78 難問 その2
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今回も前回に引き続き、ひたすら意味不明な問題を解くだけのお話です。
よろしくお願いします。
「身長、体重、胸囲、座高、腹囲、視力、血圧、血糖値、中性脂肪、既往歴。人に言うと驚かれ、恐れられるのは?」
ロキがいつものように読み上げる。やはり前回とは違う問題だった。
「驚く、恐れる……。驚異と脅威……。でも、たぶん違うよね……」
「普通に考えればそうなるだろうが、そんなに簡単なはずがない……」
2人は壁に書かれた問題をじっと見つめている。
「自分のだったら無し、他人のだったら全部!」
ゲンが難なく正解を出した。
「自分の身長とか体重を人に言って、『なんでそんなこと知ってるの!? 怖い~!』とかってなるか? そーはならんやろ。逆に、言ったのが赤の他人の情報だったらやべーだろーが。通報される未来しか見えねーじゃねーか!」
ゲンは興奮気味に叫んだ。
「その昔、世界を……おっと、ここで早押しボタンが押された! では、こたえよ。……これはどういうことだ?」
「早押しボタンが押された? 意味がわからないよ……」
次の階で遭遇した奇妙な問題に、2人は頭を抱え込んだ。
「元ネタは筆記試験だから、早押しボタンとかあるわけねーんだよ。筆記試験なのに早押し問題が出たっつーギャグじゃねーか。おもしれーだろ? どんな顔すればいーかわかんねーのか? 笑えばいーと思うぞ?」
ゲンの問いかけに対する2人の回答は、沈黙だった。
「……いいから早く答えろ。俺たちには理解不能だ」
ロキに促され、ゲンは壁のボタンを押した。
「しまった! うっかりボタンに手が触れちまったみてーだ! ちくしょー、お手つきじゃねーか! 優勝争いしてんのに、ここでの減点はつれーな! これは応える! かなり応えるぜ!」
芝居がかったゲンの解答によって、無事に扉は消滅した。
「どういうことなのか、全然意味がわからないよ……」
「こたえよっつー問題なんだから、こたえりゃいーんだよ。あんなとこで早押しボタン押したら、間違いなくお手つきだろーが。せっかくいーとこまで行ってんのに、お手つきで減点食らったらかなり応えねーか? だから、応えたと答えりゃいーんだよ。簡単だろーが」
「あはは……」
ゲンの解説に、ケンジアは乾いた笑いで応えた。
「次のうち、水の魔法でないものはどれか。2つ選べ。
①フレア
②シャイン
③ミスト
④キュア
⑤レイン
⑥ブリーズ
⑦アシッド
⑧ラピッド
⑨アクア
⑩チャーム」
「さっき似たような問題があったよね……」
「ケンジア、さっきの名誉挽回したくねーか?」
薄笑いを浮かべたゲンの問いに、ケンジアは大きく首を横に振った。
「⑥と⑩!」
ゲンの解答に、扉は呆気なく陥落した。
「よかった……。答えてたら名誉挽回できてなかったよ……」
ケンジアはホッとしたような表情を浮かべた。
「今のはロキの読み方が間違ってんだよ。水の魔法と書いて、みずのまのり、と読む。そーゆー名前の声優だ。で、フレアとかシャインっつーのはキャラの名前。つまり、みずのまのりがCVをやってねーキャラを2つ選べっつー問題だ。楽勝だろーが」
「……」
ロキは呆れたように肩をすくめた。
「以下はある店の販売価格である。
◇鎖鎌:4千G
◇ボウガン:5千G
◇ブロードソード:8千G
◇ジャベリン:6千G
◇手斧:3千G
◇棘の鞭:5千G
では、バスタードソードはいくらか?」
「おっ、いー問題じゃねーか。ここはロキに任せよーじゃねーか。がんがれ」
ゲンの言葉に、ロキは明らかに嫌そうな表情を浮かべた。
「この価格設定なら1万が妥当か……。さすがに1万5千まではしないだろう……」
ロキは壁を凝視しながら思考を巡らせている。
「だが、新品であるとは限らない。中古品を安く売っている可能性もある……」
しばしの沈黙を置いて、ロキはボタンを押した。
「……タダだ。そのバスタードソードは売り物ではない。折れているからタダで手に入る」
ロキの答えは、足元の床を開かせるには十分だった。ゲンたちは下の階に落とされた。
「ロキ、さっきの読みはなかなかいーが、そーじゃねーんだよ。正解は、いや違う、だ」
「いや違う? どういうことだ?」
「バスタードソードはいくらかっつーのは、値段を聞いてんじゃねーんだよ。食いもんのイクラだ。バスタードソードは食いもんのイクラなのかっつー意味だ。だから答えは、いや違う。簡単だろーが!」
ゲンの声が響き渡った。
「なるほど……。どうしてお前にその剣が抜けたのか、今ならその理由がよくわかる……」
「こんな問題ばかり考えてたら、あんなメッセージも軽く解読できるようになるよね……」
ロキとケンジアの視線は、ゲンが持つ剣に注がれていた。
ワレヲタタエヨ、サスレバヌケン。フィーストの町の地下室で、ゲンはこの言葉のとおりに動いて剣を手に入れた。仲間たちが誰一人として解読できなかったその意味を、ゲンは瞬時に理解した。その一風変わった解釈は、この塔で出されている問題に通じるものがあるかもしれない。
「当たり前田のクラッカーじゃねーか。オマエらとはここが違うんだよ、ここが」
ゲンは自分の頭を何度も指差した。
「髪のことか? そう言われれば、確かにお前だけ明らかに量が少ない」
「髪が少なくないとあの問題が解けないのかな? それなら僕には無理だね」
「なんでや! 髪関係ないやろ! ち~が~う~だ~ろ~! このハ――、このヴォケ~~!!」
ゲンは吐き捨てるように叫んだ。
「勇者マルトと魔王バーツが戦闘中に意気投合し、お笑いコンビを結成した。そのコンビ名を答えよ。ただし、以下の中から選ぶな。絶対に選ぶな。特に③! ③は違うから、絶対に選ぶな!
①勇者と魔王で、ユーマ
②好敵手同士なので、ライバルズ
③2人の名前から、マルとバツ
④お互いの属性から、やみひかり
⑤引き分けたから、ドロー&あいこ
⑥笑わせたいから、呵々's
⑦好物を並べて、ちょこち~ず
⑧勇者だけに、ユーシャルダイ
⑨魔王だけに、やっちまおう
⑩適当に名付けて、ダルドンチャル
……この問題はひどすぎる。特定の選択肢を選ばせようとしている」
「選ぶなと言われると選びたくなるよね……。でも、たぶん違うよね……」
ロキとケンジアは戸惑いを隠せないようだ。
「おっぱい聖人!」
ゲンが答えると、一瞬で扉が消滅した。
「やっぱり③は全然関係なかったんだね……」
「何なんだ、そのふざけた名前は……」
ロキたちが呆れたようにため息を漏らした。
「絶対に選ぶなと書いてあんだから、③とかありえねーだろ! 正解はおっぱい聖人。勇者と魔王が酔った勢いでノリでつけりゃ、やっぱそーならーな。いつでも改名できんだから、結成時のコンビ名なんかこーゆーバズりそーな名前のほーがいーんだよ」
ゲンは階段を駆け上がった。
「物欲しそうな顔で、駄菓子屋の前でずっと佇んでいる小さな男の子がいる。何かをずっと待っている様子だが、何も起きない。そして、とうとう店の閉店時間を迎えたそのとき、何かくれた。さて、何くれた? ……どこかで聞いたことがあるような問題だな」
「これはなぞなぞの定番で、日が暮れた、が答えだよね。でも、さすがにそんな答えじゃないよね……」
ケンジアの視線がゲンに突き刺さる。
「どくれた!」
ゲンの発したその4文字が、階段への道を切り開いた。
「どくれた?」
聞き慣れない言葉なのか、ケンジアは首を傾げている。
「オレの地元じゃ、すねたりふてくされたりすることを、どくれる、っつーんだよ。ワンチャン駄菓子がもらえるかもとwktkしながら待ってんのに、誰も何もくれねーからガキがどくれたんじゃねーか! ちな、遅くまでやってる店だから、日はとっくに暮れてんだよ!」
ゲンは地元の方言を披露した。
「こういう問題で、方言は反則だと思うよ……」
「反則? んなわけねーだろ。こいつぁー冒険者検定だ。冒険者なら世界中を旅してんだから、方言とか余裕だろーが。知らねーほーがわりーんだよ」
ゲンは悪びれた様子もなく言い放った。
「かつて世界を救った勇者たちが集まり、ヒーロー戦隊を結成した。メンバーは5人。赤色、青色、黄色、緑色、桃色。さて、リーダーは何色?」
「……この問題、なんとなく答えがわかったような気がするよ。僕が答えてもいいかな?」
次の階の問題で、珍しくケンジアが立候補した。ゲンは無言で頷く。
「人生がバラ色」
ケンジアの解答は不正解だったようだ。ゲンたちは下の階に落とされた。
「ケンジア、今のはいーとこついてんじゃねーか。そーゆーふーに考えりゃいーんだよ。オマエもやりゃできんじゃねーか」
「褒めてもらえて嬉しいような、嬉しくないような……」
ケンジアは困惑したような表情を浮かべている。
「ちな、さっきの問題の答えは、使える技も魔法も人生経験も色々、な。じゃ、行こーぜ」
ゲンたちは階段を目指して歩き出した。
「30桁の数字を当てよ。……これだけなのか? ひどい問題だ」
「30桁……。ヒントもないのに、わかるわけがないよね……」
短いが極めて難易度の高いその問題に、ロキもケンジアも絶句しているようだ。
「これが出ちまったか……。途中までしか覚えてねーよ」
ゲンも苦笑いを浮かべている。
「とりま、適当に行こーじゃねーか。82056946843123748――」
そこでゲンたちは下の階に落とされた。
「まさか2連荘で落とされるたーな……。ま、あーゆー問題が続きゃこーゆーこともあらーな。オレも大体の答えは覚えてるが、一部うろ覚えみてーなのもある。焦ってもしゃーねーし、マターリ行こーじゃねーか」
ゲンたちは再び歩き出した。




