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かきかけ~作者と愉快な主人公たち~  作者: 蓮井 ゲン
第四章 遥かなる旅路
122/140

122 他界

いつもありがとうございます。

第四章、開始です。

長かった旅も、この章で終わりを迎える予定です。

最後までお付き合いいただければ幸いです。

よろしくお願いします。

「オレ、どーやらタヒんじまったみてーだな……」

 不思議な感覚だった。ゲンは大地に横たわる自分自身を見下ろしていた。実体を持たない、霊魂だけのような存在となっていた。

 ゲンの全身はかなり損傷が激しく、見るも無残な状態だった。既に事切れていることは明らかだった。

 ジェイドが放った雷の槍の直撃を受け、ゲンは死んだ。即死だった。攻撃を食らった次の瞬間には、この世に別れを告げていた。あっけない最期だった。


 この世界に来てから、ゲンは何度も死にかけた。絶体絶命の危機を何回も迎えた。瀕死にもなった。無実の罪で処刑されそうにもなった。双生双死やミヒリトの呪いに殺されそうにもなった。

 そのたびに何かしらの方法で死を免れてきた。仲間に救われたり、自力で回避したり、奇跡に近いようなことも幾度となく経験した。だが、今回ばかりは何も起きず、遂にゲンは死を迎えた。


 この後、この世界はどうなってしまうのだろうか。主人公たちはどうなってしまうのだろうか。ゲンはぼんやりとそんなことを考えていた。ケイムの思惑どおり仲間たちは全滅し、ケイムだけがゲームマスターとしてこの世界を支配し続けるのだろうか。作者であるゲンの死が、この世界に何らかの影響を及ぼすことはあるのだろうか。気になることはいくつもあるが、死んだ今となってはすべてがもうどうでもよかった。



 ジェイドと友里恵たちの戦いは、いつの間にか始まっていたようだ。やはり速すぎて、ゲンには動きを捕らえることはできなかった。風と氷と雷が入り乱れて、縦横無尽に動き回っているようにしか見えなかった。

 ただ、明らかに雷だけ動きが違っていた。速さも勢いも、確実に風と氷を上回っていた。1対2という数的不利をものともせず、ジェイドは友里恵と美也子を完全に圧倒していた。

 

 このまま何も波乱が起きなければ、おそらくジェイドの勝利に終わる。そして、美也子から情報を聞き出してモッヒョラ坂に向かい、カディアを生き返らせようとするに違いない。

 それが最も確実で手間もかからないとの判断だろう。作者と取引をして書き直させる必要もなくなり、だからこそゲンは始末されてしまった。


「お……?」

 不意に地面が遠くなった。ゲンは空に向かってどんどん上昇していた。文字どおり、天に召されたのだ。

 そして、目の前が真っ白になった。





「……どーゆーことだ? ここはどこだ?」

 ゲンは真っ白な空間にいた。そこは6畳ほどの広さで、壁も天井も床もすべてが白く、窓や扉は一切なかった。

 なぜかゲンにはちゃんと身体があり、さらにどこも損傷していなかった。手にはHGを持っており、ポケットにはオーブとヲーブもしっかりと入っていた。

 確かにゲンは死んだはずだ。だが、とてもそんな感じはしなかった。死ぬ前の姿のまま、どこか別の世界に転移したのではないかとすら思えた。


「……冥界へようこそ~。あたしは冥界の超超美少女案内人、ヨミナちゃんだよ~」

 唐突に目の前に現れたのは、白装束姿のかわいらしい少女だった。ぱっちりした大きな目の横でVサインを作り、ポーズを決めている。10代後半くらいだろうか。人間のように見えるが、長い金色の髪から頭を覗かせている2本の角がそれを否定していた。


「この声は、朝比奈唯奈じゃねーか……!」

 死してなおゲンの利き声優は健在だった。原作に登場しないキャラクターだったが、瞬時に中の人を言い当てた。

「っつーか、やっぱここは冥界なのかよ……」

 特に驚きはない。なんとなく予想はしていた。冥界は作中にも登場する。ただ、ここに真っ白な空間があったり、ヨミナのような案内人がいたりと、ゲンの考えた冥界とは異なる部分もあるようだ。


「まさか、ここに来たのはオレだけっつーこたーねーよな……? 富雄とかユーシアとかミトも、ちゃんとここにいるんだよな……?」

 不安に駆られたゲンは、富雄たちの特徴を伝えて、見ていないかをヨミナに尋ねた。だが、ヨミナは首を横に振るだけだった。

 冥界の案内人は、男女合わせて16人おり、手の空いている者が順次案内をするという。よって、おそらくヨミナ以外の誰かが対応をしたのではないかとの回答だった。

 なお、他の15人は、ヨミア、ヨミエ、ヨミオ、ヨミカ、ヨミコ、ヨミサ、ヨミジ、ヨミタ、ヨミト、ヨミノ、ヨミハ、ヨミホ、ヨミヤ、ヨミリ、ヨミル。年齢や背格好は大差ないが、雰囲気や性格は全員異なるという。女性陣では絶対に自分が一番かわいいのだと、ヨミナは何度も強調していた。



「じゃ、この冥界について簡単に説明するね~。今キミがいるのは冥界の第1エリアで~、……」

 ヨミナが冥界について話し始めた。ゲンは口を挟むことなく、黙って聞く。

 特に新しい情報はなかった。ゲンが知っている内容ばかりだった。


 冥界は2つのエリアに分かれている。手前にある第1エリアと、その奥にある第2エリアだ。第1エリアはモッヒョラ坂を挟んで俗世間と接しており、生き返ることが可能。第2エリアはいわゆる天国や地獄とつながっており、生まれ変わることが可能。

 どちらのエリアに行くかは、天寿を全うしたかどうかで決まる。全うしていれば第2、そうでなければ第1。つまり、まだ寿命が残っていれば生き返る可能性が、残っていなければ生まれ変わる機会が、それぞれ与えられる仕組みだ。

 なお、残り寿命の有無に関係なく、凶悪犯等は強制的に第2エリアに送られる。また、第1エリアは1回限定のため、生き返った者が再度寿命を残して死んだとしても、もう第1エリアには行けない。


 第1エリアにいられる時間、すなわち生き返るまでの制限時間は決まっている。原則として残り寿命の10分の1で、年未満は切り上げる。例えば、寿命を7年残して亡くなれば1年、26年残っていれば3年、55年なら6年となる。

 ただし、知ってしまうと生き返った後の人生に影響を及ぼす可能性があるため、この制限時間や残り寿命が本人に伝えられることはない。各自の推測に委ねられる。

 なお、ここでは年を取らず、死ぬこともない。言わば不老不死だ。食事や睡眠は必ずしも摂る必要はなく、そうしなかったとしても何ら問題はない。

 また、生き返るのにどれだけ時間がかかったとしても、年齢や残り寿命には波及しない。それらは死亡当時のものをそのまま引き継ぐ。


 生き返る方法は2通りある。自分の力で生き返るか、他人に生き返らせてもらうかだ。前者は、故人自身が冥界の中に設けられている条件を満たせばよい。後者は、残された近親者等が冥界の外で決められた手順を踏めばよい。

 もし制限時間内に生き返ることができなければ、第2エリアに移動となる。もしくは、生き返りたくない等の理由により、自らの意思で随時第2エリアに行くこともできる。奥に行けばもう生き返ることはできなくなるため、これを以って真の意味で死を迎える。

 なお、低年齢層や乳幼児など一部の者には、別のルールが適用されることになっている。




「……こんなとこに何年もいなきゃいけねーとかマジかよ。やべーな」

 ゲンは笑うしかなかった。自分が考えた冥界を、まさかこのような形で自分が体験することになるとは夢にも思わなかった。

 原作に登場する冥界第1エリアは、決して居心地がいいとは言えない場所だ。常に薄暗く、肌寒く、黴臭く、息苦しい。長居したいと思う者はまずいないだろう。そんなところに何年も滞在するなど、考えたくもなかった。一刻も早く生き返らなければならない。

 生き返るための条件は複数あり、いずれか1つを満たせばよい。だが、年単位の時間があってもなかなか達成できないような難題が揃っていたはずだ。作者だから忖度してくれるかもしれないという淡い期待は、捨てたほうが賢明だろう。


「それでは、これをキミにプレゼント~」

 ヨミナの手に何かが現れた。1枚のカードだった。首掛け式のカードホルダーに入れられている。片面は無地で、もう片面には4桁の数字が3つ書かれていた。わずかな間隔を開けて連なっており、全体で12桁の数字にも見える。

「それは冥ナンバーカード~。そこに書いてる数字が、キミの冥ナンバーだよ~」

「冥ナンバー? なんだそりゃ?」

「この冥界にやって来た人全員に割り振られる番号だよ~。その番号はいろんなところで使うよ~」

「タヒんでからもこーゆー番号で管理されんのかよ。冥ナンバーと言いてーだけちゃうんかと、小一時間問い詰めてーぜ」

 ゲンは苦笑した。現実世界にも似たような名称の、同じような番号が存在する。個人を識別し、さまざまな情報やサービスを一元管理するための番号だったはずだ。


「これで説明は終わり~。もうちょっとしたらここから出られるよ~。生き返る条件はいろいろあるから、がんばってね~。じゃ、ヨミナちゃんはこれで帰るね~。バイバ~イ!」

 現れたときと同じように、唐突にヨミナは姿を消した。空間内にしばしの静寂が訪れる。



「……君はあんなにがんばってたのに、死んじゃったんだね。本当に残念だよ」

 おなじみの声が天井から降ってきた。遺憾の念を微塵も感じさせない、明るい口調だった。声だけで、顔は映っていない。

「ケイム!」

「でも、まだ終わりじゃないよ。君ならわかると思うけど、生き返れなかったときが本当のゲームオーバーだよ。だから、がんばって生き返ってね」

「リスポーンさせてくれるっつーわけか。そりゃありがてーな。でも、オマエはオレたちを殺そーとしてんじゃねーのか? どーして冥界を作ってまでオレたちを生き返らせよーとしてんだ? イミフすぎんだろ」

「そんなの決まってるじゃないか。この冥界にも宝珠があるからだよ」

「ファッ!? 宝珠!?」

 ゲンは素っ頓狂な声を上げた。


「この冥界にも1つだけ宝珠があるんだ。無色透明な死の宝珠だよ。ここでしか手に入らないから、がんばって探してね。君が持ってるヲーブには反応しないから、自分で見つけるしかないよ。生き返るときにはちゃんと向こうの世界に持っていけるから、心配しなくてもいいからね」

 ケイムの嬉しげな声が降ってきた。顔は見えないが、その表情は容易に目に浮かぶ。

「ちくしょー! ふざけんじゃねーぞ! 冥界にまで宝珠を仕込むとか、あたおかすぎんだろ!」

 ゲンは地団駄を踏みながら叫んだ。

 ここにも宝珠があるということは、死んで生き返ることが前提のシナリオだったということだ。すべての宝珠を揃えるためには、必ず誰かが死ななければならない。そして、宝珠を手に入れ、生き返らなければならない。この世界では、冥界すら冒険の舞台の一つに過ぎないのだ。


「ここは君の考えた冥界とは似て非なる世界だよ。君のはありきたりすぎて何の面白味もなかったから、僕がいろいろと変えさせてもらったよ。生き返るチャンスもいっぱい用意してるから、がんばって生き返ってね。じゃ、向こうの世界で待ってるよ」

 ケイムの言葉が終わったと同時に、まるでその瞬間を待っていたかのように、周囲を取り囲む壁や天井が一瞬で消滅した。

 これから奔走することになるであろう冥界が、ゲンの前に姿を現した。

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