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かきかけ~作者と愉快な主人公たち~  作者: 蓮井 ゲン
第四章 遥かなる旅路
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130 ヨミイクサ その2

「……先手必勝だぜ!」

 開始直後、誰よりも早く動いたのはランディだった。空に浮かび上がると、挑発するかのようにヨミに剣の先を向けた。その刃が黄色く光っているのは、親友であり仲間でもあるカイオスの能力によるものだろう。カイオスは世界樹の実を食べたことで、雷を自在に操る力を得た。仲間の武器に雷属性を付与することなど朝飯前だ。


「行くぜ!」

 ランディがヨミ目がけて急降下を始めたまさにそのとき、最初の脱落者が出た。アークスだ。ヨミの真後ろで気絶していた。

 ランディが相手の注意を引き付け、その隙にアークスが瞬間移動で背後を取るという必勝パターンも、ヨミには通用しなかったようだ。一瞬のうちにアークスが迎撃されてしまった。

 一体何が起きたのか、ゲンには全くわからなかった。ランディを見上げる以外の行動を、ヨミは一切取っていないように見えた。


「アークス……! うぉっ!」

 次の瞬間、ランディも脱落した。慣性の法則を無視して急にピタリと空中で静止したかと思うと、既に気絶していた。

 ただ飛んでいただけでどうしてそうなってしまったのか、やはり全くわからなかった。ヨミが何かを仕掛けたような素振りは皆無だった。


 その直後、アークスとランディの姿が消えた。ルールによれば、脱落者はステージの外に転送されることになっていたはずだ。

 周囲を見渡すと、先ほどまで誰もいなかったはずの観客席に、2人らしき人影があった。脱落すると観客席に飛ばされるようだ。

「……アークス選手、ランディ選手、脱落ですっ!」

 すかさずヨミリの実況が入る。


「……かような愚策が麿に通用するとでも思うたか? 麿を見くびるでないぞ」

 その言葉が終わったと同時に、どこかでいくつもの悲鳴が上がった。声がしたほうに目をやると、20人ほどの集団が倒れ込んでいた。若いだけで全く強そうには見えず、ほとんど印象に残っていなかった男女たちだ。

 ヨミの攻撃を受けて倒れたのだろうか。しかし、ヨミが何らかの技を繰り出したような様子は全くなかった。

「『チームエンジョイ勢』の皆さん、脱落ですっ!」

 再び場内にヨミリの声が響く。名前から察するに、おそらく面白半分で参加した者たちに違いない。彼らの脱落が勝敗に与える影響は、おそらく皆無に近いだろう。



「さあ、次は誰じゃ? 誰でもよいぞ。かかって参れ」

「おもしれぇ! だったら俺たちが行ってやろうじゃねぇか!」

 上半身裸の男たちが動いた。全部で10人。いずれ劣らぬマッチョ揃いだ。


「波動弾!」

「ファイアアッパー!」

「竜巻疾風蹴り!」

「壊滅波!」

「ダンシングナイフ!」


 男たちが次々と繰り出した攻撃は、さながら格闘ゲームの必殺技のようだった。突き出した掌から気弾や衝撃波を放ったり、振り上げた拳から炎や氷の刃を発生させたり、蹴りとともに竜巻や稲妻を巻き起こしたり、奇妙な動きからナイフや矢を飛ばしたりという、いわゆる飛び道具だ。

 だが、その攻撃がヨミに届くことはなかった。命中する直前で、まるで見えない壁にでも当たったかのように消滅していった。


「……麿には効かぬぞ」

「うぉっ……!」

 次の瞬間、男たちは全員同時に転倒した。まるで足払いでも食らったかのような倒れ方だった。倒れたまま動かない。屈強な男たちが、一瞬で気絶していた。

「ヨミ陛下の地を這うような攻撃が炸裂しましたっ! 『格闘家集団ブラッディウルブズ』の皆さん、脱落ですっ!」

 ヨミリの実況が会場に響いた。

 

「……ファッ!? 地を這うよーな攻撃!? どーゆーことだ? ヨミリにゃ見えてんのか!?」

「この世界の住人にしか、麿の技は見えぬのじゃ。御前たちは下界の者。ゆえに、御前たちには見えぬ」

「なん……だと……?」

 ゲンは驚きを隠さない。仲間たちからも大きなどよめきが起きた。

 ヨミの攻撃は、冥界の住人にしか見えないという。ゲンたち挑戦者はここに滞在しているだけで、住んでいるわけではない。よって、ヨミの攻撃は一切見えない。

 開始早々にアークスとランディがやられたのも、エンジョイ勢や格闘家集団が一撃で倒されたのも、不可視の攻撃を食らったからに違いない。



「ふざけんじゃねー! 攻撃が見えねーとか、ありえねーだろ! 完全にチートじゃねーか! そんなんで勝って嬉しーのかよ!?」

「なんとでも言うがよい。冥界の王として、麿は負けられぬのじゃ。尤も、もし麿の技が見えたとて、御前たちでは麿に勝てぬ」

 無表情を貫いたまま、ヨミは言った。


「……ならば話は早い。攻撃の隙を与えず、一気に叩くだけだ」

 背丈ほどもある大剣を背負った男が動いた。剣を抜き、ステージに立てる。

「はぁっ!」

 そう叫んだ直後、ヨミの足元に真っ赤な色の魔法陣が現れた。次の瞬間、そこから火柱が上がり、ヨミを飲み込んだ。


「おお……!」

 大きなどよめきが起きる。だが、次の瞬間には落胆のため息に変わった。

「……麿には効かぬ」

 火柱が消え、傷一つ付いていないヨミが姿を現した。

「ガルディ選手の渾身の攻撃も、ヨミ陛下には通用しませんでしたっ!」

 すかさずヨミリの実況が入る。


「おのれ……! はぁっ!」

 ガルディと呼ばれた男は、今度は魔法陣の上で爆発を起こした。爆音とともに、ヨミの姿が爆炎と爆煙の中に消える。

「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

 鋭い声を飛ばしながら、なおも立て続けに爆発を起こす。

 

「……何をしている? お前たちも手を貸せ!」

 ガルディの一喝に応えたのは、魔法使いたちだった。ユーシアが、セイラが、カレッツが、リンが、ミスティが、次々と攻撃魔法を放つ。

 雷使いのカイオス、精霊使いのリョウと流水、忍者のナナノハもその輪に加わり、一斉に攻撃を叩き込む。

 それに触発されたのか、魔法を使える他の挑戦者たちも、続々と攻撃を始めた。

 

 炎の矢が、氷の槍が、風の刃が、雷の波が、毒の霧が、岩の塊が、光の雨が、闇の渦が、ガルディが巻き起こす爆発の中へ次々と消えていく。すべてヨミに命中しているのであれば、きっと相当なダメージになっているだろう。

「猛攻ですっ! ガルディ選手を中心に、挑戦者の皆さんが魔法で猛攻を仕掛けていますっ! これはすごいっ! すごすぎますっ!」

 ヨミリの実況には興奮が混じっていた。



「うっ……!」

 突然、ガルディが倒れた。ユーシアも倒れた。セイラも倒れた。カレッツも倒れた。他のメンバーたちも倒れた。ヨミに攻撃を加えていた者たちが、全員一斉に倒れた。倒れたまま、全く動かない。気絶しているようだ。

 何が起きたのかは不明だが、おそらくヨミから目に見えない攻撃を受けたのだろう。


「なかなかやるではないか。一刹那とはいえ、麿をひるませるとは大したものじゃ。誇ってよいぞ」

 爆煙の中から姿を現したヨミは、全くの無傷だった。

「だが、その程度の力で、麿を倒せるとでも――」

 その時、銃声が轟いた。ヨミの額に小さな穴が開いたのは、その直後だ。

 だが、ヨミは全くの無反応だ。額に空いた穴も、次の瞬間には塞がっていた。


 ヨミを撃ったのは、軍人たちの長らしき男だった。真っ直ぐヨミに向けられた銃の先から、硝煙が立ち上っている。

 男の周囲では、他の軍人たちがピストルやライフル、マシンガンなどの銃器を構えている。開戦前には何も持っていなかったはずだ。どこかに隠し持っていたのだろうか。


「無駄じゃ。麿に銃など効かぬ。麿を見くびる――」

「……撃てぇぇぇぇ!」

 号令とともに、一斉射撃が始まった。

 銃声が絶え間なく轟き、周囲には硝煙が立ち込めた。

「ヨミ陛下に向けて、無数の弾丸が撃ち込まれていますっ! すごい迫力ですっ!」

 興奮のせいだろうか、ヨミリの声はやや上ずっているように聞こえた。 


 ヨミは文字どおり蜂の巣になっていた。無数の弾丸が、ヨミの体に次々と穴を開ける。

 だが、穴はすぐにふさがった。何事もなかったかのように、次の瞬間には元どおりに戻っていた。

 ヨミの体は一体どうなっているのだろうか。極めて高い治癒力や再生力を持っているということなのだろうか。


「効かぬと言うたはずじゃ! 愚か者どもが!」

 ヨミの一喝と、兵士たちが全員気絶するのとは、全くの同時だった。

「『栄光の第3小隊』の皆さん、脱落ですっ!」

 興奮冷めやらぬ声が、脱落者たちの名を告げた。



「……ヨミのやつ、めちゃくちゃつえーじゃねーか。控えめに言ってバケモンだろ」

 ゲンは驚きを隠さない。ヨミは想像以上に強かった。

 不可視の攻撃を繰り出し、魔法や銃器の集中砲火を浴びても倒れない。ヨミイクサで99連勝中というその実力は、やはり圧倒的だった。

 ゲンの頭の中に、ふとケイムの顔が浮かんだ。ケイムにはどんな攻撃も通用しなかった。攻撃が命中すれば起きるであろう現象や効果が、一切発生しないという設定になっていた。それに近い設定がもしヨミにも与えられているのであれば、勝つのはなかなか難しいかもしれない。


 

「……よし、次は俺たちが行こう」

 動き出したのは、戦隊ヒーローのコスプレをした5人組だった。マスクのせいで、顔は全く見えない。言葉を発したのは赤色だろうか。

「不動のリーダー! 熱血担当、赤コスチューム!」

 赤色が自己紹介とともにポーズを決めた。

「クールな最年長! 冷静担当、青コスチューム!」

「雰囲気イケメン! 癒し担当、緑コスチューム!」

「陽気な大食漢! お笑い担当、黄コスチューム!」

「可憐な紅一点! お色気担当、桃コスチューム!」 

 青色、緑色、黄色、桃色も続いてポーズを取る。

「5人合わせて……、仮装戦隊コスプレイ!」

 5つの声が重なった。


「……説明しよう! 『仮装戦隊コスプレイ』とは、カケル、トモヤ、タカユキ、ヨシヒロ、サヤカの5人で構成された、戦隊ヒーロー専門のコスプレ集団だ!」

 突然、赤色がどこからともなくマイクを取り出し、朗々と語り始めた。

「おっと、ただのコスプレイヤーだと侮るなかれ! いつもコスプレをしていたせいで、我々は巨悪と戦う秘密組織にスカウトされた! つまり、今の我々は、本物の戦隊ヒーローなのだ! ……ん? この安っぽい衣装のせいでやっぱりコスプレにしか見えないが、本当なのかって? いい質問だ! 実はこれは超高性能バトルスーツなのだが、相手を油断させるために、あえてこういうデザインに――!」

 5人はやにわに飛び退いた。さらに、着地後も体を捻ったり傾けたり反らしたりと、全員が忙しく動いている。まるで何かをよけているかのようだった。


「ほう。麿の技をよけるとは見事じゃ。褒めて遣わすぞ」

 ヨミがわずかに驚いたような表情を見せる。やはり5人組はヨミの攻撃をよけていたようだ。

「俺たちを見くびるな! 見えない攻撃だろうと、気配を感じ取ってよけることができるんだ!」

 赤コスチュームがヨミを指差しながら叫ぶ。彼らが着ているという超高性能バトルスーツの実力が、垣間見えたような気がした。


「今度はこっちから行くぞ!」

 リーダーの号令とともに5人がどこからともなく取り出したのは、スプレー缶のように見える代物だった。それぞれの衣装と同じ色をしている。

「くらえ! スプレイガン!!」

 一斉に射出されたのは、各々と同じ色の光線だった。ただの缶ではなく、その正体は光線銃だったようだ。

 5色の光はヨミに命中し、小さな爆発が起きた。さらに連続で放たれた光線が、次々と新たな爆発を生み出す。


「無駄じゃ無駄じゃ! 麿に銃は効かぬと、先刻も言うたはずじゃ!」

 ヨミが叫ぶのと、コスプレイの面々が大きく飛び退くのとは同時だった。ゲンには全く見えないが、おそらくヨミの反撃が飛んできたのだろう。

「こうなったら最終兵器だ!」

 5人はベルトのバックル部分に付いていた飾りのような部品を外し、頭上に掲げた。星形だったり円形だったり三角形だったりと、形は全員異なっている。

「来い、レコプス!」

 5人の声が重なり、次の瞬間には頭上に掲げた部品が光を放ち始めた。


 上空を何かがよぎった。見上げると、それらが変形しながら、次々と合体していた。

「すげーな……! こりゃもー勝ったよーなもんだろ……!」

 ゲンは興奮を抑えることができなかった。その視線の先では、巨大なロボットが今まさに完成したところだった。

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