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2 かきかけたち その2

 誰かが言い争う声で、バジルは目を覚ました。隣の部屋からだ。扉の隙間から灯りが漏れている。

「どうしても行くのですか、ランクス?」

 聞こえてきたのはシンシアの声だ。

「当たり前だ。もうこれ以上あいつのお守はできん!」

 ランクスはいつになく激高していた。机を拳で叩くような音が聞こえてくる。

「昼間はあいつを守ろうとして死にかけた。貴様たちがいなければ危ないところだった」

「背中をざっくり斬られてたよね~。あれは痛いと思うよ~」

 ミスティの声も聞こえる。緊張感のない喋り方は相変わらずだ。

「これ以上あいつと一緒に戦うのは無理だ。ただ突っ立っているだけで何の役にも立たん。あれで勇者とは聞いて呆れる」

「絶対にバジルよりランクスのほうが勇者っぽいよね~」

「だから、あいつは置いていく。あいつがいても足手まといになるだけだ。魔王グランツは、俺たちだけで倒すしかない」

 誰かが椅子から立ち上がったような音がした。おそらくランクスだろう。

「ミスティとは既に話はできている。あとは貴様だ、シンシア。貴様も俺たちと来い」

「私は神に仕える身。神がバジルを勇者としてお選びになった以上、私はその神の御心に従うだけです」

「あいつと一緒に居たら、命がいくつあっても足らんぞ。死にたいのか?」

「ここで死ぬというのなら、それが神から授かった私の運命なのでしょう。私は運命に逆らうつもりはありません」

「フン、好きにしろ。俺たちと一緒に来なかったことを後悔しても知らんぞ。……行くぞ、ミスティ」

「じゃあね、シンシア~。ここでお別れだよ~」

 二人の足音が遠ざかる。扉の閉まる音がした。

 今追いかければ、まだ間に合うかもしれない。だが、バジルは全く動けなかった。自分が情けなくて、ただ声を押し殺して泣くことしかできなかった。

「……バジル、私はあなたを信じていますよ。あなたは神に選ばれし勇者なのですから」

 扉の向こうから聞こえてくるシンシアの呟きが、バジルの胸に深く突き刺さった。

――――『勇者失格』ここでかきかけ




「さっきまでの威勢はどうした? 俺を倒すのではなかったのか? 防戦一方だぞ?」

 ドラスは余裕の笑みを浮かべている。息一つ乱れていない。

「こいつ、強いぜ……」

 ランディは苦しそうに肩で息をしている。

「言ったはずだ。世界樹の実を食って飛べるようになっただけの貴様が、生まれつき飛べる俺に空中戦で勝てるはずがないのだ」

 一陣の風が吹き抜ける。風にあおられ、ランディの体が流されそうになる。

「ランディ~、負けるな~」

 地上で見守る仲間たちの声が、風に乗って聞こえてきた。

「仲間を呼びたければ呼んでもいいんだぞ? もっとも、空を飛んでここまで来られればの話だがな」

「それはありがたいぜ。では、そうさせてもらうぜ!」

 ランディは剣を突き上げた。それが合図だった。

 次の瞬間、ドラスの首が飛んだ。地上からドラスの背後に瞬間移動したアークスが、一撃でドラスの首を刎ねたのだ。ドラスは完全に油断していて、気づく間もなかった。あっけない幕切れだった。

 ドラスの背中の翼がそのはばたきを止め、体が落下を始めた。

「さすが俺。位置もタイミングも完璧じゃん」

 アークスは自分で自分を褒めた。

「よくやった! さすがだぜ、アークス!」

 ランディはアークスに向かって親指を立て、白い歯を見せた。その笑顔がアークスに届いたかどうかはわからない。再び瞬間移動で地上に戻っていたからだ。

「さて、俺も戻るか。疲れたぜ」

 ランディが地上に向けて急降下しようとしたそのときだった。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 突然、地上からミーアの悲鳴が聞こえた。ミーアは空の一点を指差して震えていた。

「なにっ……! そんなはずはないぜ……!」

 ランディの視線がドラスに釘付けになる。確かに首を刎ねたはずだが、何事もなかったかのように怒りに満ちた目でランディを睨みつけていた。

 だが、アークスが刎ねたドラスの首が地上に向かって落下しているのは、ランディからもはっきりと見えている。

「特別に教えてやろう。俺は世界樹の実から炎を操る力を手に入れたと公言しているが、あれは嘘だ。炎は元々使えるのだ」

「なんだと……?」

「俺が手に入れたのは再生能力だ。この力はすごいぞ。たとえ首を斬り落とされても、この通りすぐに生えてくる。俺を倒したいのなら、完全にとどめを刺す以外にないぞ!」

 ドラスは不気味な笑いを浮かべた。

「こいつ、化け物だぜ……!」

「さぁ、続きを始めるぞ!」

 ドラスは全身に炎を纏うと、ランディに襲いかかった。

――――『世界樹の戦士たち』ここでかきかけ




「このままだと追いつかれちゃうよ!」

 リンが泣きそうな声で叫んだ。

「ここは俺が食い止める。お前たちは先に行け」

 ロキは剣を抜いて立ち止まった。

「あの人数……、一人じゃ無理だよ!」

 追ってくる敵の多さに、リンはそう叫ばずにはいられなかった。

 さすがのロキも、あの人数が相手では苦戦は必至だろう。大量の敵を相手に、一人たりとも殺めることなく戦わなければならないのだ。少しでも手元が狂って致命傷を与えてしまえば、そこでロキの命は尽きる。

「俺の心配よりも、自分たちの心配をしろ。……すぐに追いつく」

 そう言い残すと、ロキは迫りくる帝国兵の集団に向かっていった。その後ろ姿がどんどん小さくなっていく。

「ロキを助けようよ、ミト! 一人じゃ無理だよ!」

 リンは訴えかけたが、ミトは首を横に振る。

「私たちが行っても足手まといになるだけよ。さぁ、早くここを出るわよ」

「俺たちにできるのは、このまま先に進むことだけだ。行くぞ」

 ミトとザックは躊躇なく駆け出した。リンもしぶしぶそのあとに続く。心配そうに、何度も何度も後ろを振り返っている。

 ミトも一度だけ振り返る。ロキが大勢の帝国兵に囲まれているのが見えた。相手の命を奪うことなくその包囲網を突破するのは至難の業だろう。少なくともミトにはできる気がしない。

「おい、ミト。あいつ、大丈夫だと思うか?」

 並走しながら、ザックがミトに尋ねる。

「あの程度でやられたりしないわよ。でも、やられてくれたら倒す手間が省けるわね」

 今は打倒皇帝という同じ目的のために共闘しているが、ロキはミトたちの村を滅ぼした張本人。皇帝に心を操られていたとはいえ、その事実は決して変わらない。村の仇として、いずれは倒さなければならない敵だ。

 だが、ロキは強い。今のミトたちでは、万が一にも勝ち目はないだろう。負けても命を奪われることはないだろうが、再起不能にされることは間違いない。

 それならばいっそのこと、ここで倒れたくれたほうが好都合だ。戦うことなく望む未来を手に入れることができる。

 もっとも、ロキがいなくなれば、この先の戦いを勝ち抜くことは限りなく不可能に近くなるだろう。

「……ここは通さん!」

 頭上から声が聞こえたと同時に、ミトとザックは横に跳んだ。

――――『アストリア・サーガ』ここでかきかけ




 そこに立っていたのは、フォラグア国王ランゴール・ゴッゾだった。

「ランゴール王……! どうしてあなたがこんなことを……!」

 ニケの顔が苦痛に歪んでいる。傷口からは大量の鮮血が流れ落ち、床を朱に染めていた。

「ニケ・ブルガー。封印を解いてくれてご苦労だった。神霊石は私がいただく」

 表情一つ変えないランゴール。銃口はニケに向けたままだ。

「神霊石フュードは聖剣シャントブーリアを作るためのもの……。あなたには必要ないはずだ……!」

「私もフュードを欲しているのだ。聖剣ではなく、魔剣を作るためにな」

「魔剣……!?」

「お前も名前くらいは聞いたことがあるだろう。古の魔剣ジョヒアを」

「ジョヒア……」

 魔剣ジョヒア。その名はニケももちろん知っている。その昔、世界に様々な災厄をもたらし、数多の命を奪い、多くの国を滅ぼしたと言われる魔剣だ。最後は神々の手により打ち砕かれ、その破片は世界中に飛散したという。

「私はジョヒアの欠片の大半を手に入れている。あとはフュードさえあれば、ジョヒアを復元させることができるのだ」

「どうしてそんなことを……! そんなことしたら、世界が……!」

「性能でジョヒアに大きく劣るシャントブーリアでは、ジルトンには勝てぬ。たとえ魔の力であろうと、相手を凌駕できれば勝てるのだ。魔剣ジョヒアこそが、魔皇子ジルトンの強大な魔の力に比肩しうる唯一の武器だ」

「そんなこと、させるものか……!」

 ニケは剣に手をかけた。その手も血で真紅に染まっている。

「やめておけ。その傷では思うように戦えまい。お前に勝ち目はない。諦めろ」

 と、その時だ。

「――ニケ、無事か!?」

「アドリー……! カレッツ……!」

 敵の包囲を突破した二人が部屋に飛び込んできた。

 肩を撃たれたニケと、銃を持つランゴール。カレッツは瞬時に状況を把握した。

「ネストロミーネ!」

 カレッツが叫ぶと、ランゴールの頭上に無数の氷の塊が現れ、一気に降り注いだ。すべてランゴールを直撃したはずだが、全く効いていない。

「なにっ!?」

「やれやれ、その程度か……。ライカレード!!」

 ランゴールの爆発魔法が炸裂する。ニケたちは吹っ飛ばされた。

――――『メルグ大陸物語』ここでかきかけ


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