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かきかけ~作者と愉快な主人公たち~  作者: 蓮井 ゲン
第二章 新たなる旅路
78/143

78 難問 その2

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今回も前回に引き続き、ひたすら意味不明な問題を解くだけのお話です。

よろしくお願いします。

「身長、体重、胸囲、座高、腹囲、視力、血圧、血糖値、中性脂肪、既往歴。人に言うと驚かれ、恐れられるのは?」

 ロキがいつものように読み上げる。やはり前回とは違う問題だった。

「驚く、恐れる……。驚異と脅威……。でも、たぶん違うよね……」

「普通に考えればそうなるだろうが、そんなに簡単なはずがない……」

 2人は壁に書かれた問題をじっと見つめている。


「自分のだったら無し、他人のだったら全部!」

 ゲンが難なく正解を出した。

「自分の身長とか体重を人に言って、『なんでそんなこと知ってるの!? 怖い~!』とかってなるか? そーはならんやろ。逆に、言ったのが赤の他人の情報だったらやべーだろーが。通報される未来しか見えねーじゃねーか!」

 ゲンは興奮気味に叫んだ。




「その昔、世界を……おっと、ここで早押しボタンが押された! では、こたえよ。……これはどういうことだ?」

「早押しボタンが押された? 意味がわからないよ……」 

 次の階で遭遇した奇妙な問題に、2人は頭を抱え込んだ。

「元ネタは筆記試験だから、早押しボタンとかあるわけねーんだよ。筆記試験なのに早押し問題が出たっつーギャグじゃねーか。おもしれーだろ? どんな顔すればいーかわかんねーのか? 笑えばいーと思うぞ?」

 ゲンの問いかけに対する2人の回答は、沈黙だった。


「……いいから早く答えろ。俺たちには理解不能だ」

 ロキに促され、ゲンは壁のボタンを押した。

「しまった! うっかりボタンに手が触れちまったみてーだ! ちくしょー、お手つきじゃねーか! 優勝争いしてんのに、ここでの減点はつれーな! これは応える! かなり応えるぜ!」

 芝居がかったゲンの解答によって、無事に扉は消滅した。


「どういうことなのか、全然意味がわからないよ……」

「こたえよっつー問題なんだから、こたえりゃいーんだよ。あんなとこで早押しボタン押したら、間違いなくお手つきだろーが。せっかくいーとこまで行ってんのに、お手つきで減点食らったらかなり応えねーか? だから、応えたと答えりゃいーんだよ。簡単だろーが」

「あはは……」

 ゲンの解説に、ケンジアは乾いた笑いで応えた。




「次のうち、水の魔法でないものはどれか。2つ選べ。

①フレア

②シャイン

③ミスト

④キュア

⑤レイン

⑥ブリーズ

⑦アシッド

⑧ラピッド

⑨アクア

⑩チャーム」

「さっき似たような問題があったよね……」

「ケンジア、さっきの名誉挽回したくねーか?」

 薄笑いを浮かべたゲンの問いに、ケンジアは大きく首を横に振った。


「⑥と⑩!」

 ゲンの解答に、扉は呆気なく陥落した。

「よかった……。答えてたら名誉挽回できてなかったよ……」

 ケンジアはホッとしたような表情を浮かべた。

「今のはロキの読み方が間違ってんだよ。水の魔法と書いて、みずのまのり、と読む。そーゆー名前の声優だ。で、フレアとかシャインっつーのはキャラの名前。つまり、みずのまのりがCVをやってねーキャラを2つ選べっつー問題だ。楽勝だろーが」

「……」

 ロキは呆れたように肩をすくめた。 




「以下はある店の販売価格である。

◇鎖鎌:4千G

◇ボウガン:5千G

◇ブロードソード:8千G

◇ジャベリン:6千G

◇手斧:3千G

◇棘の鞭:5千G

 では、バスタードソードはいくらか?」

「おっ、いー問題じゃねーか。ここはロキに任せよーじゃねーか。がんがれ」

 ゲンの言葉に、ロキは明らかに嫌そうな表情を浮かべた。


「この価格設定なら1万が妥当か……。さすがに1万5千まではしないだろう……」

 ロキは壁を凝視しながら思考を巡らせている。

「だが、新品であるとは限らない。中古品を安く売っている可能性もある……」

 しばしの沈黙を置いて、ロキはボタンを押した。

「……タダだ。そのバスタードソードは売り物ではない。折れているからタダで手に入る」

 ロキの答えは、足元の床を開かせるには十分だった。ゲンたちは下の階に落とされた。


「ロキ、さっきの読みはなかなかいーが、そーじゃねーんだよ。正解は、いや違う、だ」

「いや違う? どういうことだ?」

「バスタードソードはいくらかっつーのは、値段を聞いてんじゃねーんだよ。食いもんのイクラだ。バスタードソードは食いもんのイクラなのかっつー意味だ。だから答えは、いや違う。簡単だろーが!」

 ゲンの声が響き渡った。


「なるほど……。どうしてお前にその剣が抜けたのか、今ならその理由がよくわかる……」

「こんな問題ばかり考えてたら、あんなメッセージも軽く解読できるようになるよね……」

 ロキとケンジアの視線は、ゲンが持つ剣に注がれていた。

 ワレヲタタエヨ、サスレバヌケン。フィーストの町の地下室で、ゲンはこの言葉のとおりに動いて剣を手に入れた。仲間たちが誰一人として解読できなかったその意味を、ゲンは瞬時に理解した。その一風変わった解釈は、この塔で出されている問題に通じるものがあるかもしれない。


「当たり前田のクラッカーじゃねーか。オマエらとはここが違うんだよ、ここが」

 ゲンは自分の頭を何度も指差した。

「髪のことか? そう言われれば、確かにお前だけ明らかに量が少ない」

「髪が少なくないとあの問題が解けないのかな? それなら僕には無理だね」

「なんでや! 髪関係ないやろ! ち~が~う~だ~ろ~! このハ――、このヴォケ~~!!」

 ゲンは吐き捨てるように叫んだ。




「勇者マルトと魔王バーツが戦闘中に意気投合し、お笑いコンビを結成した。そのコンビ名を答えよ。ただし、以下の中から選ぶな。絶対に選ぶな。特に③! ③は違うから、絶対に選ぶな!

①勇者と魔王で、ユーマ

②好敵手同士なので、ライバルズ

③2人の名前から、マルとバツ

④お互いの属性から、やみひかり

⑤引き分けたから、ドロー&あいこ

⑥笑わせたいから、呵々's

⑦好物を並べて、ちょこち~ず

⑧勇者だけに、ユーシャルダイ

⑨魔王だけに、やっちまおう

⑩適当に名付けて、ダルドンチャル

……この問題はひどすぎる。特定の選択肢を選ばせようとしている」

「選ぶなと言われると選びたくなるよね……。でも、たぶん違うよね……」

 ロキとケンジアは戸惑いを隠せないようだ。


「おっぱい聖人!」

 ゲンが答えると、一瞬で扉が消滅した。

「やっぱり③は全然関係なかったんだね……」

「何なんだ、そのふざけた名前は……」

 ロキたちが呆れたようにため息を漏らした。

「絶対に選ぶなと書いてあんだから、③とかありえねーだろ! 正解はおっぱい聖人。勇者と魔王が酔った勢いでノリでつけりゃ、やっぱそーならーな。いつでも改名できんだから、結成時のコンビ名なんかこーゆーバズりそーな名前のほーがいーんだよ」

 ゲンは階段を駆け上がった。




「物欲しそうな顔で、駄菓子屋の前でずっと佇んでいる小さな男の子がいる。何かをずっと待っている様子だが、何も起きない。そして、とうとう店の閉店時間を迎えたそのとき、何かくれた。さて、何くれた? ……どこかで聞いたことがあるような問題だな」

「これはなぞなぞの定番で、日が暮れた、が答えだよね。でも、さすがにそんな答えじゃないよね……」

 ケンジアの視線がゲンに突き刺さる。


「どくれた!」

 ゲンの発したその4文字が、階段への道を切り開いた。

「どくれた?」

 聞き慣れない言葉なのか、ケンジアは首を傾げている。

「オレの地元じゃ、すねたりふてくされたりすることを、どくれる、っつーんだよ。ワンチャン駄菓子がもらえるかもとwktkしながら待ってんのに、誰も何もくれねーからガキがどくれたんじゃねーか! ちな、遅くまでやってる店だから、日はとっくに暮れてんだよ!」

 ゲンは地元の方言を披露した。


「こういう問題で、方言は反則だと思うよ……」 

「反則? んなわけねーだろ。こいつぁー冒険者検定だ。冒険者なら世界中を旅してんだから、方言とか余裕だろーが。知らねーほーがわりーんだよ」

 ゲンは悪びれた様子もなく言い放った。




「かつて世界を救った勇者たちが集まり、ヒーロー戦隊を結成した。メンバーは5人。赤色、青色、黄色、緑色、桃色。さて、リーダーは何色?」

「……この問題、なんとなく答えがわかったような気がするよ。僕が答えてもいいかな?」

 次の階の問題で、珍しくケンジアが立候補した。ゲンは無言で頷く。

「人生がバラ色」

 ケンジアの解答は不正解だったようだ。ゲンたちは下の階に落とされた。


「ケンジア、今のはいーとこついてんじゃねーか。そーゆーふーに考えりゃいーんだよ。オマエもやりゃできんじゃねーか」

「褒めてもらえて嬉しいような、嬉しくないような……」

 ケンジアは困惑したような表情を浮かべている。

「ちな、さっきの問題の答えは、使える技も魔法も人生経験も色々、な。じゃ、行こーぜ」

 ゲンたちは階段を目指して歩き出した。




「30桁の数字を当てよ。……これだけなのか? ひどい問題だ」

「30桁……。ヒントもないのに、わかるわけがないよね……」

 短いが極めて難易度の高いその問題に、ロキもケンジアも絶句しているようだ。

「これが出ちまったか……。途中までしか覚えてねーよ」

 ゲンも苦笑いを浮かべている。

「とりま、適当に行こーじゃねーか。82056946843123748――」

 そこでゲンたちは下の階に落とされた。


「まさか2連荘で落とされるたーな……。ま、あーゆー問題が続きゃこーゆーこともあらーな。オレも大体の答えは覚えてるが、一部うろ覚えみてーなのもある。焦ってもしゃーねーし、マターリ行こーじゃねーか」

 ゲンたちは再び歩き出した。

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