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かきかけ~作者と愉快な主人公たち~  作者: 蓮井 ゲン
第二章 新たなる旅路
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81 難問 その5

いつもありがとうございます。

問題を解くだけのお話は今回で終わります。

よろしくお願いします。

「森を歩いていると、熊と遭遇するかもしれない。どうすればよいか?

・死んだふりをする

・果敢に立ち向かう

・写真や動画を撮る

・ゆっくりと後ずさりする

・くまったな~、と呟く

・笑顔で話しかける

・背を向けて走って逃げる

・大声で助けを求める

……これは簡単すぎる。すぐにわかったぞ」

 答えさせろと言わんばかりに、ロキが手を挙げた。


「最初から森には近づかない」

 ロキのその答えが扉を消し去った。

「ロキ、やるじゃねーか。どーするもこーするもねーよな。熊に出会わねーよーにすんのが一番いーに決まってんじゃねーか」

 ゲンは笑いながら階段を上り始めた。




「かつて一大帝国を築いたアレック大王。絶大な権力を振るった彼ですら、意のままにできないと嘆いたものが3つあると言われている。『世界三大不如意』とも呼ばれているその3つは、次の①~⑩のうちどれか。

①川の流れ、賽子の目、寺院の僧

②地震、雷、火事

③ソシャゲのガチャ、SNSのいいね、動画の再生数

④時間、天候、季節

⑤身長、体重、頭髪

⑥ギの国、ゴの国、ショクの国

⑦巨人族、大砲、目玉焼き

⑧年齢、健康、体力

⑨他人、過去、未来

⑩嫁、子、親

……これは手強そうな問題だな」

「別の人の不如意なら聞いたことあるんだけどね……」

 ロキもケンジアもなかなか答えを閃かないようだ。


「史実じゃ④っつーことになってるみてーだが、そんなのは間違いなく建前で、ガチの本音は⑤か⑧のどっちかのはず。どっちなのかは本人に聞け!」

 ゲンがすかさず叫ぶ。正解だった。

「外見と加齢が気になんのは、どの時代でもどの世界でも一緒っつーことだ。ちな、オレなら⑤の身長、体重、頭髪な。身長と頭髪を増やそーとして食いまくってんのに、どーゆーわけか体重だけしか増えねーんだよ。つらたん!」

 ゲンはわざとらしく泣く真似をした。




「動物たちが集まり、鳴き声を披露している。ここに犬は何匹いるか?」

A:ニャー!

B:ワンワン!

C:メー!

D:チュンチュン!

E:モー!

F:ブー!

G:キャンキャン!

H:ガオー!

I:ヒヒ―ン!

J:コケコッコー!

L:コンコン!

K:ケロケロ!

……これは簡単だな」

「僕もすぐにわかったよ」

 2人は余裕の表情を浮かべている。


「0匹!!」

 ロキとケンジアが同時に答える。しかし、不正解だったようだ。一行は階下に落とされた。不正解を出したのは、十数問ぶりだった。

「まさか不正解とは……。俺の読みが甘かったか……」

「海にいるイルカのことじゃないんだね……。犬は何匹イルカ、だから0匹だと思ったよ……」

 2人は悔しそうに俯いている。

「なかなかいー読みしてんじゃねーか、オマエら。でも、さっきのはそーじゃねーんだよ。正解は2匹だ」

 ゲンは2人に正解を明かした。


「……今回は珍しくまともな問題だったようだな」

「2匹ということは、普通に答えてたらよかったんだね」

「たまにゃこーゆー問題があってもいーだろーが。今まで同じよーにひっかけだと思わせておいて、そーじゃねー問題が。っつーことで、正解は2匹。ちな、CとJな」

「CとJだと……?」

「BとGじゃないんだね……」

 ロキとケンジアが驚きの声を上げる。

「他の動物の鳴き声を真似してんだよ。だから、ワンワンキャンキャン鳴いてんのは犬じゃねー。ちな、ワンが馬でキャンが烏な」

 ゲンは鬼の首でも取ったかのような表情を浮かべた。




「パンはパンでも、食べられるパンは? ……なんだ、この問題は?」

「食べられないパンじゃなく、食べられるパンなんだね……」

 一風変わった問題に、2人は困惑しているようだ。

「食えねーパン以外!」

 ゲンは即答した。もちろん正解だった。


「さっきも似たよーな問題があっただろーが! パンは食えるか食えねーかのどっちかしかねーんだよ! っつーわけで、食えねーパン以外は全部食えるに決まってんだろーが!」

 ゲンはしたり顔で叫んだ。

「そー考えると、やっぱ解せねーよな。ケコーンできるかできねーかは50%、パンを食えるか食えねーかも50%。どっちも同じ50%じゃねーか。でも、オレにゃとてもそーは思えねーぞ。食えるパンはあちこちで見かけんのに、ケコーンできる女にゃ全然出会えねーじゃねーか。同じ50%っつー確率なのに、こんなに差があんのはおかしーだろーが! マジでイミフだぜ。なんでそーなんのか、小一時間どころか、小一週間問い詰めてーぜ!!」

 ゲンは早口でまくし立てた。


「もっと早くケコーンできてりゃ、こーやって確率の話を蒸し返す必要もねーし、ロリにもなってねーんだよ! オレはな、誰が誰に求婚しても、同じ50%だ同じ50%だと思って、ずっと求婚してきたんだよ! でも全然うまくいかねーから、じゃあオレが! ロリになって寂しー毎日を変えてー! その一心で、縁もゆかりもねー雑誌とかマンガとかサイトとかを見まくって、やっとロリになったんだよ! ロキ! ケンジア! オマエらにゃわかんねーだろーな!」

 かなり意味不明な内容を、ゲンは涙声になりながら叫んだ。




「世界中のありとあらゆる洞窟を踏破した伝説の冒険家、ロジャー。彼は生涯この指を使わなかったと言われている。その理由を説明せよ。……左手の中指だと? どういうことだ?」

 問題文の下にはイラストが書かれていた。一目で人間の両手だとわかる。ちょうど左手の中指に当たるところが、矢印で示されている。問題文にあった「この指」を表しているのだろう。

「本当に左手の中指を生涯使わなかったのかな? そんなことできるのかな?」

 2人は訝しがるように、何度も問題を読み返している。


「自分の指じゃねーから!」

 ゲンが正解を叫んだ。

「一生使わなかったっつーのは、ロジャー本人の指じゃねー。さっきのイラストに書かれてたあの指のことだ。自分の指じゃねーんだから、どーやっても使えるわけねーだろーが! 使えたらこえーわ!」

 ゲンは階段に向かって歩き出した。 




「ある法則に基づいて、言葉が『ある』と『ない』に分かれている。

ある:ジェリア、じ、く、ト、はえ、時間が

ない:ジェリア、じ、く、ト、はえ、時間が

 では、『きた』はどっちか。……なんだ、これは? 同じ言葉が並んでいるようにしか見えないが?」

「僕にはわかったよ。これは簡単だね」

 複雑そうな表情のロキとは対照的に、ケンジアの顔には笑みが広がっていた。


「南の反対!」

 ケンジアの声が響く。正解だった。

「やるじゃねーか、ケンジア。あるなしっつーのは関係ねーんだよ。要は、北がどっちっつー問題だ。っつーことで、北は南の反対。めちゃくちゃ簡単じゃねーか!」

 ゲンの声が響いた。




「君主を屠り、王の座を奪取した騎士タモグレス。玉座に腰を下ろし、ふと頭上を見ると、真上に剣が吊られていた。その剣を支えているのは、たった1本の髪の毛であった。

 タモグレスはとっさに床に転がった。次の瞬間、玉座に深く突き刺さる剣。まさに間一髪であった。わずかでも反応が遅れていれば、彼の野望はここで潰えていたに違いない。

 すぐに立ち上がり、次の攻撃に備える。が、それは杞憂に終わった。周囲に敵の気配は全く感じられない。彼の命を狙った犯人は、既にこの場から立ち去っているのであろう。

 自分を快く思わない者たちの存在を、彼は当然知っている。少なく見積もっても、その数5人。そのいずれかが刺客を放ったのであろうことは、想像に難くなかった。

『おのれ……!』

 返り血で朱に染まった彼の顔が、さらに赤みを帯びた。拳が、肩が、全身が、激しい怒りで大きく震えている。そして、彼は声を限りに叫んだ。一体何と叫んだか。……これも微妙な問題だな」

「僕が知ってる話では、剣は落ちてこないよ……」

 2人とも首を傾げている。


「髪を粗末にすんじゃねーよ! 剣を吊るすとかありえねーだろ! もったいねーじゃねーか! こんな使い方するよーな余裕があんのなら、オマエのその髪、オレによこしやがれ!!」

 ゲンのその絶叫は、今までのどの解答よりも迫力があった。まるで騎士タモグレスの魂が乗り移ったかのように、かなり真に迫っていた。

「その答え、お前が言うとかなり真実味があるな……」

「さっきのはものすごく感情がこもってたよね……」

 2人も珍しくゲンの解答を絶賛している。その視線は、もちろんゲンの頭頂部に注がれていた。


「こっち見んな! オレの頭ばっか見んな! 恥ずかし―じゃねーか!」

 ゲンは手で頭を覆って隠す真似をした。

「オマエら、オレのことをハゲと呼びてーなら呼べよ。オレのペンネーム、蓮井ゲンを略すと『ハゲ』だ。っつーわけで、どんなにハゲハゲ言われよーと、オレにとっちゃペンネームを略して呼ばれてるよーにしか聞こえねーから、ぶっちゃけノーダメだ。全然気になんねーよ。……って、んなわけねーだろ! めちゃくちゃ傷ついとるっちゅーねん! 中年やっちゅーねん!!」

 ゲンは地団駄を踏みながら喚き散らした。





「……あそこがてっぺんみてーだな」

 上った先の壁に書かれた最上階という文字が、階段を上りながらでもはっきりと見えた。数多の戦闘と難問を乗り越え、ゲンたちは今まさに最上階に辿り着こうとしていた。

 気になるのは他の塔に行ったメンバーたちの現状だ。順調に進んでいるのだろうか。次々と起きる敵との戦闘で、負傷や疲弊をしてはいないだろうか。出される問題になかなか正解できず、いまだに低階層をさまよっていたりはしないだろうか。

 不安や心配は尽きないが、その答えを知る術は一切ない。今のゲンたちにできるのは、与えられた役割をしっかりと果たすことだけだ。


「オマエら、油断すんじゃねーぞ。このまますんなり石を割れるたー思えねー。めちゃくちゃつえーボスが出てくんのまでがテンプレだ。気合入れて行こーじゃねーか」

 ゲンの言葉に、ロキもケンジアも頷く。2人も同じことを考えていたのだろう。

 石を守る最後の砦として、道中とは比べものにならないほど強い敵が配置されていることは十分に考えられる。だが、たとえどんな強敵が相手だとしても、ゲンたちは負けるわけにはいかない。負ければ今までの苦労がすべて水の泡だ。


「じゃ、さっさと終わらせよーじゃねーか」

 ゲンたちは最上階に足を踏み入れた。

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