表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/41

【11】微睡


長いような短いような時間の曖昧な揺蕩いの中、時折り浮上して漂い、そして、地下深く潜り、感覚に浸る気分は気持ち良かった。


『ここに通うよ。このオアシスを大きくする。砂漠がなくなる程に大きくしてやる。

お前を解放して貰えるように。貰えるぐらい頑張るから。だから、だから、もう消えないでくれ……』


懐かしい声がした気がします……。


………

目が覚めると、冷たい地面に転がっていました。


冷たい…。寒い…。

手をついて身体を起こす掌に体重を感じた。小石が掌に食い込む。痛い。


手足がある。

指もある。

痛覚がある。

感覚がある。


手は泥で汚れていたが、手で指で顔を触り、目鼻を確認。耳がある事を確認して、引っ張って、痛みに自分のだと感じ、髪を引っ張ってその痛みに、生きてる事を実感したら、鼻の奥がツーンとして、視界が歪んだ。

溢れる涙は熱くて、視線を手に向ける。

手が揺れてる。

瞬きすれば、パタパタと泥に汚れた掌に落ちた。涙が出てる。


「エミル?」


声のした方を見上げれば、懐かしい瞳を持った美丈夫が立っていた。

彼の手には木を手入れする道具があった。

音を立てて地面に落ちた。


赤い瞳。

ダークブルーの深い青色の髪。

長い髪は後ろでひとつに束ねている。

整った顔は陽に焼けて、目尻にシワが刻まれて……。


僕と同じ歳もしくは、上な気がする。

領主さまは若くて…。僕はトウが立った男で、情夫で、ただの回復人形で。


ここで返事をして良いのだろうか?

僕は僕ではなくなっていて……。エミルでいてもいいのだろうか。

人であるという保証もないのですが。


『人だよ。ちゃんと復元出来て良かった。ほぉ、ほぉ、ほぉー…』

ヌシさま?


彼が着ていた上着を泥で汚れた僕に躊躇する事なく羽織らせ、抱きしめた。

誰かに感謝の言葉を呟いてる。


ヌシさまが微睡の中で何か言っていた気がする。

若木を依代にしようとか。

50年ほど保つ容れ物を用意できるかとかなんとか。

気が向いたらとか言ってたけど、ヌシさまは一度眠ると数年だったり数時間だったり、千年だったりするとか。

共有する感覚がそんな事を伝えてきていた。


僕はただただ漂うように眠りを貪っていたが、ヌシさまは目覚めてたのだろうか…。

……どうやら頑張ってくれたらしい。


ありがとう、ヌシさま。


僕は、地上に還ってきた。


「領主さま…」

小さく呟いた。喋れた。

僕は……、一番帰りたかった場所に帰って来れた。


「もう領主じゃない。名を呼んでくれるだろうか?」

静かな声。振動も心地いい。


領主さまにも名前があるんだと呑気に赤い瞳を見つめる。綺麗だなぁ。

見惚れながらコクリと頷いた。

意志の固さを思わせる形良い唇が動く。


「ヴィクトル。……エミル、探したよ」

探させてしまったらしい。どうしてだろう…。

「ヴィクトルさま。僕は…」


領主さま、もとい、ヴィクトルさまは僕の言葉を待っている。


目覚めてすぐの僕は、ぼんやりで、でも忙しく頭の中は回ってて、言葉は生まれては弾けて、消えていく。


「ひとまず、屋敷に行こう」

ヒョイと抱えられる。横抱きで運ばれる。腕の中は安定感があって、安心して身体を預けられた。


緑が広がってる。

乾いた風も感じる。

目に映る全てを見ていたかったのだが、急激に眠気がやってきた。疲れてしまったようだ。

以前より逞しくなった胸に縋りついて眠った。懐かしい匂い。




目が覚めるとふかふかのベッドで、天井を見上げると、天蓋。

天蓋付きのベッドです。

なんだかデジャヴ…。


ゴロリと寝返りを打つと、離れたところのソファにローテーブルに書類を広げ、手元の紙束を見てるダークブルーの髪の人がいた。

手元の書類を捌いてる。


仕事をしてるその姿をぼんやり眺めていた。

肩幅も張って一回りは大きくなってる気がする。広い背中には頼り甲斐のある落ち着いた雰囲気が漂っている。


泥だらけだった身体は綺麗になっていた。

素肌にシーツの乾いた感触を感じる。

どの感覚も懐かしく、新鮮だった。


『ヴィクトルさま…』

心の中で呟いてみる。ほわぁんと胸が温かくなる。


微睡む中、領主さまを想っていたと思う。

度々、気づけば、接触スレスレに様子を見に行ってたようで、気づかれそうになっては引き返していた。

領主さまとの触れ合いを思い出しては胸の奥を熱くした。

あれは仕事だったのに。領主さまに抱きしめられたくなってる。

嫌になる。

自分が最低な浅ましい者になった気がして、胸が苦しくなる。

身体の中をスライムが這い回る感覚がする。

このままこの小さな生き物に溶かされ、消えたい…。


会いたい…。


即座にそんな事はないと、否定して、苦しくなる。

泣いては、ヌシさまがヨシヨシと撫でてくれていた。


揺蕩い、微睡の中、領主さまを恋しく想っていた。


全てを否定して、苦しくなって……。


これでは好いた人に会いたいようではないか…。


ヌシさまが帰りたいか?と訊いてくる。

思い浮かぶ場所は、彼の腕の中だった…。


領主さまに恋していたんだ。


夢の中で自分の気持ちに気づいて、叶わぬ想いに冷笑する。

自分はただの情夫なのだ。


深く眠ろう……。


それが最後だった。


同化してるというのは何にもかも共有されてる、全て筒抜けで恥ずかしい。

ヌシさまがなんらかの事をしてくれたのだろうか。身体を作ってくれた。これだけで十分だ。

領主さまに会えた。

もうこれで十分だ。


この場からどう逃げようか…。


『もう消えないでくれ』

あれは誰の言葉だろう…。





不思議空間の表現は難しいです。伝わるかなぁ(^_^;)


ブックマークしてみませんか?

更新のお知らせが届きますよ?


感想や星やいいねを頂けたら嬉しいです。


感想欄の↓下の方にスタンプや匿名でメッセージ送れるの設置してあるので、使ってみて下さい(๑╹ω╹๑ )


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

感想欄はログインしなくても書き込めます。
いいねや星や感想が欲しいんですけど。
↓匿名でメッセージなど送れます。↓

▶︎恥ずかしがり屋さんはココをポチッ◀︎


感想、ご意見、お待ちしております。スタンプのみの足跡もOK。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ