥に浸かっていたようだ。
背格好は忘れもしない愛しい男の姿で。
あの時のままで。
「エミル?」
振り返った涙に濡れた顔は紛れもなく彼で。
泥で汚れた顔でも分かる。
会いたい人に漸く会えた。
『ヌシさま感謝します』
もう離さない。
互いに渇望する熱も落ち着いた頃合いで、離れてからの、離れた時の事を、眠いのかぽややんとしたエミルに質問してみた。
彼は、なんて事は無いといった風に答えてくれた。
私は彼を腕の中で身動き取れないように絡めて、逃さないようにしていたが。
……話す内容は予想はしていた。
予想は大体合っていたが、話す様子は…。
自ら耳を削ぎ落として、魔獣に食べて貰ったと話す様子は、「ちょっとそこまで行ってね」と話すような呑気な声音と表情だった。
自らの身体を最もあっさりと傷つけられるものなのか。
呑気な陰に得体の知れない何を感じて、絡めた手足を更に強く絡める。
「そうだ! ヴィクトルさま、温泉に行こう。海は見た?」
さっきまで少し眠そうだった彼が、パッと顔を輝かせて、呑気にそんな提案をしてきた。
私の話を聞いていたのだろうか。
彼にとって過去はそれ程重要ではないのか。
ーーーー今現時点では、重要じゃないって事かもしれない。
ほんの少し、彼を分かった気がした。
先の事…。
そうだな。この手を離さなければ、彼は去っていかないだろう。
指先に唇を押し当てる。
柔らかく微笑んで、私の手にキスを返してくれる。
長く慣れない土いじりで荒れていたはずの手は、荒れていたのが嘘のようだ。
「温泉でも何処でも。あなたが行きたいところに行こう。ただ、仕事をしないと王太子に怒られるので、次の休みになりますよ?」
「構わないよ。僕は薬でも作ってるさ」
嗚呼、あの音を聞けるのかと思うと心が躍る。
しっかり、優しく、抱き込んだ。
くふふ…と擽ったそうに笑う彼。
もう何処にも行かせはしない。
私の側から離れないで。
これにて本編のこのお話は一旦終わりです。
後日談は……書いた方がいいです? 読みたい?
王子の事とか光属性や闇属性のこととか妖精や精霊、ドラゴン、書きたい事書いてます。
なろう版に改訂が必要なんで、ちょっと腰が重い( ̄▽ ̄;)
反応で考えていいですか?
ご意見、ご感想お待ちしてます。
ブックマーク増えたら、準備しちゃう。
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