暴走侍女
「クオン殿下・・・いえ。今はクオン閣下でした。失礼いたしました」
「いや・・・それはいいんだけど。なんでこんな所まで?若しかして・・・」
「いえ。両陛下も皇太子殿下もご壮健であられます」
「なら良かった。だけど、どうしてシュリが西街まで?」
「それは───」
「ちょっ!ちょっと待ってくれや!」
俺とシュリが話していると、それまで空気だったマスターが話しかけてきた。そりゃそうだよね。置いてきぼりだし、情報過多だし・・・俺の素性も分かっちゃったし・・・聞きたいこともあるよね。
「───ッ!殿下とのお話しを遮るとは!万死に値します!」
──キンッキンッキンッ───
「うぉぉい!クオン!この侍女さん危ねぇよ!いきなり首筋にご挨拶って・・・おいおいおい」
「────ッ!私の小刀を・・・」
「うおぉぉぉい!見てねぇで助けろや!」
シュリとマスターの攻防をニヨニヨと見つめていたら、マスターからのヘルプがきた。ただまぁ・・・本来はシュリの対応の方が正しいからなぁ───。あっ!でもそうか。今の今まで俺の身分を明かしてなかったから仕方ないのか。っとと、マスターの首筋に小刀が近づきすぎたからそろそろ止めさせよう。
「シュリ。マスターに・・・と言うか、ギルドに俺の身分を明かしてなかったからさ。下がっていいよ。流石に正当な力の行使にはならないから」
「・・・はい」
「ふぅ・・・恐えぇよ!この姉ちゃん!」
俺の一言でシュリを離すと、マスターは額に冷や汗をかいていたらしく、それを拭いながら俺に対してそう訴えてきた。
「すみません。シュリが勝手をして。ほら、シュリ。謝って。身分も明かしちゃったってぇ!おい!こんな所で自分のお腹に刃物を当てない!」
マスターに少し声をかけていたその瞬間に、シュリはお腹に得物を当てていたので、慌てて引っぺがせす。
「殿下に頭を下げさせてしまった挙げ句に、身分まで・・・私の命で償います!」
「だから、そこまで重く考えなくていいから。身分だって、軽く動くために伏せていただけだから。それに、マスターしかこの部屋にいないしね。ね!マスター!他には漏らしませんよね?」
マスターに、にっこりと微笑みながらそう告げると、青い顔をして首を縦に高速に振るマスターがいた。なぁんか俺が笑いながら訴えると皆こういう行動をとるんだけど・・・なんでだろう?
「殿下・・・。申し訳ありません。」
「良いって良いって!」
「あぁ・・・それで、クオン。殿下?」
若干青い顔をしながらもマスターが話しかけてくるが、今まで通りで良いと告げると、手元にあったカップの中身を飲み、一息つくと今までの非礼を謝られた。あんまり俺は気にしないんだけどなぁ・・・。
「謝罪は受け取りました。まぁ、俺的には今まで通りの対応をお願いしますよ」
「あっあぁ・・・」
「ところでシュリ。なんでこんな所まで?」
ちょっと場が混乱してしまったので、話を振り出しに戻すべく俺はシュリに話しかけた。すると、彼女が懐(えっ・・・メイド服の胸元)から手紙を出す。若干暖かいし、なんならマスターの目も生暖かい。
「皇帝陛下からです。この場で読むようにとの言伝で御座います」
「おいおいおい。俺がいても良いのかよ」
「第三者の目があるところでと言うことでしたので、この場を選びました。何かご不満でも?」
「いや・・・」
またシュリが鋭い目でマスターを見たので、それを止めさせて、手紙を読む。
「うえっ!?」
そこには自分の今後の生活を180°変えることが記されていた────。




