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かきかけ~作者と愉快な主人公たち~  作者: 蓮井 ゲン
第二章 新たなる旅路
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82 最上階

「……何もねーじゃねーか」

 最上階に入るなり、ゲンが呟く。そこには何もなかった。向かいの壁に上り階段が付いていないことと、天井がやたらと高いことを除けば、これまでの階と何ら変わりのない空間が広がっているだけだった。

「……閉じ込められたみたいだね」

 ケンジアの声に振り向くと、上ってきたはずの階段も消えていた。いつの間にか出入口が扉で塞がれていたのだ。今までの扉とは違い、問題が書かれていない。押してもびくともしなかった。

 先に進む階段も、後に戻る階段もない。ゲンたちは閉じ込められてしまったようだ。


「こりゃやべーな! どー考えてもボスが出てくるパターンのやつじゃねーか!」

 強敵の登場に備えて、ゲンたちは素早く身構えた。が、何も起きない。何も現れない。塔の中にはただ静寂だけが満ちていた。

「……あれは何だ? あそこだけ床が光っている」

 ロキが中央付近の床を指差した。見ると、確かに床の一部分が一定間隔で光っている。周囲を見回してみても、光っているのはそこ以外にない。何か重要な意味を持っているのは間違いないだろう。

「あそこを踏めってことなのかな……?」

「めちゃくちゃ怪しーけど、このままじゃ埒が明かねーし、あれを踏むしかねーみてーだな」

 ゲンたちは周囲を警戒しながら、光る床を目指して慎重に歩を進めた。



「……嫌な予感しかしねーな」

 ゲンの足元で、床が光っている。そこだけ他の床よりもわずかに飛び出ているようにも見える。何かのスイッチになっているのかもしれない。

 ゲンが気になっているのは、ここまで全く敵と遭遇していないことだ。今までは10歩程度進めば敵が出現していた。だが、この階ではまだ戦闘が発生していない。他の階なら既に4、5回は起きていてもおかしくない距離を、既にゲンたちは進んでいる。

 だからこそ、足元にあるスイッチらしき床が怪しく感じられた。踏めば強敵が登場する可能性は十分に考えられる。

 だが、踏む以外の選択肢はないだろう。敵の出現に備えて態勢を整えると、ゲンは光る床に右足を下ろした。


 直後に現れたのは敵ではなかった。壁だ。1枚ではなく、4枚。ゲンたちから少し離れたところで、壁が向かい合っていた。まるで何かを取り囲むかのように、正方形に並んでいた。

 4枚の壁には同じ文字が書かれており、ボタンやマイクもついている。今までさんざん対峙してきた扉と同じように、それが問題であることはすぐにわかった。

「この壁の向こうには何があるか。

①青龍筒

②白虎体

③玄武丸

④なし」

 壁に書かれている問題を、いつものようにロキが読み上げる。

「これは一体どういうことだ……?」

「そんな……! 話が違うよ……!」

 驚きの声を上げたまま、ロキとケンジアの動きは完全に止まっていた。


「……そーゆーことか。やってくれんじゃねーか」

 ゲンも悔しそうに言葉を吐いた。

 4つの石のうち、この塔にあるのは朱雀紋だとヨハンから聞いている。だが、選択肢の中にその文字はない。挙げられているのは、他の塔に置かれているであろう3つの石の名だけだ。ここから導き出される答えは、ただ1つしかなかった。

「④の何もねー!」

 ゲンが答えると、壁は4つとも一瞬で消え去った。正解だったのだろう。そして、その答えに違わず、壁の向こうには何もなかった。

「ちくしょー。ふざけやが――」

 ゲンが言葉を止める。別の場所で床が光ったのが見えた。十数歩で辿り着けそうな距離だ。

「次はあそこを踏めっつーことか。おもしれーじゃねーか!」

 ゲンは次の目標に向けて歩き出した。




「……またこれかよ! ふざけんじゃねーぞ! いーかげんにしやがれ!」

 ゲンは怒りをぶちまけた。壁の向こうにある石の名を当てる問題が出るのは、一体これで何度目だろうか。問題文も選択肢も正解も、全てが全く同じだ。正解すると壁が消えて、また別の床が光り始めるのも同じだった。

 わざと違う答えをしてみたこともあるが、何も起きなかった。他の階とは違い、なぜか不正解でも下に落とされることはなかった。④と答えるまで膠着状態が続くが、正解してもまた同じことが繰り返されるだけだった。


「……まだ先は長そうだな……」

「いろんな場所が光り始めたね……」

 ロキとケンジアがため息を漏らした。あちこちの床が同時に光り始めたのだ。今までは1つだけだった光が、複数箇所に散らばっていた。

「片っ端から踏みまくって、当たりを見つけろっつーことか? めちゃくちゃ面倒くせーけど、他に方法もねーみてーだし、しゃーねーな。いっちょやってやろーじゃねーか!」

 一番近くで光っている床に向かって、ゲンは歩き出した。




「……ちくしょー! どこにもねーじゃねーか!」

「これだけ探してもないとは……」

「同じ問題ばかり、もう見飽きたよ……」

 ゲンたちは途方に暮れていた。手分けして床を踏んだが、3人とも全く同じ問題にしか遭遇しなかった。誰も朱雀紋という選択肢を見つけることができなかった。

 光っている床はもうない。一つ残らず踏んだが、それでも目的の石は見つからなかった。


「……今度はあんなとこかよ!」

 ゲンが指差したのは天井だ。天井の一部が、同じように光っていた。

「次は天井か……! いいかげんにしろ……!」

「あんな高いところはとても押せないよ……」

 ロキは苛立ったような、ケンジアは諦めたような声を発した。天井が高すぎて、とても押せそうになかった。


「こーすりゃいーんだよ!」

 ゲンが剣を伸ばす。あっという間に切っ先が天井に到達し、光っている部分に触れた。直後に出現する4枚の壁。しかし、書かれている問題に目新しさは皆無だった。

「ちくしょー! ここでもねーのかよ! いーかげんに――、おりゃ!」

 天井の別の部位が光り出したのに気づき、ゲンは剣を伸ばした。だが、やはり結果は同じだった。出現した壁に書かれた問題に、朱雀紋という文字は存在しなかった。

「ksg!!」

 ゲンは何度も床を蹴りつけた。探している石が一向に見つからず、苛立ちが限界に達しようとしていた。



「……まさか君たちがここまで上って来るとは思わなかったよ。僕は君たちを見くびりすぎてたかもしれないね」

 頭上から声が降ってきた。

「ケイム……!!」

 ゲンは天井を見上げた。だが、そこにケイムの顔はない。

「でも、残念だったね。君たちが探してる石は、この階にはないんだよ」

「なんだと……!?」

「君たちは石が最上階にあると勘違いしちゃったんだね。でも、この塔の高さを見たら、誰だってそう思うよね。もっと低い塔にしてもよかったんだけど、高くして正解だったよ。君たちが見事に引っ掛かってくれたからね」

 ケイムの声には嬉しさが滲み出ていた。顔は映っていないが、してやったりといった表情をおそらく浮かべていることだろう。

 ヨハンは塔の中に石があると言ってはいたが、それが最上階だと明言していたわけではない。塔の中なら最上階しかないだろうと、ゲンたちが勝手に思い込んだのは事実だ。

 だが、それも無理はないだろう。天高くそびえるこの塔を見れば、誰もが最上階を目指したくなるに違いない。ケイムはそれを狙っていたのだ。


「ふざけんじゃねーぞ! 石はどこだ!?」

「じゃ、いいことを教えてあげるよ。この塔は地上55階、地下5階の合わせて60階建てなんだよ。石がどこにあるか、これでわかったかな?」

「地下5階っつーわけか! ふざけんじゃねーぞ! 初見でわかるわきゃねーだろ!」

 ゲンは顔を真っ赤にして怒鳴った。

「ちゃんとヒントはあげてるよ。不正解だったら下の階に落ちたよね? あれがそうだったんだよ。あのときに何も感じなかったのかな? あのまま間違え続けたらどこまで落ちるのかとかって考えなかったのかな? 君は作者だからもちろん答えを知ってるけど、わざと間違えたらよかったんだよ。最初に落とされた時点で気がついてれば、わざわざここまで上ってこなくてもよかったのにね」

 ケイムの声は、まるで笑いをかみ殺しているかのようだった。

「ぐぬぬ……。やってくれんじゃねーか……」

「今までの苦労は全部無駄だったのか……」

「あんなにがんばらなくてもよかったんだね……」

 3人は肩を落とした。この塔での奮闘は、すべて徒労だったようだ。しなくてもいい戦闘を繰り返し、正解しなくてもいい問題を解き続け、上らなくてもいい塔をひたすら進んだ。すべては時間と労力の無駄だったのだ。


「君たち以外の3組は、もちろん5問連続不正解で、あっという間に地下5階まで落ちて行ったよ。結界を消すには、4つの石をほぼ同時に壊さないといけないのは知ってるよね? 君たちがここにいたら、いつまでたっても結界は消せないよね? 早く地下5階に行かないといけないよね?」

 ゲンたちを煽るように、ケイムは楽しそうに畳みかけてくる。

「でも、ここから地下5階まで行くのは大変だと思うから、近道を用意してあげるよ」

 ケイムの言葉が終わると同時に、何かが倒れるような音が階下からいくつも聞こえてきた。小さな振動も絶え間なく伝わってきた。


「何だ……? どーゆーことだ……?」

「54階から地下4階まで、全部の階の床を割ったんだよ。だから、この階のすぐ下は地下5階だよ。これですぐ行けるね。よかったね」

 ケイムの声は弾んでいた。その言葉が真実なら、ゲンたちの下には約60階相当、少なく見積もっても200メートル以上の高さを持つ、広大な空間が広がっていることになる。

「いーわけねーだろ! ふざけんじゃねーぞ!!」

「じゃ、そういうわけだから、後はがんばってね」

 ケイムの声が響く。次の瞬間、足元の床が割れ、ゲンたちはなすすべもなく落ちて行った。

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