27 のりまくり その2
いつもありがとうございます。
今回はほぼすべてがノリツッコミです。
ストーリーは進行しないので、読み飛ばしていただいても大丈夫です。
よろしくお願いします。
「チャン・ピオン。話がある」
「チャーレン・ジャーじゃないか。どうした?」
「単刀直入に言う。明日の試合、俺に勝たせてくれ」
「おいおい、何かと思えば八百長の依頼か? 帰ってくれ」
「お前は若くて強い。これから何度でも王者になれるだろう。だが、俺にはこれが最後のチャンスなんだ」
「最後のチャンス? 負けたら引退でもするのか?」
「そうだ。明日で俺は30になる。30までに王者になれなかったら、潔く引退する約束になっているんだ。猛反対する親父をそういう条件で説得して、俺はこの世界に飛び込んだ。俺はまだ戦い続けたい。引退したら家業を継がないといけない」
「それは残念だったな。明日でお前は引退だ。農業か自営業か知らねぇが、おとなしく家業を継げ」
「親父は会社を経営している。引退後はそこに入社して、ゆくゆくは次期社長だ」
「ケッ、自慢かよ。社長の椅子が約束されてるなら、もうリングにこだわる必要ねぇだろ。さっさと引退しろ」
「ちなみに、レッドコーポレーションという会社だ」
「レッドコーポレーション……? どこかで聞いたことあるような……? おいおい、マジかよ。俺のスポンサーじゃねぇか!」
「最近、親父から会社の内部資料が届くようになった。もう俺が引退する前提で話を進めているんだろう。その資料を読んだおかげで、会社のこともかなり詳しくなった」
「それはよかったな。いつでも社長になれるじゃねぇか」
「売上が年々下がっているようだし、あんな会社を継いでも苦労するだけだ」
「何をやってる会社なんだ? スポンサーなのによく知らねぇぜ」
「経営コンサルタントだ。子会社もたくさんある」
「それなりにでかい会社なんだな」
「子会社は、株式会社赤字、大赤字、特大赤字、超特大赤字、債務超過、経営破綻、――」
「待て待て待て待て! なんだ、その名前は!? 経営コンサルタントだろ!?」
「赤字という社名には、赤字にならないようにしっかりとコンサルします、という意味が込められている。他の会社名も同じだ」
「由来は理解できるが、だったらもう少し違う社名にできただろ!」
「親父がやってる会社、他にはブラックコーポレーションというのもある。こっちも多くの子会社を持つ」
「それは何の会社だ?」
「人事労務コンサルタントだ」
「あか~~~~~ん!!」
「子会社は、株式会社ブラック、ドブラック、絶対ブラック、超絶ブラック、過重労働、労基法何それおいしいの、――」
「いやいやいやいや! それも絶対に付けちゃダメな社名だろ!」
「そういう会社にならないようにしっかりとコンサルしますという意味が――」
「客はそういう意味には取らねぇから! 絶対に社名どおりの意味に取るから!」
「それ以外にも、親父は結婚・育児支援サービスの会社も経営している。その名はブルーコーポレーション」
「嫌な予感しかしねぇな……」
「子会社は、株式会社マリッジブルー、超マリッジブルー、超々マリッジブルー、マタニティブルー、超マタニティブルー、超々マタニティブルー、――」
「やっぱりか!! もっとまともな社名をつけろ!」
「そこがやってる結婚相談所はまともな名前だ。結婚相談所『玉に瑕』」
「玉に瑕?」
「女が金持ちの男と結婚できるように、がコンセプトだ」
「いや、それを言うなら、た――」
「そこがやってる婚活アプリの名は、『食べ残し』だ」
「玉の輿! それを言うなら玉の輿! 食べ残してどうする! 会社の連中、バカしかいねぇのか!? ちゃんと義務教育受けてるのか!?」
「親父は学習塾もやっている。その名はホワイトコーポレーション」
「ああ、なんとなくわかったぜ……」
「子会社は、株式会社まっしろ、まっしろけ、まっしろけっけ、白紙、無回答、浪人、――」
「やっぱり思ったとおりじゃねぇか! たまには予想を裏切れ! ワンパターンすぎだろ!」
「引退後は、この4つの会社を俺が継ぐことになる。どの業界も競争が激しく、先行きが厳しいらしい。いくら優秀なスタッフを揃えても、会社の経営は難しいんだな」
「お前が社長に就任したら、まずは社名を変更しろ。理由はわかるよな?」
「社長が変わったら社名も変えるという決まりでもあるんだろう?」
「よくわかってるじゃねぇか。社長交代により、社風や方針が変わる会社が多い。だから、それに合わせて社名も変えるのが暗黙のルールだ」
「変えるにしても、どう変えればいいんだ? 全く思いつかない」
「ちょっと考えればわかるだろ! 4つの会社の名前を入れ替えればいいんだよ!」
「入れ替える? どういうことだ?」
「経営コンサルタントはブラック、人事労務コンサルタントはホワイト、結婚・育児支援サービスはレッド、学習塾はブルーに変えろ。もちろん、子会社もそれに合わせた名前に変更しろ」
「なぜだ? 理由は?」
「経営は黒字がいいからブラック、人事労務はもちろんホワイト、結婚支援はバラ色や赤ちゃんから連想してレッド、塾は青春や青少年という言葉からブルー」
「なるほど、そういうことか」
「そんなこともわからねぇのなら、お前に社長は無理だな」
「それはつまり、引退するな、もっと戦い続けろということか? じゃ、明日の試合、俺に勝たせてくれるんだな?」
「どうやったらそんな解釈になるんだよ! 引退後は社長にならずに別の道に進めと言ってるんだ!!」
「俺に勝たせてはくれないわけか? 金ならあるぞ? いい女もたくさん知っている」
「あいにく金にも女にも困ってねぇんだ。残念だったな」
「今欲しいものはないのか? 非売品や限定品でもいい。俺は顔が広い。その人脈を活かせば、たいていのものは手に入る」
「……あるとしたらあれだけだな。世界に1つしかねぇ、限定品の超高級フィギュアだ」
「超高級フィギュアか。いくらくらいするんだ?」
「3億でも落札できなかった。ケタが違った。最終落札価格は20億」
「それはもしかして、爆乳戦隊パイオッツのリーダー、Iカップのアイカちゃんの純金製フィギュアのことか?」
「お前、アイカを知ってるのか!?」
「知っているも何も、それを落札したのは俺だ。俺はファン歴10年。あのフィギュアだけは誰にも渡したくなかった」
「10年だと!? すげぇな。パイオッツの結成当初から応援してる俺でさえファン歴5年だぞ」
「だが、欲しいならくれてやる。財産の大半をつぎ込んだが、現役生活を続けられるなら安いもんだ」
「仕方ねぇな。それで手を打ってやるよ」
「これで八百長成立だな」
「って、違~~~~~う!!」
「俺は『やや包丁』と言ったのであって、『八百長』とは言っていない。次は間違えるなよ」
ノリィは満足そうな表情を浮かべている。立ち位置と声色を変えながら長々と一人二役を演じたというのに、疲れた様子は全くない。
「さすがノリィ~。サスが乗り心地に直結するよね~」
ジョージはギャグを飛ばしながら、楽しそうにノリィの周りを飛び跳ねている。
ノリィはどんなボケにでもノリツッコミができるわけではない。実は自らボケを指定している。
たまに文末で同じ言葉を繰り返すときがあり、それが「ノリツッコミができるから、この言葉で○○とボケてくれ」のサインだ。
誰かがその○○に当てはまるボケをかましたときのみノリツッコミが発動し、そうでなければ何事もなかったかのように流される。
ジョージはいつもその○○を正確に言い当てているため、ノリィに気に入られ、重宝がられている。
「一撃で心臓を正確に貫いている。これはプロの手口だな、プロの手口」
「えっ? 風呂の出口? お風呂の出口がどうかしたの?」
「そうそうそう、風呂の出口、風呂の出口。お風呂の出口が開かないよ~」
またまた始まったノリツッコミに、ジョージ以外の誰もが頭を抱え込んだ。