悩みは粉砕
仕事納めは済みました。
「気をつけて帰れよ」
店主はぶっきらぼうにそう言うと、今年は硬いクッキーの入った袋を渡してくれた。試しに一つだけ手に取り齧ってみると、歯が欠けるんじゃないかと思うくらい硬かった。まるで石かと思うくらいに。
「…食べにくいんだったら、砕いてみろ」
「あ、確かに」
「少しは楽になるかもしれんぞ」
言われた通りにクッキーを砕こうと袋の上から力を加えて割ろうとしてみるが、なかなかうまくいかない。ならば、と一度地面に袋を置いて上から叩こうとして思いとどまった。なんとなくその構図がスコードを痛めつけていた時と同じだったからだ。
「ったく。貸せ」
店主は袋を手に取ると、俺が手間取っていたのが嘘みたいに簡単にクッキーを粉々に砕いてくれた。やはり子どもと大人の力の違いだろうか。
「いつか…」
粉々となったクッキーの入った袋を受け取る時、店主がボソリと小さく呟く。
「キザリィとは、いつか話すつもりだ」
「え、何を?」
「聞こえたんだから、仕方ないよな」
心なしか気まずそうな顔をしているキザリィさんのお父さん。昨夜、二人だけで話していたつもりだったがこの人にも聞こえてしまったようだ。
気まずい顔をしていても悩んだ顔は見えないところから、やはりキザリィさんが何か考え事をしていることは察していたようだ。
「お前も」
彼は表情を見せないように俺に背を向けたので、話は終わったものだと思っていた。しかし、また聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で言葉を発したのだった。それも今回は娘のことではなく、恐らく俺宛の言葉を。
「悩みがあるなら、その、それみたいに砕いちまえよ」
「砕くって…」
手に持っていた袋に目を向ける。粉々に砕かれたお菓子がたくさん入っている。話したわけではないが雰囲気か何かで察してくれたのだろうか、去年と比べて俺が少し変わったことを。
それにしても。
「ありがたいですけど、それがやりたいだけでこの硬いクッキーを用意したんですか?」
「聞くな」
今度こそ彼は店の中へと戻ってしまう。一人になった俺は、とりあえず粉と化した小麦粉の塊を口に入れるのだった。




