未来予想図
タイトルのセンスから感じられる古臭さ。
今の若い人に通じるんですかね…?
「ユキー!」
今日も今日とて俺を呼ぶ声が聞こえる。もう何年もずっと聞き続けた声、幼馴染の少女の声だ。
「ウォーラだな」
「そうだよ!」
ウォーラ・ブライド、八歳。明るくて食いしん坊だが見た目がお淑やかな水色の髪をした少女。そして俺の家の隣に住む幼馴染だ。
「また今日も本読んでる」
「ダメ?」
「ダメ!」
ビシッと俺の顔面目掛けて指を刺すウォーラ。この光景も何度見ただろうか。最早、俺を探しに来ることは彼女の仕事の一環となっている。
「何でこんなところで本なんて読んでるの!?」
「読みたいからだろ?」
「この怠け者!」
怒っている。いつものことだ。
人のことを怠け者呼ばわりした彼女はいつも以上に大きな声を上げていた。
理由はわかる。今日、俺は親の畑仕事を手伝うことになっていた。それをサボっていたためわざわざ彼女が呼びに来たというわけだ。彼女にも彼女のやりたいことがあるだろうに、その時間が俺に取られることになれば怒りが湧くのも当然と言えるだろう。
「ここ最近いつもいつもじゃん!どうして仕事をしてくれないの!?」
「ちょっと考えたいことがあったんだよ」
「だからって仕事を休んでいいことにはならないじゃん!」
「俺のやりたいことって何なんだろうなって」
「話をすり替えるな!ただ休みたいだけだろ!」
「ほら、パンやるから」
「ぅわーい!」
いつもと違って一つのパンを丸ごと渡すと、ウォーラは喜んでそれに齧り付く。これで少しは時間稼ぎができるだろう。
「ほら、この村って学校らしい学校ってないだろ」
「学校って何だっけ?」
「勉強するところだよ」
「勉強って何だっけ」
もちろん本がある以上、この村にも字の読み書きができる大人は一定数存在する。俺だって、この世界の文字はその大人から教わった。
だがそれは任意で教わるものであって、義務じゃない。俺が今日頼まれたように、本来なら畑仕事や牧場の手伝いをすることの方が優先させられる。そのせいもあって、簡単な語学や計算もできない人というのがこの村には存在するのだ。
勿論勉学よりも食料の方が大事だということもわかる。だがそれはそれとして、最低限の知識を持っておいた方が人生の選択肢を増やすことができるだろう。この世界にあるのは、この村だけじゃない。もっと大きな街だってある。
「だからさ、俺、言葉とか計算を教える人になろうかって」
村の人たちを手伝いながらゆったりと過ごしつつ、子どもたちには勉強を教える。それこそ良い人生の過ごし方ではないだろうか。計二十二年間ほど生きてきた俺は、そんな人生設計をしていたのだった。
「それって今日の畑仕事よりも大事なこと?」
「人生に関わることなんだから大事なことだろ」
「私にはよくわからないんだけど、つまりはただただサボりたいだけなんじゃない?」
「…」
いや、まぁ。それはそうかもしれないが。
昔から本ばかり読んでいたこともあり、俺は同学年の人間より非力に育ってしまった。正直、ウォーラと比較しても力がないだろう。今彼女と喧嘩することになったら一方的に殴られそうだ。
そんな俺にとって、畑仕事なんてとてもじゃないが耐えられない。やりたくない。少し働いただけで筋肉痛になる。
「ほら、さっさと行こ!」
「や、やめろ!俺を担ぐなよ、悲しくなる!」
「ユキって軽いよね。自分でもパンを食べたら?」
「食べてるんだよ!」
まるで米俵を担ぐ江戸時代の人のように、ウォーラは俺を肩に乗せて畑まで運んで行った。
…もう少し成長すれば、俺だって筋肉がつくはずなんだ。多分。