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かきかけ~作者と愉快な主人公たち~  作者: 蓮井 ゲン
第二章 新たなる旅路
75/143

75 4つの扉

「……こりゃやべーな。嫌な予感しかしねーじゃねーか」

 次の部屋にあったのは、4つの扉だった。奥の壁に、左から順に、青い扉、赤い扉、白い扉、黒い扉が並んでいる。扉の一部は透明になっており、向こうが透けて見える。そこには短い通路があり、突き当たりには扉と同じ色をした魔法陣の存在が確認できた。ゲンたちが何度も転送された、例の魔法陣によく似ている。嫌な予感の原因がこれだった。

 

 これまでの旅において、魔法陣が登場すると例外なくどこかに転送された。今回も同じように転送されるのだろうか。

 普段は黄色い魔法陣が、今回は別の色をしている。何か理由があるのだろうか。青や白はともかく、赤や黒の魔法陣は、不気味さすら感じる。 

 色が違うだけで、4つは同じものなのだろうか。それとも、すべて行き先が違う、本物は1つだけなど、今までの魔法陣とは違う仕掛けがあるのだろうか。

 ゲンにはわからないことばかりだった。


「この扉、どうやって開けるんだ?」

 クラインが扉の前で首を傾げている。床が全く光っていない。今までの扉とは違い、床を踏んでフルコンボを達成して開けるわけではなさそうだ。

 しかし、どの扉も固く口を閉ざしている。押しても引いてもびくともしない。見た目以上に頑丈らしく、ゴリマルドですら蹴破ることができなかった。鍵穴らしきものも見当たらず、盗賊のニンジアがこじ開けることもできなかった。



「……ロキか。お前なら必ず来てくれると信じていた」

 突然、ゲンたちの背後から声がした。

「この声は、ヨハン(CV:浪野智治)じゃねーか!」

 名前を呼ばれたロキよりも早く、ゲンは声の主を言い当てた。いつものように、声を聞いた瞬間にわかった。

 振り返ると、軍服姿の男が立っていた。だが、生身の人間でないことは見た瞬間にわかる。男の体は透けていたのだ。

「ヨハン! その体はどうした!? 一体何があった!?」

 ロキがいつになく声を荒らげた。


 ヨハン。25歳。皇帝ジュリアスの側近の一人で、剣術と魔術の双方に秀でた男だ。ロキが黒騎士と呼ばれていたころ、帝国軍の中で最も懇意にしていた人物でもある。

 ヨハンの力を危険視した皇帝に殺されそうになり、ロキと同じように帝国から逃げ出す。そして、やはり同じように打倒皇帝を誓うことになるキャラクターだ。一時的にロキやミトたちの仲間に加わるという設定も用意されているが、原作はその手前で話が止まったまま今に至っている。


「見てのとおりだ。私はもう生きていない。私としたことが、魔物たちに不覚を取った。今こうして話しているのは、私の残留思念だ。お前に伝えたいことがあって、ここで待っていた。お前ならきっとここに来ると信じていた」

 透けた体でヨハンは笑った。残留思念だという。どうしても伝えたいという強い思いが、ヨハンの思念をここに留まらせているのだろう。

「お前に伝えたいことというのは他でもない。アストリア皇帝のことだ」

 そして、人の姿をしたヨハンの残留思念は、事の顛末を話し始めた。



 ヨハンによると、皇帝ジュリアスは剣に魅入られてしまったのかもしれないのだという。ある日、見たことのない剣をジュリアスが手にしていた。刃も柄も真っ黒という、見るからに不気味な剣だった。いつどこでどうやって手に入れたものなのか、ヨハンたち側近ですら誰も知らない。

 ジュリアスがその剣を振ると、なんと空間が切り裂かれ、開いた穴から魔物が飛び出してきた。それがこの世界と魔界とがつながった瞬間だった。皇帝はなおも空間を切り裂き、魔物を次々と呼び寄せた。

 止めようとしたが歯が立たず、ヨハンは帝都から逃げ出した。そして、どうにか辿り着いたのがこのフィーストの町だった。この地下室の存在を感知し、ここに逃げ込んだ。壁や床を通り抜けられる魔法を使ったという。

「……そんな便利な魔法があるのか。三日三晩床を踏み続けたのが、バカバカしく思えてくるな」

 クラインが苦笑いを浮かべた。もしも同じ魔法が使えていたなら、扉を開けようと寝る間も惜しんで試行錯誤する必要もなかっただろう。


 その後、ヨハンは帝都に戻った。その道中で他の側近や将軍たちと合流することができ、ともに皇帝の元に向かった。だが、城には結界が張られていて入れなかったという。

 ヨハンはその結界のことを熟知していた。敵国から攻められた時のためにと、かつてジュリアスから研究するよう命じられたことがあり、ヨハンはその中心的なメンバーだったからだ。その研究の成果が、思わぬ形で利用されていた。

 城の周囲に4つの塔があり、それぞれに石が置かれている。それらの石には、研究の結果に基づき、結界を生み出すのに必要な力が注入されている。それを指示したのはもちろんヨハンだ。

 東の塔にあるのは、筒型をした青い石、青龍筒。南の塔にあるのは、模様が刻まれた赤い石、朱雀紋。西の塔にあるのは、四角くて白い石、白虎体。北の塔にあるのは、丸くて黒い石、玄武丸。

「……ネーミングセンス、ぱねーな。青龍とか白虎って言いてーだけちゃうんか。朱雀紋とか無理矢理すぎんだろ」

 自分のことを棚に上げ、ゲンはバカにしたように笑った。


 結界を破るには、塔にある4つの石をすべて破壊すればいいという。それほど硬い石ではないため、割ること自体は難しくない。ただ、石に与えた非常に強力な再生能力が、突破の難易度を跳ね上げていた。他の石が1つでも無事なら、たとえ粉々にされようと5分後には元の形に戻るのだ。しかも、塔の中には多くの魔物が巣くっていた。

 ヨハンたちは4組に分かれて挑んだが、失敗に終わった。途中で一人また一人と仲間が命を落とし、進むのを断念した。他の塔に入ったメンバーも壊滅状態だった。結界を破るのは諦めるしかなかった。

 その後、ヨハンは再びここに帰ってきて、4つの魔法陣を作った。行き先はそれぞれの塔の前で、魔法陣の色が塔にある石の色に対応している。再び仲間を集めて、ここから一気に塔に向かうためだった。

 だが、その後ヨハンは志半ばで命を落とす。死の直前にロキのことが頭をよぎり、ぜひ遺志を継いでほしいと強く願った。その結果がこの残留思念だ。



「ロキ、皇帝に強い憎しみを抱くお前なら、必ず仲間を集めて戻ってくると思っていた。そして、お前ならここを見つけてくれると信じていた。頼む、皇帝を止めてくれ。皇帝は今もなお魔物たちを生み出し続けているはずだ。このままでは世界は滅びかねない」

「言われなくてもそのつもりだ。俺は必ず、奴を倒す!」

 ロキは顔の前で拳を握り締めた。

「お前ならそう言うと思っていた。後はよろしく頼む」

 どこかで鍵が開いたような音がした。魔法陣の前にあるあの扉の鍵が、おそらく開いたのだろう。


「本当は魔法陣にもっと魔力を注ぎ込み、ここと塔を自由に行き来できるようにしたかったが、こうなってしまってはもうどうしようもない。今の状態なら1回しか使えないだろう。この1回ですべてを終わらせるしかない。がんばってくれ。私にはこんなことしかできないが、せめてもの餞だ」

 ヨハンが手を上げると、温かい光がゲンたちを包み込んだ。傷や疲れが消え、体力も完全に回復したのは次の瞬間だった。仲間たちにも同じことが起きたであろうことは、その表情を見れば明らかだった。


「これでもう思い残すことはない。ロキ、がんばってくれ。武運を祈っている」

 それがヨハンの最後の言葉だった。言い終わると同時に、その姿は完全に消滅した。

「ヨハン、お前の思いは確かに受け取った。お前の無念は俺が晴らす!」

 ロキが叫んだ。




 先に進むにあたり、クラインが正式に仲間に加わった。微人としか戦ったことがないから足手まといになるかもしれないとクラインは笑うが、謙遜だろう。重い鎧を着ても軽やかに動けるその強靭な肉体や、三日三晩床を踏み続けられるその気力と体力があれば、十分な活躍が期待できるに違いない。

 結界を破るために、一行は4つのパーティーに分かれることになった。各組3人ずつだ。4人ですら苦戦したのだから、3人ではさらに拍車がかかるだろう。だが、そうする以外に選択肢はなかった。

 ゲンたちのパーティーから加奈が、ゴリマルドたちのパーティーからザックが外れ、クラインと組むことで話がまとまった。それ以外の人員は入れ替えない。最後まで同じメンバーで戦いたいということで、意見が一致した。

 これにより、ゲンとロキとケンジア、アークスとマリリアスと元子、ゴリマルドとニンジアとセイラ、クラインとザックと加奈という組み合わせになった。

 あとはどのパーティーがどの塔に向かうかを決めるだけだ。


「どれ選んでも一緒じゃねーか。どーせやるこたー同じだろーが。適当に選びゃいーんだよ」

 この先に待ち受けているのは、無数の魔物たちと、破壊目標である石だ。どの塔に行こうと大差はないだろう。やるべきことは変わらない。

「っつーわけで、まずはオレが選ぶぜ。どれにするかはもー決めてんだよ。扉っつったらやっぱこれっきゃねーだろ!」

 ゲンは赤い扉を指差した。

「せっかくだから、オレはあの赤い扉を選ぼーじゃねーか!」

 ゲンは高らかに叫んだ。



 

 一行はそれぞれの扉の前に立っていた。青はゴリマルドたち、赤はゲンたち、白はアークスたち、黒はクラインたちだ。これから同時に扉を開け、中にある魔法陣に飛び込む。そして、それぞれの塔で魔物を倒しながら、石が置かれているであろう最上階を目指す。

 ヨハンの話では、魔法陣は片道切符だという。もうここには戻ってこられないだろう。結界を消し、城に突入し、皇帝を倒すまで休息の時は訪れない。ひたすら戦い続けなければならない。その道のりは非常に過酷だ。

 もちろん、ここで躊躇しているような余裕もない。危険はすぐそこまで迫ってきている。背後の扉が大きな音を立てて揺れているのを見れば、それは明らかだ。魔物たちが力づくで扉を破ろうとしているのだろう。


「……オマエら、行こーぜ! オレたちの力を見せてやろーじゃねーか! オレたちの戦いはこれからだ!」

 ゲンは扉を開け、魔法陣に飛び込んだ。

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