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28 のりまくり その3

いつもありがとうございます。


今回も大半がノリツッコミです。

例によってストーリーはほとんど進行しません。


よろしくお願いします。

「いや~、極楽極楽。やっぱりお風呂は気持ちいいな。一日の疲れが取れる。あまりの気持ちよさに5時間も入ってしまったぞ。そろそろ出るか。

 風呂から上がったらやっぱりあれだな。あれを豪快に飲み干したいな。冷蔵庫でキンキンに冷えてるはず。よし、一気に飲み干すぞ~、水道水を。

 安月給すぎて酒も買えねぇんだよ。給料がキャベツ3個だけってひどすぎだろ、うちの会社。テレアポの仕事も大変なんだぞ。毎日毎日電話かけまくりで疲れるのに。あ~、さっさと潰れてくれねぇかな。

 ん? あれ? おかしいな、風呂の出口が開かないぞ? 入るときはすんなり開いたのに、今は押しても引いてもびくともしないぞ。急に建て付けが悪くなったのか? これだから安普請の家は嫌なんだ。

 おい! キョーコ! キョーコ! ちょっと来てくれ! 来てここを開けてくれ!

 ん? お前が鍵を閉めた? 俺をここに閉じ込めた? なぜだ? 俺が安月給の甲斐性なしだからか?

 え? 俺に謝らせたいことがある? 何だ? お前に謝るようなこと、俺には全く心当たりがないぞ?

 え? 胸に手を当ててよく考えろ? それは誰の胸でもいいのか? 古今東西老若男女、誰でもいいのか? 本当だな? 既婚者でも二次元でも幼女でも、誰でもいいんだな?

 誰でもいい? それなら話は早い。一択だ。考えるときに胸に手を当てたい奴を一人だけ選べと言われたら、俺は迷わずあいつにする。

 誰かって? 決まってるだろ! 北江田松千代だよ! 世界最強の格闘王、北江田松千代! あの厚い胸板に触れられたら、それだけで俺は……、俺は……。ああ、想像しただけで涎が……。涙が……。鼻水が……。汗が……。尿が……。便が……。血尿と血便だった……。見なかったことにするか……。

 だめだ、考えたけど全然思い当たらないぞ。清廉潔白な俺には全くわからない。キョーコ、ヒントは? ヒントはないのか?

 冷蔵庫だって……? あ、あれは違うんだ! バラバラにしたけど処理に困り、とりあえず冷蔵庫に隠しているだけなんだ! 後でこっそり山に埋めてくる!

 え? 違う? そのことじゃない? 答えはプから始まる? ああ、わかった。プラモデルか。俺が作ったプラモを全部冷蔵庫で保管しているからだろ? あれは子供のころからずっとやってるんだよ。冷やしたほうがうまいからな。

 それも違う? プの次はリ? ああ、プリキュートか。女児に大人気のアニメシリーズ、プリキュートにハマり、大量のステッカーを冷蔵庫に貼っているからだな? でも、あれはお前だってかわいいと言っていただろ。何を今さら!

 え? プリキュートも違う? 答えはプリン? ああ、会社で新入社員たちのプリンとしたお尻を見て興奮しているからか。やっぱり若い子はいいよな~。ん? おいおい、キョーコ。落ち着け。そう怒るな。手は出さないから心配するな。違うものは出すかもしれないけどな。

 え? 冷蔵庫に入れてあったお前のプリンを俺が食べた? ああ、さっき風呂に入る前に食ったやつか。俺に買ってくれたのかと思って食ったんたが、違ったんだな。すまんすまん。許してくれ。風呂から上がったら、新しいのを買ってきてやるよ。

 お前はプリンのことで怒っていたんだな。そんなことで怒って俺を風呂に閉じこめるなんて、なかなかかわいいじゃないか。

 それにしても、閉じ込められた原因がプリンで安心したぞ。実は心当たりありまくりだからな。お前の妹のリョーコとW不倫してるとか、お前のへそくりをパクってスロットで全部スったとか、夜な夜な町内に出没する露出魔が俺だとか、盗んだ大量の下着を屋根裏に隠しているとか、親の家で飲んだ帰りに人を撥ねて逃走したとか、そもそも免許を持っていないとか、架空請求で前の会社の金を横領したとか、インサイダー取引で儲けてこの家を建てたとか、高齢者宅に息子や孫を騙って電話するのが今の仕事だとか、車の中に見つかるとまずい粉が大量にあるとか、SNSで知り合った未成年をちょくちょく連れ回しているとか、不正アクセスで得た個人情報を売って小遣い稼ぎをしているとか、そういう理由じゃなくて本当によかった。バレたら風呂とは違うところに閉じ込められるからな。

 なんだって? さっきの俺の発言はすべて録音してる? もう警察も呼んでる? ちょっと待て! なぜだ? うっかりお前のプリンを食ったのは犯罪なのか!? プリンを食っただけで俺は捕まるのか!? それはおかしいだろ!

 え? ヨーグルトなら食べてもよかった? チーズも? ゼリーもババロアも? イチゴ大福もシュークリームもエクレアも? プリンだけがアウトで、あとは大丈夫だった? プリン以外なら閉じ込められなかった?

 やっちまったな、俺。あれだけの選択肢の中から唯一のドボンを引くなんて、いかにも俺らしいじゃねぇか。プリンを食って逮捕か。情けねぇな。

 え? 俺がどうしてプリンを選んだかって? そんなの決まってるだろ。酒の代わりだよ。酒がないから、プリンで我慢してるんだ。あのプリンって、酒に含まれてるプリン体でできてるんだろ?」

「って、違~~~~~う!!」



「『風呂の出口』じゃなく、『プロの手口』だ。俺の活舌が悪かったのなら謝るが、もう間違えないでくれよ、ジョージ」

「ノリィさんはやっぱりすごいっす~。語彙力もあるし~」

 ジョージは大喜びだ。

「はぁ……。いつになれば終わるんだろうな……」

「本当にいいかげんにしてもらいたいわ……」

「フン、なんと不愉快な……。いつまで余を待たせるつもりだ……」

 ノリィのせいで遅々として進まない捜査。終わる気配のない事情聴取。時間はまだ夜明け前。

 早く解放されたいのに、全く先が見えない展開に、ユーシアたちもうんざりしているようだ。

 デビリアンだけはいつの間にかちゃっかり忠二の体内に戻り、難を逃れていた。


 ユーシアたちの何かを訴えかけるような視線がゲンに突き刺さる。

「しゃーねーな。オレがオマエらを代表してガツンと言ってやるよ」

 ゲンはノリィに大股で歩みよった。

「おい、ノリィ! オマエ、いーかげんに汁!!」

「なんだ、お前は? お前に怒鳴られる筋合いはないが?」

 突然怒鳴りつけられ、ノリィは気色ばんだ。

「オレは作者だ! 作者として、オマエに一言物申す!」

 ゲンはノリィの鼻先に人差し指を突き付けた。

「何だ、言ってみろ。作者だろうと、内容によっては容赦しない」

 ノリィの射抜くような視線がゲンの全身を貫く。


「結論から言う! オマエは自分が刑事だっつー自覚を忘れんじゃねー!!」

「なんだと?」

「さっきのノリツッコミの後半はやべーだろ! 露出魔とか飲酒運転とかひき逃げとか横領とかオレオレ詐欺とか薬物とか、犯罪のオンパレードじゃねーか! 話の流れ的にそのほーが盛り上がんのはわかるが、自分の立場を弁えろ! 芸人ならともかく、現役刑事のオマエが、ガチの犯罪を軽々しくネタにすんじゃねーよ! 不謹慎だろーが! オレの世界じゃ間違いなく大炎上不可避だぞ! 原作でも似たよーなネタがあったが、数百万あるのは貯金じゃなくて実は借金とか、バツ1じゃなくて本当はバツ10とか、親父の葬式を理由に毎年会社をずる休みとか、嫁の下着をこっそり身に着けてるとか、あそこはそーゆー感じだっただろーが! オマエが刑事だから敢えてそーしてんのに、勝手に改変すんじゃねーよ! ユーシアたちも反応に困ってんじゃねーか!!」

 ゲンは早口でまくし立てた。ノリィが何か言おうとしてもお構いなしに言葉を続けた。


「……そうか、それはすまなかった。確かにお前の言うとおりだ。刑事にあるまじき不謹慎なネタだった。これからは気をつけよう」

 ノリィは素直に頭を下げた。ゲンは決して貶したわけではない。不適切な箇所を指摘しただけだ。だから、ノリィの怒りの導火線に火をつけることはなかった。

「わかりゃいーんだ、わかりゃ。ノリツッコミすんのはかまわねーが、二度と刑事っつー立場を忘れんじゃねーぞ」

 ゲンは踵を返した。

「これでいーんだろ? オマエらの言いてーこと、オレが代わりに言ってやったぜ」

「いや、そういうことでは――」


「証拠品を押収したぞ!」

 そのとき、一人の刑事が部屋に飛び込んできた。透明な袋を手にしている。その中に入っているのは、血の付いた包丁だ。

「それが凶器か。ややや、包丁! ややや、包丁!」

 明らかに不自然な、違和感の塊のような言葉を発するノリィ。

「えっ? 八百長? また八百長をお願いしたの?」

「そうそうそう、八百長、八百長。再度八百長を持ちかけるよ~」

 またもノリツッコミが始まってしまった。

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