食事中はお静かに
食事中はリラックス効果があるらしいです。本当かどうかは分かりませんが。
「ラムノちゃんが来てもうすぐ一年ねぇ」
家に着いたときには既に食事の準備ができていたようで、母さんがスープを皿によそっていた。野菜の旨味が引き出されたその味を思い出すだけで腹が減ってきた。
テーブルには、他に木の実を炒ったものにスパイスをかけたおかずと後はパンが並んでいる。いつもの食事といったところだろうか。
「もうそんなに経つんですか?」
「確かに夏ごろに会ったよな」
「あぁ、そういえば暑かったっけ」
太陽が照りつける中、三日くらいかけて街に辿り着いたんだよな。そういえばそろそろ同じ季節だということは、また俺が木彫り細工を持ってあそこまで歩いて行くんだろうか。
日々の畑仕事で筋肉がついたことだし、今だったらもう少し早く街まで行けるだろうか。しかし仮にそうだとしても、また数日かけて歩き続けるのはくたばれそうだ。
想像をするだけで疲れてしまい溜息を吐いていると、父さんが俺を呼びかけた。行儀が悪かったかと反省をしていたが、どうやら別の要件があるらしい。
「村長がお前を呼んでいたぞ、明後日に家に来て欲しいとのことだ」
「村長が?」
「あぁ、今年の遠征の話じゃあないか?」
「えんせ…。やっぱり売りに行くのか」
想像が現実になりそうだ。再び大きな溜息を吐くと、今度は行儀が悪いと指摘されてしまった。理不尽だ。息を吐きたくなるようなことを言われているというのに。
「まぁまぁ、明後日のことは明後日に考えればいいじゃないですか。それよりもユキト、冷める前に食べちゃいなさい」
「ん、あぁ」
「ラムノちゃんも、ね」
「えぇ。いただきます、おば様」
元が裕福な家庭の生まれだからだろうか。彼女はルックスだけではなく仕草や言葉遣いもが美しかった。俺の前だけでは初めて出会った時と同じような言葉を使うけれども、乱暴であっても汚くはない。性格はまぁ、良くはないけど。
彼女は今日も食べこぼしなどせずに、音も立てないでスープを飲む。…食べこぼしはともかく、音を立てないのは恐らく俺には一生できないマナーな気がする。
「何ユキトにぃ、あたしの顔ジッと見て。どうかした?」
無意識のうちに俺はラムノの方を見てしまっていたようだ。それが気になったのか、ラムノは首を傾げてそう言った。
「ん。悪い、何でもないんだ」
「ユキト、お前まさかウォーラちゃんだけじゃなくてラムノにまで惚れたのか?」
「ぶぅっっ」
「うわっ。ユキトにぃ汚い!」
父さんの一言についつい口に入れたスープを吹き出してしまう。数年前も同じようなことをした気がする。
父親のその発想は何なのだろう。年老いた者は子どもの恋愛事情でしか話題を作らないのだろうか。
「何だ、図星か」
「何なんだよ!そういうこと言うなよ!」
「やっぱり図星なのか?」
「そうなの?ユキトにぃ」
「どうでもいいだろ!あぁぁぁもう!!」
「皆さん!食事中は静かに!」
母親の怒号でその場は落ち着いたものの、先程の会話に思わず頭を抱えてしまう。俺が惚れてる?ウォーラとラムノに?俺がウォーラとラムノに恋愛感情を抱いているということか?
ない。そんなことは、ない。…多分。
何故認めたくないのかはわからないが、認めたくはない。悶々とした気持ちだけを抱えて、俺は味のわからなくなったスープを啜り続けるのだった。




