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「情けないとは思わないか?」
エイノは青い顔をして額に手を添えているが、それでも冗談を言って場を和ませようとでもいうのか、自嘲的だった。
「英雄だなんて言われて華々しく凱旋式もした人間の実態がこのザマだ」
「思いません。もっとご自分をいたわってください」
ヘルジュはエイノの隣に座り、背中に手を当てた。ヘルジュがしてやれることは少ないが、人の手で触れるといくらかは気が休まると思ってのことだった。
「城を攻められたときなんかは、戦いながら交代で眠りにつくこともあった。遠くからずっと誰かの叫び声が聞こえてくるんだ。常にどこかで何かが燃えていて、空がオレンジ色で……『寝ている間に味方が負けて、敵がなだれ込んできて死ぬんじゃないか』と思うと、一睡もできなかった」
彼にはその光景が見えているのだろう。
今もなお。
「私はこれでも総司令官だから、弱音なんて吐けなかった。いつも味方を叱咤激励して戦果を誇張し、死地に突撃しろと命令していた。何人殺したのだか分からない――」
「エイノ様……」
彼の悩みは重すぎて、ヘルジュにはとうてい理解が及ばない。
でも、三年の間に彼は数え切れないくらい眠れない夜を過ごしたに違いないことだけは分かった。
「ご自分のせいだなんて決して思わないでください。ひとりひとりが祖国を守るために立派に戦ったのです」
横になるエイノの傍らで手を繋いでやりながら、リクエストに応えて子守唄を歌っているうちに、彼は眠ってしまった。
(エイノ様が素敵な夢を見られますように)
穏やかな寝顔の額をひと撫でして、ヘルジュは音を立てないよう気をつけながら、そっと部屋を出たのだった。