80 難問 その4
いつもありがとうございます。
今回も支離滅裂な問題を解くだけのお話です。
よろしくお願いします。
「8000人が参加したマラソン大会で、3位の選手が2位の選手を抜いたら、自分は今何位? ……どういうことだ?」
「自分は2位? 3位? 情報が少なすぎて、わからないよね……」
遭遇した奇問に、2人は戸惑っているようだ。
「7986位!」
ゲンは即答した。正解だった。
「自分が2位や3位なわけねーだろーが! そんなに足がはえーなら苦労しねーよ! 8000人中14人がリタイアして、今はダントツの7986位を走行中だっつーの!」
ゲンは興奮気味に叫んだ。
「次の中で仲間外れは?
・鉛筆
・バイク
・冷蔵庫
・ライオン
・火曜日
・セーター
・サッカーボール
・大統領
・ハーモニカ
・紫色
・ブロッコリー
・博物館
・宝くじ
・北北東
・クリスマス
・太陽
……仲間外れ以前に、仲間になりそうなものが見つからない」
「共通点が全然ないよね……」
2人はしきりに首を傾げている。
「ロキ、オマエならこの問題、わかんじゃねーか? 深く考える必要はねー。この問題に対してオマエがどー思ったか、それをそのまま答えりゃたぶん正解だ。簡単じゃねーか。がんがれ」
「……仲間外れはよくない。みんな仲良くするんだ」
ゲンに指名されたロキがひねり出したその答えは、見事に正解だった。
「やるじゃねーか、ロキ。オマエならそーゆーと思ったぜ。仲間外れはイクナイ! どー考えても答えはこれ以外にねーだろ。あるなら教えてほしーぜ!」
ゲンは誇らしげな表情を浮かべながら、階段を駆け上がった。
「ハルカは30歳。ハルカにはユミコという親友がおり、2人の生年月日は同じである。ユミコは何歳か? ……いかにも裏がありそうな問題だな」
「同じ名前の別人というひっかけかもしれないね……」
一見簡単そうなその問題に、2人とも頭を悩ませているようだ。
「18歳!」
ゲンのその答えが、壁を一瞬で消滅させた。
「やっぱり別の人だったのかな……?」
「そーじゃねーよ。ユミコ本人が18だと言い張ってんだよ。自称18歳150ヶ月。だから18歳っつー理屈だ。永遠の18歳じゃねーか。その理論でいきゃ、オレは20歳だぜ。20歳と3百ウン十ウンヶ月。っつーことは、この中じゃオレが最年少じゃねーか! どーだ? すげーだろ?」
ゲンはおどけたような仕草を見せた。
「仲間たちはすべて倒され、魔術師のルイスだけが魔王と対峙していた。魔王の残りHPは200、ルイスの残りMPは10。ルイスが今のMPで使える魔法の一覧を以下に示す。魔王を倒すにはどうすればよいか。なお、ルイスは魔法以外の攻撃手段を持たず、アイテムはすべて使い切っており、MPは時間経過で回復しないものとする。
・ファイア:消費MP3、10ダメージを与える
・ハイファイア:消費MP10、50ダメージを与える
・スリープ:消費MP2、相手を眠らせる(魔王には無効)
・ポイズン:消費MP3、相手を毒に侵す(魔王には無効)
・ストロング:消費MP6、一時的に攻撃力を大きく上げる
・シールド:消費MP8、一時的に受けるダメージを大幅に軽減する
……とても倒せるようには思えないが?」
「どうやっても勝てそうにないよね……」
ロキたちは問題文を食い入るように見つめている。
「ケンジア、こりゃオマエのためにあるよーな問題じゃねーか。オマエも似たよーな魔法が使えんだろーが。自分ならどーするか考えりゃ解けんじゃねーか? っつーわけで、がんがれ」
ゲンは解答をケンジアに託した。
「……シールドを唱えた後自分にスリープをかけて眠り、夢の中で魔王を倒す!」
ケンジアのその答えが、行く手を阻む扉を消し去った。
「やるじゃねーか、ケンジア。現実世界で倒せねーなら、夢の中で倒しゃいーんだよ。夢だろーと空想だろーと何だろーと、勝ちは勝ちだろーが!」
ゲンは嬉しそうに笑った。
「男は泣いていた。旅先で立ち寄ったレストランにて、注文した料理を食べた直後のことである。男が頼んだのは、ウミガメのスープ。男にとって忘れることのできない一品だ。
その昔、男は探検隊の一員として世界中を旅していた。数多の困難を乗り越えてきたが、一度だけ命の危機に直面したことがある。雪山で遭難したのだ。
仲間たちが次々と命を落とす中、ついに男も空腹で動けなくなった。そのとき、隊長が手早く何かを作って男に差し出した。ウミガメのスープだという。
そのスープのおかげで男は命をつなぎ、無事に生還することができた。あれから30年が過ぎようとしているが、そのスープの味は今でも鮮明に覚えている。
ウミガメのスープ。偶然入ったレストランで男はそれを見つけ、迷うことなく注文し、食べ、そして泣いたのである。男はなぜ泣いたのか。……どこかで聞いたような問題だな」
「似たような問題は知ってるけど、少し設定が違うね。答えも違うのかな……?」
類似した問題を知っているせいなのか、2人は答えを決めかねているようだ。
「スープが当時食ったのと全く同じで、そこがその隊長の店だと気がついたから!!」
ゲンは勝ち誇ったような顔で正解を叫んだ。
「この後、男は命の恩人と感動の再会を果たしたっつーわけだ。いー話じゃねーか。めちゃくちゃエモくねーか?」
「雪山なのに、どうしてウミガメのスープ……?」
「梅干しと味噌とガーリックと明太子で味付けをしたスープだからに決まってんだろーが。その頭文字を取って、ウミガメのスープだ。聞いただけでうまそーじゃねーか」
ゲンは口の周りを手でぬぐった。
「美しい女性に求婚したところ、以下の中からいずれかを持ってくるように言われた。どれでもよいが、求婚者は複数いるため、早い者勝ちだという。自分がその女性と結婚できる可能性は何%か。
・どんなものも貫ける矛と、どんなものでも貫けない盾
・100億以上の残高がある通帳、カード、届出印
・決して実在することのない伝説上の生物、比翼の鳥
・自分よりも女性の相手にふさわしいと思うイケメン
・こすると魔人が現れて願いを叶えてくれるというランプ
・過去や未来へ自由自在に行くことができるタイムマシン
・女性の父(世界最強の格闘家)が持つチャンピオンベルト
・ナンバーのひらがなが『お・し・へ・ん』の超高級外車
・伝説の大泥棒が世界のどこかに隠したとされる財宝の山
・飲むと永遠の若さが得られるという空想上の霊薬
……これはなかなか厳しそうだな」
「こんな条件を出されたら、普通は諦めるんじゃないかな……」
2人とも腕組みをしてじっと考えこんでいる。
「50%!」
ゲンが叫ぶ。その答えはもちろん合っていた。
「50%……!?」
「ケコーンできるかできねーか、このどっちかしかねーんだぞ? 2つのうちどっちか1つなんだから、確率で言や2分の1、つまり50%だろーが! オマエらはこんな簡単な計算もできねーのかよ!?」
「お前、それは本気で言っているのか……?」
「さすがにその計算は間違ってると思うよ……」
ロキたちの呆れたような視線がゲンに突き刺さった。
「いーか、オマエら。女優だろーと声優だろーとアイドルだろーと、2分の1の確率でケコーンできんだぞ? 2分の1だぞ、2分の1! めちゃくちゃすげーと思わねーか? でも、1つだけ解せねーのは、ケコーンできるほーの50%が全然当たらねーっつーことだ! なぜ当たらねーのか、小一時間問い詰めてーぜ! どの女とも50%の確率でケコーンできんだろ? じゃ、オレがいまだにぼっちっつーのはおかしくねーか? とっくに声優とケコーンしてるはずなのに、そーなってねーのはおかしーんじゃねーか? どー考えてもありえねーだろーが! 確率詐欺か? いかさまか? 優良誤認か? ふざけんじゃねーぞ!!」
いつも以上の早口で、ゲンは吐き捨てるように吐露した。
「この問題は炙り出しになっている。……なんだ、この問題は?」
「炙り出しって、あの炙り出し……?」
注意書きがたった一文あるだけのその問題は、ロキやケンジアを驚かせるには十分だった。
「そーだ、あの炙り出しだ。っつーか、他にねーだろーが。この問題、元ネタじゃガチで炙り出しになってんだよ。でも、持込不可の筆記試験だから、もちろん炙り出すこたーできねー。だから、問題を予想して答えなきゃなんねーっつーわけだ」
「……」
あまりの難易度の高さに、ロキもケンジアも言葉を失っているようだ。
「スプーン、ンジャメナ、ナイロン、ンガイ島!」
ゲンが叫ぶと、当然のように扉は消えた。
「ちな、さっきのは『しりとりで、リンスと運動会の間に入る4つの言葉は?』っつー問題だ。炙り出さなきゃ見えねーけどな」
「この問題、炙り出しにする意味はあるのか……? してもしなくても変わらないと思うが……」
「たまにゃこーゆー問題があってもいーじゃねーか。こまけーこたー気にすんな」
ゲンはロキを手で制した。
「でも、しりとりって『ん』で終わると負けだよね……?」
「世の中にゃ『ん』で始まる言葉もそれなりにあんのに、『ん』で終わったほーが負けっつーのはおかしーと思わねーか? どー考えても、『ん』で始まる言葉を言えねーほーが負けだろーが。っつーわけで、このしりとりは語尾が『ん』でもおkっつールールだから、気にすんじゃねーよ」
ゲンは笑い飛ばした。
「……てっぺんまであともーちょっとみてーじゃねーか」
ゲンが壁を指差した。階段を上りきった先の壁に文字が刻まれていた。最上階まであと10階。そう読める。
「あと10階……。もうそんなに上ってきたのか……」
「なんかあっと言う間だったような気がするよ……」
仲間たちも感慨深そうに壁の文字を見つめている。
いくつもの戦闘と正答を経て、一行はここまでやって来た。正確に数えてはいないが、おそらく40階は上っているだろう。
道中はほぼゲンの独壇場だった。強力かつ多彩な剣技で敵を蹴散らし、作問者であるがゆえに驚異的な正解率を叩きだした。問題の傾向を掴んだのか、ロキやケンジアも正解を重ねた。階下に落とされることもほとんどなかった。
「じゃ、残りも一気に行こーじゃねーか!」
ゲンたちは歩を進める。最上階まであと少しだ。




