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16 新しい仲間

「……さ、今日はどーすっかな。とりま昨日の本屋にまた行きてーな。金ならあるし、あのガクシアの本も今なら余裕で買えるじゃねーか。他にもうまそーな食いもんがいろいろ売ってたし、片っ端から食いまくるのも悪くねーな」

 ゲンは朝からご機嫌だった。宿を出るなり、どこで何を買おうかと思いを巡らせている。完全に観光気分だ。

「おっさん、俺たちは遊びに来たわけじゃないんだ。そんな余裕はないに決まってるだろ」

「バジルたちはこの町のずっと先にいるみたいだし、早く追いかけないといけないのよ」

「フッ、なんと悠長な……。この世界からの脱出を望む人間の態度とはとても思えぬ……」

 ユーシアたちも呆れ顔だ。


「そーゆーオマエらだって、うめーもん食いてーだろ? 腹が減ってちゃ戦はできねーぞ」

「そうだな。それなら、金は渡すからおっさんだけここに残ったらいい。俺たちは次の町を目指す」

「お買い物や食べ歩きをするのなら、私は次の町がいいわ。かなり大きな町みたいなのよね」

「フッ、愚かな……。卿は商都ナニワよりこの町を選ぶか……。余には理解できぬ……」

「ちょっと待て。次の町っつーのはナニワのことだったのかよ。オマエら、それならそーと先に言え。ここよりナニワのほーがいーに決まってんじゃねーか!」

 聞き覚えのある町の名に、ゲンは興奮を隠せなかった。


 ユーシアたちが昨夜、宿の従業員や宿泊客から情報を集めていたことを、ゲンは眠りこけていて全く知らなかった。従業員の中にナニワ出身者がいたおかげで、ユーシアたちもその存在を知ったという。

 ナニワ。世界中の人と物が集まる商業都市として、『少・笑・抄』に登場する町だ。多くの店が軒を連ねており、非常に活気に満ちあふれている。品揃えも豊富で、買えないものはないとまで言われている。

 また、お笑いの聖地としてもよく知られており、多くの芸人がここを拠点に活動している。原作の主人公であるダイとジョージの2人も、この町で芸人たちが起こす騒動に巻き込まれてしまう。


「……そーとわかりゃ、さっさとナニワに向かって――、お?」

 町の外に向かって歩く一人の少年が目に留まった。逆立ったような銀色の髪と、背中の大きな剣が印象的だ。似た特徴を持つ登場人物の名が、ゲンの頭をよぎった。

「あいつはもしかして……」

「ランクスじゃないか。あいつもこの町にいたんだな」

「やっぱりランクス(CV:長谷田聖也)だったか。なついじゃねーか」

 ゲンがすぐに反応する。即座にCVが出てくるのはさすがだ。

「ランクスはバジルとともにグランツと戦ってるキャラだから、あいつなら仲間になるかもしんねーぞ」

 ゲンたちはランクスを追いかけた。

 

 ランクス・アルヴァール。『勇者失格』に登場する、主人公バジルの仲間だ。18歳。類まれな剣の才能を持つ。父は王国の騎士団長で、ランクスは次期団長との呼び声も高い。

 神のお告げにより選ばれた4人の救世主の1人で、バジルたちとともに魔王グランツを倒す旅に出る。4人の中で最も勇者にふさわしいと思われていたが、聖剣エヴァンティアを引き抜くことができなかった。そのため、聖剣に選ばれた勇者であるバジルに対して、激しい嫉妬と憎悪を抱いている。




「ランクス、久しぶりだな。元気そうで安心したぞ」

 ユーシアの声に、ランクスは振り向いた。今まさに町を出ようとしていたところだった。

「なんだ、貴様らか。俺だけかと思っていたが、まさか貴様らもこの世界に来ていたとはな」

 ランクスの鋭い視線がゲンたちを貫く。

「オレたちだけじゃねーぞ。この町にゃリョウや龍之介がいるし、他にも――」

「誰だ、貴様は? 見かけん顔だな」

「オレは作者だ。オマエの生みの親だぞ」

「ほう、貴様が作者か……。いろんな意味で、俺の想像を超えているな」

 ランクスは見下すような目でゲンを見てくる。


「ランクス、俺たちをこの世界に飛ばしたのはグランツなんだ。グランツを倒せば、元の世界に戻れる。だから、俺たちはこうして仲間を集めているんだ」

「ほう、グランツか……。世界が変わっても、俺が奴と戦う運命は変わらんようだな」

 ランクスは皮肉っぽく笑った。

「作品の中でグランツと戦っているあなたが仲間になってくれたら、本当に心強いわ」

「フッ、手駒は多いに越したことはない……。卿には期待している……」

「役立たずなら願い下げだが、貴様らはそこそこできそうだな。いいだろう、貴様らに同行してやる。俺の足手まといにはなるなよ」

「ああ、それなら大丈夫だ。一人を除いて戦力には期待してくれ」


「一人を除いて……? おい、ユーシア、それじゃ忠二がかわいそーじゃねーか。確かに忠二はただの痛すぎる中二病だが、簡単なお使いとかならできるだろ。ちゃんと戦力にカウントしてやれよ」

 ゲンは真顔で答える。

「なるほど、それが余に対する卿の評価か……。覚えておこう……」

 忠二は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべていた。握りしめた拳が震えている。

「ユーシア、貴様もそいつの御守か。それは大変だな」

「ああ、そうだな……」

 ユーシアは苦笑いを浮かべた。




「邪魔だ、どけ!」

 ランクスが剣を横に払っただけで、敵は四散した。振った剣から衝撃波のようなものが飛んでいき、敵を切り刻んだように見えた。

「消えろ、雑魚が!」

 次に現れた敵も、ランクスの衝撃波で消滅した。スライムやゴブリンという雑魚モンスターとはいえ、剣を振っただけで葬り去った。

「弱いくせに、俺の前に出てくるな!」

 敵の出現と同時に、剣を地面に突き立てる。その切っ先が現れたのは、敵の背後の地中からだった。伸びた刃が、一瞬で敵を貫いた。

「目障りだ!」

 振った剣から炎が迸り出た。炎はまるで鞭のようにしなったかと思うと、次の瞬間には直撃した敵を焼き尽くしていた。

「くたばれ!」

 剣を前に突き出す。切っ先から黒い光の矢がいくつも飛び出し、四方八方から敵に突き刺さった。

「まだ出てくるか!」

 剣を突き上げると、轟く雷鳴とともに敵の上に稲妻が落ち、一瞬で消し去った。


 ランクスは常に先頭に立って歩き、出現した敵を即座に倒していった。ユーシアたちの出番は全くない。

「ランクス、オマエすげーな。ワンパンどころかオーバーキルじゃねーか」

「おいおい、俺たちにも少しは敵を残しておいてくれよ」

「あんな技が使えるなんて、本当にすごいわね」

「フッ、さすがだ……。それでこそ余が認めた逸材……」

 ゲンたちは口々にランクスの強さを称えた。

「おだてても何も出んぞ。このくらいは朝飯前だ」

 ランクスは振り返ることもなく言った。


「そーいや、オマエってそんな技が使えたか? 衝撃波はあったよーな気がするが、他は初めて見たぜ」

 ゲンは首をかしげる。ランクスが使った技の中に、原作にはないものが含まれているような気がした。

「……あれは厳しい修行に耐えて身に付けた技だ。俺は強くなるための努力は惜しまん」

 ランクスはやはり振り返らないため、その表情をうかがい知ることはできない。

「修行したらあんなことができるようになるのか。それはすごいな。一体どんな修行をしたんだ?」

「気が向いたら教えてやろう。貴様らがその修行に耐えられるとは思えんがな」

 ランクスは向こうを向いたまま答えた。


「ランクスがこんだけつえーなら、あとはバジルたちと合流すりゃ勝ったも同然じゃねーか。なんならグランツワンパンまであるぞ」

「バジルたちはこの草原のずっと先にいるらしいから、そのうちどこかで会えるかもしれないな」

「バジルが覚醒したら、ランクスよりも強いんでしょ? どのくらい強いのか楽しみね」

「なるほど、バジルはさらに手練れか……。それは余も安穏としてはおれぬな……」

「貴様ら、俺の前で二度とその名は出すな!」

 ランクスがゲンたちを振り返った。その目は怒りに満ちていた。

「二度と俺の前で奴の名は出すな! 出せば殺す!!」

 ランクスは剣を構え、鬼気迫る形相でゲンたちを睨みつけてきた。今にも襲いかかってきそうな気がした。

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