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思い出の場所

リアルが面倒臭くて趣味まで時間を割けない…!

 久しぶりの街は相変わらず賑わっていた。

 暦は夏の半ば。俺は数ヶ月前に受けた依頼である、街への遠征へと繰り出していた。去年と比べると少しは筋肉がついていたようで、前は三日三晩歩き続けた道を今回は三日目の昼には辿り着くことができたのだ。

 街の賑わいは過去の記憶と同じであり、少し歩くだけで人とぶつかりそうになってしまう。懐かしさの余韻に浸りながら目的の場所へと、…行く前に先にとある場所へと寄り道をすることにした。


 「はーい、いらっしゃい!安いよ安いよー!」


 思い出の場所の一つ、ラムノが捕まった八百屋だ。どうやらまだ潰れていなかったようで、あのおっさんが手を叩きながら人を呼び込んでいる。

 人々も店を避けることはなく野菜を品定めしているところを見ると、どうやら俺が嘘をつき泣き喚いたことはそこまで広まらなかったようだ。


 「お、そこの坊主。お使いかい?こっちにきて是非…」


 遠くから見ていたつもりだったが、じっと店を見つめていたせいだろう。俺を客だと判断したおっさんが声をかけてきた。しかし、尻すぼみ気味で。


 「お前、去年の」

 「えっと、はい」

 「何しに来た」


 手を叩くのを止めたおっさんの表情に憎悪が浮かんでいく。当然のことだろう。ラムノを守るためという目的があったとしても、俺はこの店の営業妨害をしたのだから。

 だが、どちらにしてもこの店には顔を出すつもりだった。彼には伝えたいことがあったからだ。


 「謝りたくて」

 「は?」

 「去年のことです。金銭をあまり持ってないので、言葉だけになってしまうんですけど。本当にすみませんでした」


 そう言って俺は頭を下げた。俺は彼に謝りたかったのだ。

 俺のせいで店が潰れてしまっていたかもしれない。時々ではあるがその事実を思い出すことがあった。一人の人生を潰してしまっていたかもしれないと思うと、気持ちだけでも、言葉だけでも謝罪を伝えておきたかったのだ。

 その気持ちのまま数秒の間頭を下げていると頭を何かで叩かれた。ふと頭を上げると、おっさんが手にキュウリを握っていた。


 「食えよ」

 「え?」

 「あれからアイツも来なくなったしな。それにああやって小さい子どもを傷つけたってのは、まぁ、良いことではなかったしな。どんな形であれそれを止めてくれたお前には、その、感謝してるよ」


 …驚いた。最近は予想外のことが起きてばかりだ。糾弾はされようとも、感謝されることはないだろうと思い込んでいた。もしかしたら彼も俺と同じように人を傷つけることに悩んでいたのかもしれない。


 「お前、あのガキのことまだ知ってるのか?」

 「ラムノのことですか?彼女なら、もうスリとかしないで元気に過ごしてますよ」

 「名前なんて知らねーよ。でもまぁ、人に迷惑をかけてないならいい」


 ラムノのことを聞いてホッとしたのだろう。おっさんは表情を緩め、キュウリを俺に手渡した。


 「まぁ、ちゃんとした客なら相手してやるよ。あのガキにもそう言っておいてくれや」

 「あ、はい。わかりました!」


 罪を憎んで人を憎まず、とはこのことを言うのだろう。おっさんはもう罪を犯さないラムノのことを許してくれた。良い人、というかは人間ができているとでも言うべきか。俺の中で憧れの人になりそうだった。


 「んで、お前は?何を買いに来たんだ?」

 「あ、いや。俺はただ謝りたかっただけで」

 「…じゃ、そのキュウリ食って帰んな」


 しかし客にはならない相手には厳しいようで、金を落とさない俺はすぐに店を追い出されてしまうのだった。キュウリはみずみずしくて塩がなくても美味かった。

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