ストレス要因
(なんてわかりやすいタイトル…)
計算塾と名前をつけているものの、やっていることは特に難しいものではない。石やそこら辺にある物を使って数字の数え方を教えたり、地面に数字を書いて計算問題を出したりする程度のものだ。
チョークやら黒板やらホワイトボードやらがあったりすれば楽なのだが、生憎そんな便利な物はここにはない。なので俺が手に入る物で工夫した結果がこれだ。普段使っていた紙やペンが使えないのはやり難いものがあるが、慣れるとこれでも何とかなるものだった。
それにこうやって人に教えるのも面白い。俺が問題を出した時、それがわかった瞬間に生徒たちが見せる楽しげな笑みを見ると心からそう思うのだ。
「ねー、ユキ。何で四に四を掛けると二十になるの?」
そんな可愛い生徒から質問が来た。ウォーラは地面に書いてある、俺が出した問題と睨めっこしている。
「前にも言ったろ。四人家族の住人を四軒分集めたら、そこにいる人は何人だ?」
「えーと、四足す四足す…」
ウォーラは数十個の石を用意すると、地面に四つずつ、四行分並べていく。そうして集まった石の数を数えていくと。
「十六じゃん」
「そうだよ。だからウォーラの計算が間違っているんだよ」
「うっそぉ」
「ほんと」
しかしウォーラは少し例外というか、一番一緒にいるというのにあまり楽しそうにしている様子を見せてくれない。
最初に教えてた時は、勉強には興味がなさそうではあったものの楽しそうにしていたというのに、ラムノと共に計算塾を始めた頃あたりからあまり楽しそうにしてくれなくなった。もしかしてラムノが原因なのだろうか。
「おいセンセー。おれもよくわかんねーんだけど」
再び考え事をしているとこの集団の中には似合わない太い声が聞こえた。その聞きたくない声が、俺を一瞬で現実に連れ戻す。
「…スコード、何がわからないんだ?」
「あぁ?」
声の主はスコード・ラム。ガラの悪い顔のした少年であり、確か年齢は俺より三つ上だったか。とある理由からこの村の中でもトップクラスにガタイがよく、喧嘩などをしたらまず勝てないだろう。
そんな彼が不機嫌そうな顔をしているのだ。嫌な予感しかしない。
「おい、次期村長のおれに向かって偉そうなんじゃねーか?」
そう。彼は村長の孫なのだ。
本来は村長の息子である、スコードの父親が村の長を勤めるはずだったのだが、どうやらその父親は彼を産んでから数年後に亡くなったらしい。
そしてこの村では今まで世襲制で村長が決められていたらしく、村長と血縁関係のある彼が次期村長を勤めることになっているのだ。
しかし何となく想像がつくであろうが、自分の立場を利用したこの態度だ。高圧的な振る舞いに人当たりの悪い外見。恐らくだが彼のことを好いている人間はこの村では少数だろう。
少なくとも、俺は嫌いだ。だからといって敵に回すのは厄介なのだが。
「…すみません。色々な人がこの授業に参加しているので、誰か一人を特別扱いするってことが咄嗟に出来なかったんです」
「ふぅん、じゃあ気をつけてくれよ」
彼のことは村長からもちゃんと教えるように頼まれている。ラムノの件もあるし、俺の感情を優先した反発などはしない方がいいだろう。
こういう風に物事を考えられるくらいは大人になったんだな、と実感しつつ。俺はスコードの質問に答えるのだった。ちなみに彼の質問は足し算の繰り上がりについてのことだった。




