通じて、奥の手
私も世間で話題のウマ娘をやっているのですが
カワカミが来ない…!来なかった…!
「村長、お願いします。俺と取引をしてください」
「ほう?」
これは予想外だったのだろう。いつもは細く閉じられた村長の目が大きく開かれた。初めて見る表情だった。
「どういうことか聞かせてもらおうか?」
「俺がこの村の食料を担保します。その代わり、ラムノをこの村に住ませる権利と、俺がラムノを管理するという責任をください」
「ふむ」
村長は顎の髭を触りながら話を聞いていた。
「食料を担保するというのはどういうことじゃ。ユキト、お前が他の村人よりも多く仕事をこなすということか?」
「いや…」
あぁ、とうとうこの時が来てしまった。できるだけ人には言わないでいようとしたこの力、使わないでおこうとしたこの力を見せる時が。
「俺、魔法が使えるんです」
「…はぁ?」
こいつ何言ってんだ。開いた瞳が点になっている、そんな村長の表情がその言葉を物語っていた。
うん、わかるわかる。俺だって村長の立場でこんなこと言われたら同じ顔をするだろう。この世界はハイファンタジーな剣と魔法の世界じゃない。魔法なんて、フィクションの世界でしか出てこないのだ。
「ユキト、気でも触れたか」
「そう思いたくなるのはわかります。でも、これを見てください」
時間は既に深夜。真っ暗な闇に包まれたこの時間で、月明かり以外の光が俺の手の上に現れた。俺の魔法だった。
「お、お、お」
いつものように光からコッペパンサイズのパンが生み落とされる。目の前の老人はその光景を見て、目玉が飛び出すのではないかと思うくらい目を見開いていた。今日だけで一年分くらい村長の目が開いていたんじゃないだろうか。
「な、なんじゃ今のは」
「魔法です。ほら」
二個目のパンを作り出す。続けて三個目、四個目。連続で魔法を使うのは初めての試みであったが、特に問題なく生成できている。十年越しに自称女神に感謝を送る俺であった。
「いや、しかし」
「どうぞ」
「うむ…?」
未だに現実を理解できていない様子の村長にパンを押し付け、食べることを強要する。余ったパンを食べてもらうために、しばらく黙っていた父親の方を見てみると彼は放心していた。息子が村の長と言い争っていたり、謎の魔法を使ったりと気が気でなかったのだろうか。申し訳ないことをしたと思うが、とりあえず口にパンを突っ込んでおこう。
「う、美味い…」
小さく唸る村長に視線を戻す。五感に刺激を与えたのはそこそこにインパクトがあったようで、少しはこの非現実な状況を受け入れることができたようだった。
「…ユキト、その余ったパンを頂くことはできるか?」
おかわりまでご所望ですか。
余程気に入ったのか、村長は残りの二個のパンをぺろりと食べてしまった。嬉しそうに食べるその姿を見てこっちも嬉しくなったが、食べ終わると同時にいつもの厳格な表情へ一変する。
「ユキト、お前が特殊な魔法を使えるということはわかった。このことをなぜ今まで黙っていた?」
あぁ、やっぱりそういう質問は来るか。
便利な力があるのであれば、人はそれを使いたいと思うだろう。俺だって本心ではそう思っている。でも、それじゃダメなんだ。便利なものに囲まれては人は堕落してしまう。
再び俺と対峙する村長に向かって、俺は俺の考えをぶつけるのだった。




