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かきかけ~作者と愉快な主人公たち~  作者: 蓮井 ゲン
第四章 遥かなる旅路
133/140

133 ヨミイクサ その5

「……ハッハッハ! その子たちが私より強いって? それは面白い! では、お手並み拝見と行こうか!」

 そう叫んだ次の瞬間、サトルはヨミの背後にいた。ヨミに向けて振り下ろした剣を、何者かに防がれていた。ヨミではない。富雄だ。

 ヨミの前方にいたはずの富雄が、炎の剣でサトルの剣を受け止めていた。目にも留まらぬ早業だった。

「ハッハッハ! なかなかやるな!」

 サトルが消えたかと思うと、次の瞬間には友里恵に剣を受け止められていた。友里恵に奇襲をかけたが、通用しなかったようだ。

「ハッハッハ! 少しはできるようだな!」

 サトルは一瞬で上空に移動していた。

「では、これなら――!」

 何らかの技を出そうとしていたサトルは、振り向きざま剣を振り下ろした。そこにいたのは富雄だった。富雄はサトルの剣を受け止めた。

 そして、2人は激しい殺陣に突入した。



「我も行こう」

 次に動いたのはディオンだった。サトルと同じように、ヨミの背後に移動して剣を振り下ろす。それを受け止めたのは寛一だった。寛一の武器は土の剣。鋭い切れ味に加え、傷口を腐らせる追加効果を持つ。

「ほう……」

 ディオンは驚いたような吐息を漏らすと、さらに続けて剣を振る。寛一はすべて剣でしのぎ、反撃を繰り出す。それをディオンは瞬間移動でかわした。

「……人の子よ、かかってくるがよい」

 上空からディオンの声が降ってくる。鋭い視線を寛一に向け、挑発するように手招きしていた。

 その背後に寛一が現れたのは次の瞬間だった。剣を突き出すが、ディオンに防がれる。すかさずディオンが反撃を繰り出すが、寛一はそれを巧みによけた。

 そして、2人は激しく刃を交え始めた。



「ワレモイクゾ! コレヲミルガイイ!」

 メンデスが叫ぶ。「これ」とは巨大化を指すのだろう。その体が一瞬で何倍にも大きくなった。誤って踏まないようにするためだろうか、その肩には主であるルリカを乗せていた。

「クラエ!」

 ヨミ目がけて口から炎を吐く。体が巨大化したせいだろうか、その炎は以前とは比較にならないほど大きくなっていた。

 それを受け止めたのは美也子だった。ヨミをかばうように前に立つと、瞬時に氷の盾を作り出して炎の侵攻を止めた。

「オノレ! コシャクナ!」

 メンデスはなおも立て続けに炎を吐く。美也子は盾ですべて防いだ。

 さらに連続で炎を飛ばすメンデスに対し、美也子は盾を構えて真正面から向かっていく。

「クラエ!」

 メンデスは一瞬で黒い巨大な斧を作り出すと、美也子目がけて振り下ろした。美也子は氷の剣を作り出してそれを受け止める。

 さらにメンデスは狂ったように得物を振り回すが、美也子はよけることなくすべて剣で受けた。体格にも膂力にも圧倒的な差があるというのに、全く力負けしていなかった。



「濃黒の巌よ、すべて圧し潰し、悪夢を見せよ! エターナルフォースブレイク!」

 ヴァルツが呪文を唱えると、ヨミの頭上に真っ黒な巨岩が落ちてきた。だが、直撃することはなかった。ヨミがよけたわけではない。友里恵が風の力を使って、軌道を変えたのだ。巌はヨミの後方に落ちた。落下時に発生した大きな振動と轟音が、その巨石の重量を物語っていた。

「くそっ……! 甚黒の弾よ、すべてを蹂躙し、地獄と化せ! エターナルフォースブレット!」

 すかさず次の呪文を唱える。ヨミの前後左右の空間から、無数の黒い弾丸が撃ち出された。女王に向けて正確に放たれたそれらを、友里恵は風の力で一つ残らず叩き落とした。

 そして、次の瞬間にはヴァルツの至近距離に移動し、剣を振り下ろしていた。だが、見えない何かに弾かれる。二度三度と繰り返すが、結果は同じだった。

「無駄だ……。俺はエターナルフォースバリケードに守られている……。何者にも侵せぬ、まさに究極の聖域だ……」

 ヴァルツは得意げに笑うと、さらに激しく攻め立てる。友里恵はそれらの攻撃をことごとくよけた。




「……これはすごいですっ! ヨミ陛下を倒そうとする選手と守ろうとする選手が、激しい戦いを繰り広げていますっ! サトル選手対富雄選手っ! ディオン選手対寛一選手っ! メンデス選手対美也子選手っ! ヴァルツ選手対友里恵選手っ! どの戦いも目が離せませんっ!」

 ヨミリが叫ぶ。


「ちくしょー……。どっちを応援すりゃいーんだ……」

 ゲンは頭を抱え込んだ。

 生き返ることだけを考えれば、もちろんサトルたちに勝ってもらわなければならない。だが、富雄たちはかけがえのない仲間だ。最強クラスの力を有する、エース的存在でもある。どこの馬の骨かわからないような連中に負けてほしくないという気持ちは、もちろんある。


「そんなの友里恵ちゃんたちに決まってるでしょ」

 ゲンの呟きが耳に入ったのか、間髪を入れずミトの声が飛んできた。

「きっと友里恵ちゃんたちならなんとかしてくれる。あのヨミって女王を倒して、みんなを生き返らせてくれる。私はそう信じてるわ」

 そう言い切るミトの言葉に、迷いは一切感じられなかった。事ここに至っても、ミトは友里恵たちの勝利を信じているようだ。




「……みんないなくなったね。今がチャンスだよ!」

 制服姿の少年が叫ぶ。彼の傍らには、デフォルメされたドラゴンが控えている。

 ヨミは今、一人だ。周囲にいた富雄たちはサトルたちと戦っており、ヨミの身辺警護は誰もいない。

「さあ、みんな、行って!」 

 少年の号令とともに、召喚獣たちが一斉にヨミに襲いかかる……ことはなかった。それぞれの主のそばから、全く動こうとしない。

「どうしたの!? 早く行って――、うわっ!」

 少年は、自らの召喚獣であるドラゴンから攻撃を受けた。その少年だけではない。他の生徒たちも同様だった。

「愚か者どもが! 同じ手が麿に通用するとでも思うたか!」

 ヨミは少年たちに向かって叫んだ。

「そやつらは麿が操っておる。実に御しやすい獣たちじゃ」

 ヨミは口元にかすかな笑みをたたえた。

 フォールズ魔法学院2年C組の生徒たちは、自らが召喚したモンスターに攻撃され、次々と気絶していった。



「いっくよ~! 禁呪、ドッペルゲンガー!」

 召喚獣に攻撃される少年少女たちを尻目に、マギアが禁呪を唱える。その魔法が彼らを助けるためのものでないことは、上空で富雄と戦うサトルのそばに出現した一人の男を見れば一目瞭然だった。まるで鏡に映したかのように、その男はサトルと寸分違わぬ外見をしていた。その手に握られている剣も、サトルが作り出したものと全く同じ形状をしていた。

「ハッハッハ! 私のクローンか? これは面白い! だが、恰好だけ似てても意味がないぞ?」

 富雄と切り結びながら、サトルは笑い飛ばした。だが、次の瞬間には笑いが消えた。突如として現れたもう一人のサトルが、全く遜色のない実力を持っていたからだ。サトルに勝るとも劣らない動きで、富雄を攻め立てていた。

「ハッハッハ! 君のほうこそ私のクローンなんじゃないのか? 足は引っ張らないでくれよ?」

 もう一人のサトルが笑う。声も口調も、全く同じようにしか聞こえなかった。

 2人のサトルは、息の合った動きで富雄に激しく斬りかかる。富雄は二刀流でそれに対抗した。


「もう一回いくよ~! ドッペルゲンガー!」

 マギアが再び呪文を唱える。今度はディオンがもう一人増えた。やはり見た目は酷似していた。

「人間の分際で、神の末裔を複製するとは実に不敬だ。だが、今回だけは許してやろう」

 寛一と鎬を削りながら、ディオンは笑った。

「人間の分際で、神の末裔に手向かうとは実に愚かだ。我が神の裁きを与えてやろう」

 もう一人のディオンも寛一を攻撃する。外見だけでなく、声も動きも全くと言っていいほどディオンと同じだった。

 富雄と同じように、寛一も二刀流で2人のディオンと渡り合った。


「どんどんいくよ~! ドッペル――!」

「させぬ!」

 ヨミが叫んだ。おそらくマギアに対して何らかの攻撃を仕掛けたのだろう。だが、マギアには何の変化も見られない。

「……そんな攻撃、あたしには効かないよ~。今のあたし、禁呪でめちゃくちゃ堅くなってるからね~」

 マギアは小さく舌を出した。


「ドッペルゲンガー!」

 すかさず呪文を唱えると、今度はヴァルツが二人に増えた。言うまでもなく、瓜二つだ。

「極黒の光よ、すべてを飲み込み、生贄とせよ! エターナルフォースブライト!」

「超黒の氷よ、すべてを凍てつかせ、浄化せよ! エターナルフォースブリーナ!」

 同時に呪文が詠唱される。ヴァルツの掌から、黒く輝く光が辺り一面に放出された。まるで黒い霜が降りたかのように、周辺の床が凍りついた。

 友里恵は空中に逃げることで、その両方の攻撃をかわした。


「おのれ……! 小癪な……!」

 マギアを睨みつけながら、ヨミは不快感を露わにした。

「御前たち、いつまで戯れておるのじゃ! 遠慮はいらぬ! 御前たちの真の力を見せよ! こやつらを一気に叩きのめすのじゃ!」

 ヨミの号令が轟いた。





「……御前たち、見事じゃ。期待どおりの働きじゃ。麿に盾突くあやつらを倒した。褒めてつかわすぞ」

 ヨミは満足げな笑みを浮かべて、前に並ぶ富雄たちに声をかけた。

「ありがとうございます、ヨミ様」

「なんとありがたきお言葉」

「身に余る光栄でございます」

 富雄たちは恭しそうに頭を下げる。

 

 ステージ上にいるのは、ヨミと富雄たち4人だけだった。あとは全員脱落した。少年少女たちは自らが呼び出した召喚獣により全滅した。それ以外の挑戦者は富雄たちが瞬く間に退けた。

 ヨミの号令でスイッチが入ったのか、富雄たちは爆発的な強さを発揮した。まるで赤子の手を捻るかのように、いとも簡単に撃退した。

 富雄は2人のサトルを一瞬で斬り捨て、寛一は2人のディオンを即座に刺し貫き、美也子は肩に乗ったルリカごとメンデスの首を狩り、友里恵は2人のヴァルツを同時に倒した。最後にマギアを一撃で倒したのも友里恵だ。

 本当にあっという間だった。あまりに速すぎて、やられたサトルたちでさえ、自分の身に何か起きたか理解できていないかもしれない。


「では、御前たちに最後の命令じゃ」

 しばしの沈黙の後、ヨミは口を開いた。

「はい。何なりとお申し付け下さい」

「御前たちが脱落すれば、此度のヨミイクサは終わる。ゆえに、御前たちはここで自害し、麿に勝ちを献上するのじゃ。よいな?」

「はい、仰せのままに……」

 4人は瞬時に剣を作り出すと、自分の首元に近づけた。



「……オワタ……。完全にオワタ……」

 ゲンは気が気でなかった。ステージ上では、相愛戦士たちが今まさに自らを刺そうとしている。4人全員が気絶した瞬間、敗北が決まる。ゲンにとって、それは生き返る夢が絶たれることとほぼ同義だ。

 ヨミイクサはヨミの気紛れで開催されており、次回以降の予定は誰にもわからない。今回が2年ぶりの開催だったことを考えると、次回が3年後や5年後、あるいは10年後であってもおかしくはない。残された制限時間内に次のヨミイクサが開催されるかどうかは、非常に微妙だと言わざるを得ない。

 ゲンの運命は、まさに風前の灯火だった。

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