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同じ空のはずなのに

大分感覚が戻ってきたので、週2投稿をやってみました。

続けられれば続けます。

 冷えた夜風を肌で感じる。いつもいる場所のはずなのに、昼と夜というだけでこんなにも違うのか。

 太陽が落ちていて、月明かりだけが大地を照らしている。電気なんて一つもないのに、地平線の向こうまで見えるような気がした。

 不思議な感覚だった。この世界に一人しか残っていないような、取り残されたような感覚。快い感覚だろうか、それとも。


 「あっ」

 「あ?」


 座りながら考え事をしていたとき、急に上から声をかけられた。聞き覚えのある声。聞きなれた声。この世界で安心する声。


 「ユキ?」


 ウォーラだ。彼女は黒のワンピースを濡らして俺の目の前に現れた。水のせいで服がピッタリと肌に張り付いており、幼い体が普段より小さく見える。


 「どしたの。こんな時間に」

 「お前こそ」

 「聞いてるのはこっち」

 「…わからない」


 俺は気がついたらここに来ていただけだ。特に目的があったわけじゃない。

 それよりも彼女だ。人のことは言えないが、とても子ども一人で行動して良い時間とは思えない。


 「ウォーラは?」

 「水浴び。見ればわかるでしょ?」

 「…かもな」


 水で濡れている服からはポタポタと水滴が流れているし、髪だって同じだ。きっと体が小さく見えたのは、こうして彼女が濡れているせいもあるのだろう。

 それに忘れていたが、俺も畑仕事で汗だくとなっていたのだ。今更ながら体がベタつく感覚を覚える。


 「俺もするかな」

 「水浴び?」

 「あぁ」


 流石に彼女の前で裸になるわけにはいくまいと、どこか影になるようなところはないかと辺りを見渡す。夜なので木の下にでも行けばいいかと、立ち上がろうとしたとき。


 「なら、ほら!」


 そう言って彼女は太陽のように笑った。

 ウォーラは笑顔で俺に手を差し出す。彼女の考えがわからないままその手を掴むと、彼女は強引に俺を川へと連れて行きそのまま二人で川へと飛び込んだ。

 夜風よりも冷たく、氷のような水が全身を包む。急なことだから体が驚いてしまったのだろうか、一瞬意識が遠のいた気がした。

 それでも手の感覚だけは残っている。寧ろ氷の中で、その熱は際立っていた。

 彼女の体温が伝わる。命の鼓動までもが聞こえる気がする。


 「あっはは。気持ちいいね!」

 「あぁ」

 「あはは、ははっ。ユキったら変な顔してる!」

 「変な?」


 全然自覚がなかった。思わず顔をペタペタと触ってしまう。水面を見ても、暗くて自分の顔がわからない。


 「そんなに笑うほど変なのか?」

 「だって、ポカンとしてるんだもの!こうやって、目をまん丸に開いてさっ」


 そう言うと彼女はまぶたに指を当てて上下に大きく動かした。白目が丸出しだ。確かにこんな顔をしていたのならば、ケタケタと笑ってしまうのも無理はないだろう。


 「なるほどなぁ」

 「ユキも面白かった?」

 「そんな顔されちゃ、笑っちゃうよな」

 「…もしかして、面白くなかった?」


 その質問は予想外だった。会話の内容からして、そういう返答は返ってくるわけがない。自分の心の中を見られているような、そんな感覚だ。


 「何でそう思ったんだよ」

 「ユキってさ、なんか変わってるよね」

 「どこが」

 「だってユキって、私たちとどこか違うもの」


 ドクン、と心臓が跳ねた。

 別に俺が転生者だと知られていたって構わない。そのはずなのに。

 何故だろうか。今、この瞬間は。

 彼女に全てを握られている気がした。

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