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お泊まりナイト

そんな考えだと鬱病になるよユキトくん。

 どうしてこうなった?

 工房とはまた違う木彫り細工の店の一室。その狭い部屋で俺は布団を被っていた。

 …キザリィさんとその父と三人、川の字になって。


 「…んん」


 いや、理由はわかっている。店主さんが戻ってくるのが遅かったせいで宿屋の受付も遅れ、部屋が既に埋まってしまっていた。野宿にしようかとも思ったのだが、心配して俺を着けてきたキザリィさんの手によって一泊させてもらうことになったのだ。

 予想外だったのは客間ではなく、彼女らと共に同じ部屋で過ごすことになったことだ。結果的に俺、店主、キザリィさんの順番で並んでいる。ありがたいが正直狭い。

 既に店主は眠っているようで、大きなイビキをかいている。ただでさえ緊張している俺にとってはその大きな音が余計に睡眠の邪魔をしている。

 壁にかけられた時計は既に日付が変わったことを示している。良い加減に眠らなければ、そんな焦る気持ちがより俺の睡眠を邪魔していくのであった。


 「眠れない?」


 そんな悩みを抱える俺に、キザリィさんがポツリと一言。

 俺が先程唸りを上げたからだろうか、彼女は心配そうな声色でそう呟いてくれた。まだ眠りにつけない俺は彼女の言葉に返事をする。


 「すみません。こうやって一つの部屋に並んだことはあまりなくて」


 日本にいた時もこっちに来てからも一人用の部屋を与えられていたし、基本的には一人で寝ていた。旅行の時くらいだろうか、例外は。

 キザリィさんは小さく笑うと布団をめくり、俺についてくるよう促す。そうして彼女に連れていかれた場所はキッチンだった。


 「お水、飲む?少しは落ち着くよ」

 「いいんですか?」

 「嫌だったら言わないよ」


 キザリィさんは木のコップで桶から水を掬い、それを手渡してくれた。お礼を言いつつコップをもらい、水を口に含む。常温で保存しているので程よくぬるく、飲みやすい温度だった。


 「ねぇ少年よ。君には夢があるかね」


 水を飲む音だけが聞こえるキッチンで、唐突に質問を投げかけられた。


 「夢、ですか?」

 「うん。同じくらいの年代で、違う地域に住んでいる人って少年くらいしかいないしさ。どんな考えを持っているのかなって」


 そういうことらしい。

 確かにやりたいことはある。俺は村で教師の立場となって色んな人に勉強を教えたい。だがこの前のスコードの一件以降、俺は人を教えることができる立場にはならない方が良いのではないかと思い始めてきた。

 人を教える立場にある人間は、出来るだけ誠実な人間であるべきだ。俺はそう思っている。


 「悩んでるねぇ」


 しまった。質問の回答を忘れていた。


 「ということはやりたいことが多いのかな?」

 「いえ、寧ろ一つしかないんですが」

 「あ、そうなんだ。そっかー」


 どうやら求めていた答えとは違っていたようで、キザリィさんは視線を少しずらして水を飲んだ。と、いうことは。


 「じゃあキザリィさんはやりたいことがたくさんあるんですか?」


 少しの沈黙。それが正解だと言うことを表していた。

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