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子どもの言うことだから

これにて10歳編は終了です。次の歳はもう少しほのぼのした内容が良いですね。

 「村は今の状態で回っています。そこに俺がこの力を見せつけることで、今の村の状態を壊すのが怖かったんです」


 村は今の状態で十分に回っている、それは事実だ。村長の尽力もあって外界からの被害は受けていないし、各家庭で食糧難になっているという話は十年生きていて聞いたことがない。


 「食料が増えることで怖いことになると?」

 「はい。自分で言うのもなんですが、この力は強大なものです。村の人がこの魔法に依存して働くなる可能性だってある」

 「その分別の作業に労力を割けるとは思わないかのう?」

 「思いませんでしたこの便利な力で働くなった人は、力に溺れて堕落するだろうと思っています」

 「ほっほっほ。違いない」


 ここに来て初めて村長が笑ってくれた。それは、俺が村に住んでいた時にいつも見せてくれていた顔だった。今までがまるで別人のような態度をとっていたために、俺はこの表情を見て思わず胸を撫で下ろした。


 「では続いて質問しよう。お前がその力で食料を担保するということは、先程お前が言っていたようにこの村の人を堕落させるということだな?」

 「いえ違います。本当のことを言うと、俺はこの力をできるだけ使いたくありません」

 「では取引の内容はどういうことじゃ」

 「村長から依頼を受け次第、俺はパンを生成します。作物がうまく育たないとか、外界と関わったことによる不祥事とか。とにかくあなたの判断で食べ物が足りないと思った時は、俺が協力してパンを作ります」

 「儂が私情でお前にパン作りを依頼したら?」

 「そんな可能性は考えられません。私情を優先するような方であれば、今こうして取引に応じることなんてないでしょう」


 ラムノと話をしていた時に、この老人が残念そうな顔をしていたことを俺は覚えている。村長だって、きっと本心では俺たちを追い出したくなんてないのではないだろうか。自分で言うのもなんだが、俺たちみたいな小さい子どもを追い出すなんて人道的に正しいとは言えないだろう。


 「随分儂を信頼しているのだな」

 「村を治めている方です。信頼だってするでしょう」

 「ふむ」


 村長は額に指を当てていた。心なしか恥ずかしがっているように見える。もしかしてそれは照れの反応なのだろうか。


 「では最後に聞かせてもらおう。お前がそれだけ危惧している力を使ってまで、その少女をこの村に留まらせておきたい理由はなんじゃ?」

 「それは…」


 後ろを振り向く。まだそこにラムノはいる。まだ諦めが感じられる顔をして、彼女はそこにいる。何が彼女をそうさせたのだろうか。親か?街か?それとも世界か?

 正解はわからない。だけど、これだけはわかる。彼女がどうしようもできないことで、彼女が今苦しんでいるということが。だから。


 「こうするのが、正しいと思ったから」

 「正しいとは?」

 「今苦しんでいる人が目の前にいて、でも自分がどうにかすれば助けられるかもしれないなら、助けることが正しいと思うから。それが理由です」

 「ふぅむ」


 村長の手を当てる場所が、額から顎にもどった。そして少し沈黙した後、再び発した言葉が。


 「若いのぅ」


 という一言だった。

 一瞬どういうことかわからなかったが、経験の少なさから思考の甘さを否定されているのだろう。


 「ユキト、お前の考えが正しいとは到底思えない」

 「…はい」

 「だが、納得はできる」


 村長は顎から手を離すと、その手を背中に回して俺を見つめる。先ほどまでのような動揺して見開いた瞳ではなく、こちらを品定めしたような、そんな瞳。


 「ではユキト、その取引だが」

 「はい」

 「受けよう。お前のその魔法、失くすには惜しい」


 それだけ言うと、村長はくるりと俺に背を向けて彼の自宅まで歩いていった。残された俺とラムノは少しの沈黙の後、今与えられた自分たちの立場を理解して手を取り合って喜び合うのだった。

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