1 かきかけたち その1
未完の小説の主人公たちが現れた!
彼らは続きを書いて欲しそうにこちらを見ている。
……私は今までに多くの小説を書きかけにしてきました。
その主人公たちにもう一度活躍の場を与えてやりたいと思います。
よろしくお願いします。
「なんで……? どうして……?」
屈強な戦士たちに取り囲まれ、剣を向けられ、ダイは涙目だ。おどおどした様子で周囲を窺いながら、ブルブルと震えている。
「あれれ~? オイラたちが何かしたのかな~?」
ジョージは能天気に兵士たちを見回している。
「この町に出入りする子供はすべて捕らえて、悪魔の生贄にしろとのご命令だ」
兵士たちの長と思われる男が口を開いた。
「い、生贄……!? そんな……!」
「生贄だって? オイラを生贄にしたらいけにぇーよ」
こんな状況でも、ジョージは笑いを取ることを忘れない。おどけたような表情でギャグを繰り出した。使い古された、定番中の定番だ。
「ふん、くだらん。さあ、おとなしく我々に――」
「ワシのギャグがくだらんやとぉ!? なめとんか、ワレェ!!」
ドスの利いた凄みのある声でジョージが吠えた。鬼のような凄まじい憤怒の形相で、兵士たちを睨みつけた。
ジョージのものすごい剣幕に、兵士たちはたじろいだ。何人かは思わず後ずさる。
「おどれら許さんぞ! 皆殺しや! 全員まとめて死にさらせ!」
ジョージは雄叫びを上げて兵士たちに襲いかかった。もちろん素手だ。
「わわわ……」
ダイは素早く耳を塞ぎ目を閉じ、その場にしゃがみこんだ。これから何が起きるかは容易に想像がつく。見ない、聞かないが一番だ。
「おどれら、弱いくせにようワシのギャグをコケにできたのぉ! なめとんか、アホンダラァ!」
ジョージの怒鳴り声と激しく殴打するような音がかすかに聞こえてくる。ダイはさらにしっかりと耳を塞いだ。
すぐ近くで何かが地面に倒れるような振動が伝わってきた。薄目を開けて見ると、目の前で白目を剥いた兵士が一人倒れていた。
「ひぇっ……」
ダイは目をしっかりと閉じ、さらに身を縮こまらせた。
が、次の瞬間、ダイの体が宙に浮いた。首には太い腕が絡まり、そのすぐそばで剣の切っ先が光っていた。
「動くな! こいつがどうなっても――!」
「やかましいんじゃ、ボケェ!」
何の躊躇もなく飛び込んでくるジョージの姿に、兵士の腕の力が緩む。ダイはその隙に腕を振りほどいた。その直後、兵士が大きな音を立てて地面に倒れた。
「人質取ったらこのワシを止めれる思うたんか、ドアホ! おどれら全員をあの世に送るまで、ワシは誰にも止めれんぞ! 覚悟せぇ!!」
ジョージは吠えた。
――――『少・笑・抄』ここでかきかけ
風の精霊の目に映る風景が、映像として頭の中に浮かんでくる。リョウは目を閉じたまま、ゆっくりと話し始めた。刑事たちの視線が、一斉にリョウに注がれる。
「女の子は無事だ。だが、口はテープで塞がれ、手と足はロープで縛られているようだ。逃げようとして必死に体をよじらせている」
「部屋に犯人はいないのか?」
河村が身を乗り出す。
「いない。今は女の子だけだ。カーテンも閉められ、部屋の中は薄暗い」
「部屋の様子は?」
「きれいに片付けられている。テレビ、冷蔵庫、テーブル……。必要最低限の家具しか置かれていないようだ」
「なるほど。いつでも逃げられるようにしているわけか」
「ちょっと失礼……」
リョウは目を閉じたまま、手探りで机の上のペットボトルを掴むと、残っている中身を一気に喉に流し込んだ。緑茶だが、味わう余裕など全くない。ただ喉の渇きを潤すためだ。
風の精霊との交信には、相当な精神力を要する。すぐに喉がカラカラになる。
若い刑事が新しいお茶をリョウの近くに置いた。
「玄関に表札はない。305と書かれたプレートが壁に貼られている」
部屋の中から部屋の外へ。リョウはさっきとは別の精霊と交信していた。
「305号室! その建物の名前は!?」
「今探している……」
リョウは風の精霊を操り、建物名を調べている。刑事たちは食い入るようにリョウを見つめ、次の一言を待った。
「見つけた。建物名は――」
リョウがマンション名を読み上げる。すぐにキーボードを叩く音が部屋に響いた。
「ありました! ミルキーウェイ中央通参番館!」
沢木が椅子から立ち上がり、興奮気味に叫んだ。場所さえわかれば、もう解決は時間の問題だった。
パソコンの画面には、物件の住所と地図が表示されていた。隣の県だ。県都ではないが、それに次ぐ人口を持つ工業都市。ここから車で1時間ほどの距離にある。
「305号室だ。そこに女の子と、今は不在だが犯人もいるはずだ。みんな、頼むぞ!」
「はい!!」
河村の号令に、刑事たちは一斉に動いた。
「ふぅ……。疲れた……」
リョウは机の上に突っ伏した。疲れ果て、体が鉛のように重い。
――――『精霊探偵リョウ』ここでかきかけ
バーロックの軍勢が地響きを立てて迫ってくる。大地を埋め尽くさんばかりの大軍だ。
主力は毎度おなじみのトカゲ兵クーザ。剣や斧、槍、弓など様々な武器で武装しているのがわかる。猪に似た獣人ズーク、虎に似た獣人サービル、半人半馬の獣人スレイン、一つ目の巨人ベラーガ、球体をした魔獣メロッシー、三つ首の猛獣エミナジオ、四本腕の魔人ラグラシオスなど、他にも多くの魔物がいた。
空には巨大な蝙蝠ナーズナー、有翼の魔馬シャズヒン、大きな鎌を持つ悪魔シック、漆黒の巨竜ニーデルフィウムの姿も見える。
「敵、めっちゃおるやん。倒し放題やん。楽しみやわ~」
初めて見る大軍に、マリリアスは大興奮だ。既に獣人に変身していた。完全に戦闘モードに入っている。
「すごい大軍じゃのぅ。儂の魔法を派手にお見舞いしてやりたいのぅ」
ジャフリーも準備万端だ。いつでも魔法を詠唱できる態勢に入っている。
「本当にすごい数ね。倒しがいがありそうだわ」
アリーダも口元に笑みを浮かべ、メイスをしっかりと構えている。
「よかった……。父さんじゃない……」
ナナノハが安堵の息を漏らした。誰よりも早く、敵の軍勢を率いる四天王を見つけたのだ。もしラーブナだったなら、ナナノハにとってはかなり辛い戦いになっていただろう。
「指揮官はゲレンか」
レガートが呟く。その軍勢を率いているのはゲレンだった。多くの魔物に囲まれながらも、その堂々とした体躯は遠くからでもよく目立つ。
ゲレンは典型的なパワーファイターだ。策略や小細工は一切使わず、ひたすら力で押す戦いを好む。どんな戦法で来るかは容易に想像できる。
「レガート、ゲレンの野郎は俺が倒す。邪魔すんじゃねぇぞ」
ゴリマルドが背中の剣に手をかける。レガートは無言で頷いた。ゴリマルドは前回の戦いでゲレンに不覚を取っている。その借りを返したい気持ちはよくわかる。それに、ゲレンの膂力に太刀打ちできるのは、ゴリマルドしかいない。
「そういえば、ポポタンは?」
ポポタンの姿が見えない。さっきまではいたはずだ。
「仲間を呼んでくると言っていたわよ。止める間もなかったわ」
「援軍か。それはありがたい」
あまりの大軍に驚いて援軍を呼びに行ったのだろう。もしテンダーライオンたちの協力が得られるなら心強い。
「うちが一番乗りや~。行くで~!」
マリリアスが勢いよく飛び出した。
――――『サバナーク戦記』ここでかきかけ
「フッ、余の命運もここで尽きるか……」
忠二が苦しそうに呟く。全身の傷が痛む。額からの出血も激しい。左目を隠すために伸ばしている前髪も乱れ、血と汗で額にべっとり張り付いていた。
足がふらつく。立っているのがやっとだ。
デビリアンが回復するまで耐えたかったが、この状況では不可能に近い。
「お前は人間にしてはよく戦った。褒めてやる」
アルヴァはニヤニヤと気味悪く笑った。
「人間……? 卿はご存じないようだ……。余は魔族……。魔界の貴公子ロココマキアだ……」
この期に及んでもなお、忠二は自らが設定したキャラを演じることを止めない。まさに中二病の鑑だ。
「殴られすぎて頭をやられたか。無理もない」
アルヴァは鼻で笑った。確かに、忠二の言動は頭をやられた人間のそれにしか見えないかもしれない。もちろん、実際にはただの中二病である。設定のとおり忠実に振舞っているだけだ。
「今のこの姿は、世を忍ぶ仮の姿……。来るべき時が来れば、余は真の姿に戻る……。そして、この世を統べる王となるのだ……」
よろけながらも、痛みに顔をしかめながらも、忠二はひたすら語り続ける。身振り手振りを交え、まさに迫真の演技だ。
アルヴァは薄笑いを浮かべて物珍しそうに忠二を見ていたが、やがてその顔からだんだんと笑みが消えていった。
「余がこの世界を支配した暁には――」
「お前の茶番にも飽きた。そろそろ終わりにしてやろう」
アルヴァは地を蹴って一気に間合いを詰めると、強烈な蹴りを繰り出した。
忠二は両腕を交差させてその蹴りを止めようとしたが、防ぎきれず大きく吹っ飛ばされた。そのまま地面に激しく叩きつけられる。
「余もここまでか……」
激しい痛みで全く動けない。意識が遠のく。アルヴァが笑いながらゆっくりと近づいてくるのがぼんやりと見えた。
「……忠二、よく耐えた。後は儂に任せろ」
薄れゆく意識の中、忠二はデビリアンの声を聞いた気がした。
「フン、やっと来たか……、余の下僕よ……」
忠二の意識は、そこで途切れた。
――――『小・中・高・大(小さなころから中二病、高じてしまって大事件)』ここでかきかけ