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29 のりまくり その4

お読みいただきありがとうございます。


今回もノリツッコミがメインで、ストーリーはおまけです。

ノリツッコミは次話で終わる予定ですので、もう少しだけお付き合いください。


よろしくお願いします。

「チャン・ピオン!」

「よう、チャーレン・ジャー」

「お前、負けると約束したはずだろう!? それなのに、どうして勝った!? どうして俺に勝たせなかった!?」

「お前なぁ……」

「この嘘つき! 裏切り者! 詐欺師! 俺のアイカを返せ!!」

「そう熱くなるな。まぁ、落ち着けよ」

「お前は約束を破った! 俺を勝たせなかった! これが落ち着いていられるか!!」

「お前、何か勘違いしてねぇか? 試合中、ボーッと突っ立ってたら俺が勝手に自滅するとでも思ったか?」

「違うのか?」

「当たり前だろ! 自分で自分を攻撃して倒れるやつなんかいるわけねぇだろ!」

「なんだと!? お前は最初から俺を騙す気だったんだな!? 俺に勝たせるつもりなど端からなかったんだな!?」

「バカか、お前は! お前がいつもどおりに戦ってればよかっただけの話だろうが! 俺は頃合いを見てお前の攻撃を受けて倒れるつもりだったんだぞ! それなのに、お前はただ突っ立ってるだけ! おかげで、戦意なしと見なされて反則負けじゃねぇか!」

「そうだったのか。試合開始早々にお前が自爆なり棄権なり降参なりして、俺に勝ちを譲ってくれるものだと思い込んでいた。普段どおりに戦っていればよかったのか」

「そういうことだ。八百長がバレたら俺もただじゃ済まねぇが、今回はお前がありえねぇようなヘマをやらかしたおかげで、全く疑われなかった。お前が俺の気迫や闘志に圧倒され、戦意喪失で動けなかったようにしか見えなかったんだろうな」

「ああ、俺は自分で勝ちを手放したのか……。こんなに悔いが残る敗戦は初めてだ」

「現役最後の試合があんな終わり方で残念だったな。だが、約束は約束だ。大人しく引退して親の会社を継げ」

「その件なら大丈夫だ。もう親父の会社を継ぐ必要はなくなった」

「どうした? 何かあったのか?」

「さっき親父から電話があったんだ。どうやら俺の試合を見ていてくれたらしい。親父は俺の戦いに胸を打たれたんだろう。『感動だ。お前はもう感動だ。戻ってこなくていいから好きにしろ』と言ってくれた」

「お前、それは別の字の『カンドウ』だと思うぞ……」

「引退は回避できたが、今度はスポンサーが契約を解除すると言い出した。スポンサーがいなければ俺は戦えない。契約を継続するには、お前と再戦して勝つ以外に方法はない」

「なるほどな。それでまた八百長を頼みに来たわけか」

「そうだ。次こそは俺に勝たせてくれ」

「それは別にかまわねぇが、お前こそ本気で勝ちに来い。今回みたいに、勝たせてくれるからと手を抜くんじゃねぇぞ。手を抜くのは俺のほうなんだぜ」

「次は大丈夫だ。任せろ」

「ところで、お前のスポンサーはどこなんだ?」

「お袋が経営している会社だ」

「お前の母親も会社を経営してるのか? 両親とも社長か。すげぇな」

「親父とお袋だけじゃない。兄貴と姉貴も社長をやっている」

「社長一家じゃねぇか。社長じゃねぇのはお前だけか?」

「いや、俺も社長だが? 飲みに行くと、女の子たちからシャチョーさんと呼ばれる」

「それ、みんなに言ってるから! 俺も言われるから!」

「そうか、お前も社長なのか。奇遇だな」

「……お前の母親の会社は何をやってるんだ? 父親と同じコンサルタントとかか?」

「お袋の会社は、株式会社月極という名前だ。全国規模で駐車場の賃貸や管理をやっている。その名も月極駐車場」

「月極駐車場!? うちの町内にもたくさんあるし、全国どこに行っても嫌というほど見かけるぞ。あれが全部そうなのか!? だとしたらかなりでかい会社じゃねぇか!」

「お袋の会社はもう1つある。こっちはスポンサーではないが、株式会社定礎という建設会社だ。そこが建てた物件には、『定礎』という文字が刻まれているからすぐにわかる」

「定礎!? うちの近所でも遠征先でもよく見かけるぞ。確かこの会場にも書いていたはず。こっちもすごい会社じゃねぇか」

「お袋は負けん気が強い。あらゆる面で親父の会社に勝とうとしている。既に規模や業績では圧勝らしい。だからこそ、俺がお前に負けたのが許せないんだろう。親父の会社がお前のスポンサーだからな」

「お前、父親より母親の会社を継いだほうがいいんじゃねぇか? 絶対そっちのほうが安泰だろ」

「俺はあんな会社に興味はない。どっちも一部だけ上場らしいからな」

「は? 一部だけ上場? 言ってる意味がよくわからねぇぞ?」

「お袋の会社は一部上場らしいんだが、どうして一部だけなのか俺には理解できない。どうせなら全部上場しろ。無理なら半分でもいい。一部より半分や全部のほうがいいに決まっている」

「やっぱりお前は社長の器じゃねぇな。一部上場の意味も知らねぇのか。あれは一部だけ上場してるという意味じゃねぇんだぜ。だから、半分上場とか全部上場もありえねぇ」

「違うのか?」

「あれは上場の範囲ではなく、段階を表してるんだぜ。漫画とか映画でも、話が進むにつれて第一部、第二部、第三部ってなるだろ? あんな感じだ。一部上場、二部上場、三部上場と進み、最後は最終上場になる。一部上場ならまだ初期の段階だな」

「そうなのか。まだ初期段階か。最終上場まで先は長そうだな」

「俺の知る限り、一部上場と二部上場の会社しか見たことねぇな。三部上場になるには、かなりハードな条件があるんだろうな」

「それにしても、お前は物知りだな。おまけに強いし、すごい男だ。八百長とはいえ、そんなお前に勝てる日が来るのが楽しみだ」

「で、再戦はいつの予定なんだ? 俺はいつでもいいぜ」

「来月ということで話が進んでいるはずだ。近いうちにお前にも連絡が行くだろう。それでは、試合当日にコートで会おう」

「コート? リングじゃねぇのか?」

「再戦はテニスだ」

「はぁ!? テニス!? 意味わかんねぇよ!」

「俺は小さいころからリトルリーグで野球をやってきて、学生時代はサッカー一筋、今はゴルフにハマっている。だが、再戦はテニス」

「だから、意味がわからねぇんだよ!」

「仕方がないんだ、お袋が見に来るから」

「どういうことだ?」

「お袋がずっと俺の試合を会場で見たいと言っていたが、今まで休みが合わず実現できていない。だが、今回はお袋の会社が休みの日に再戦を設定したから、やっとお袋を会場に呼べる。だからテニスなんだ。定休日だけに」

「って、違~~~~~う!!」



「『八百長』ではなく、『ややや、包丁』だ。同じ間違いはやめてくれよ、ジョージ」

「さっきの続きになってるんだね~。ノリィさん、天才~。去年のオイラはTEN歳~」

 大はしゃぎするジョージ。


「これはこの宿屋内のある部屋で見つかった。特に隠すわけでもなく、無造作にテーブルの上に置かれていた」

「それは誰の部屋だ?」

「おまえだ! これはおまえが泊まっていた部屋から見つかった!」

 ノリィの問いに、刑事はゲンを指差しながら叫んだ。

「ちょっと待て! 冗談じゃねーぞ!」

「しかも、おまえは被害者女性を窓の外から何度も覗いていた! この宿屋の従業員全員がそう証言している!」

「オレじゃねー! 別人だ! オレに成りすました誰かだ!」

 昼間の一件を思い出し、ゲンは全力で否定する。


「なるほどな。被害者に言い寄ったが断られ、カッとなって殺したか。よくある話だ」

 ノリィが眼鏡を上げながら言う。その鋭い眼差しが、ゲンに容赦なく突き刺さる。

「だから、オレじゃねーよ! 勝手に決めつけんじゃねーよ!! ……オマエらも何か言ってくれ!!」

 ゲンは泣きそうな目でユーシアたちに助けを求めた。

「おっさん、犯した罪はきちんと償うべきだと思うぞ?」

「いつかはやると思っていたけど、やっぱりね……」

「フン、無辜の民を殺めた罪は重い……。地獄の業火に焼かれよ……」

「オマエら、ふざけんじゃねーぞ! オレを陥れて楽しーのか!?」

 ゲンは半狂乱になって叫んだ。


「そーだ! リョウだ、リョウ! マーケスの町に、リョウっつー精霊探偵がいる! あいつは精霊を使って過去を見ることができる! この部屋の事件当時の様子を見てもらってくれ!」

 かつて出会った精霊探偵の名が、ゲンの口から飛び出した。米倉リョウ。操っていた風の精霊をグランツに倒され、傷を受けたところで別れた。

 リョウの力なら、この部屋の風の精霊と交信して、精霊たちが見た事件当時の様子を知ることができるだろう。

「米倉探偵を知っているなら話は早い。彼には既に事件当時の様子を見てもらっている。その結果、間違いなくおまえが犯人だ。犯人の特徴が、おまえの風貌と完全に一致しているそうだ」

 ゲンのわずかな希望は、刑事の言葉により打ち砕かれた。

「そんなバカな……! そんなわけねーだろ! 何かの間違いだ!」

 ゲンは頭を抱え込んだ。リョウの能力のすごさはゲンが一番よくわかっている。リョウがそう言うのなら、ゲンと全く同じ格好をした者が犯人なのは間違いないだろう。ただ、それが自分ではないことを証明するのは、今のゲンには不可能に近かった。

「リョウのやつ、すっかり元気になったんだな」

「あのときはかなり苦しそうだったけど、安心したわ」

「フッ、杞憂か……。余に余計な心配をかけさせるとは……」

 リョウの回復を知り、ユーシアたちも安堵の声を上げた。


「とにかく、お前が犯人なのは間違いない。お前が犯人だとすれば、今回の事件の謎はすべて解ける。唯一わからないのは、どうしてわかりやすい場所に凶器を残していたのかだけだ」

 ノリィの鋭い眼光がゲンを貫く。

「誰かがオレを陥れよーとしてるからに決まってんじゃねーか! 証拠を見せびらかすバカはいねーだろ! だから、犯人はオレじゃねーんだ!」

「御託はいい、御託は」

「えっ? 五択? 五者択一のこと?」

「そうそうそう、五者択一、五者択一。五択でクイズを出すよ~」

 現場が緊迫した雰囲気に包まれる中、またもジョージのギャグがノリィに火をつけた。

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