パンだけじゃないけどね
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「嫌いじゃないってこと、信じていいの?」
「あぁ」
大切な幼馴染の問いに対して、今度は悩みを持たれないように間髪を入れずに答える。暗闇の中ということもあり相手は気づいていないだろうが、俺はウォーラの方を真剣に見つめて返事をした。
「そっか」
先ほどと同じ相槌、だが今回は声色が違う。こちらからも彼女の姿が確認できないが、どこか嬉しそうな彼女が見えた気がした。
「そっかそっか」
やはりそれは間違いではなかったようで、「えへへ」と可愛らしく笑い声をあげていた。この真っ暗で不安な気持ちが募る中、こうやって陽気に笑ってくれるということは誤解は解けたと思っていいだろう。俺の方も釣られて笑い声を出してしまう。
「よかったぁ」
「ごめんな、悩ませちゃって」
「ううん、私の方こそ。って、この流れさっきもやったよね」
「そうだな。じゃあ、お互い様だっていうことで」
真上に手を伸ばした右手の上で小さな光が生まれる。俺が使った魔法の光から生み落とされたのはパンだった。暗闇の中で明かりとなったその光のおかげで、床に落とすことなくパンを手にすることができた。
「仲直りの印、っていうことで」
光が消えるまでの僅かな時間で、半分にちぎったパンをウォーラへ手渡す。二人だけの静かな空間の中、パンを齧る音だけが聞こえた。
相変わらず、日本で食べていたパンとは異なりボソボソとしている。だが雰囲気のせいだろうか、今まで食べたパンの中で最も味が深く美味しく感じた。
「うん。やっぱり私、ユキが作るパン好きだなぁ」
「また作るよ。その時はまた一緒に食べよう」
「ほんと?」
「いつもいつもというわけにはいかないけどな」
村全体のことを考えると、俺が考えなくパンを生み出すのは得策ではないだろう。それは以前村長に話した時と同じ考えだ。
だが、まぁ。
たまにはこうして自分のためにパンを作るのも悪くはないかもしれない。せっかく使える魔法なんだ、使わないことが一番の無駄なのではないかと、今日俺は実感した。




