辛くても進め
この前ワクチン接種を受けることができました。
みなさん、解熱剤とウィダーインゼリーは準備しておいた方がよさそうですよ。
「木彫り細工ってさぁ、売れにくくなってるんだよなぁ」
彼女が言った言葉は、やはり俺が感じていた物と同じ内容だった。この客が一人もいないガラガラの店内の様子が、彼女の言葉が真実だと物語っている。
この店の主である筋肉男は俺の村の商品を絶賛していた。それは事実で、きっと高い技術力を持って作られた物なのだろう。ただし売れやすいものが質の良い物とは限らないわけで、実際に身につけているものが安くて質の悪い物であることもあるだろう。
「ほら、ここ一年で鉱石を安価で採取できるようになったじゃん。石系のアクセサリーって元々高かったものだからさ、それの値段が下がったとなっちゃあ、そっちに人が流れるのは当然だよね」
キザリィさんは諦めた顔のまま笑っていた。この木彫り細工店の娘であることが災いとなったのだろう。自分の店のものが、自分の父親のものが出来の良い物だとわかっているのに、それが通用しない現実を理解したくない。そんな顔をしていた。
「それでさ、お父さんの知り合いも人が変わったみたいに荒れちゃって。酒に溺れるっていうの?そういうところ見ちゃって」
「そう、なんですね」
悲劇は突然やって来る、というところなのだろうか。ラムノの時もそうだったが、村にはない出来事がこの街には多く起きている。
村長が言っていた、色々な世界を見てほしいってこういうことなのだろうか。もしかしたら、村にはこんなことが起きないようにしてほしい、とでも言いたかったのかもしれない。
「あははー。ごめんね、君みたいな小さい子にこんなこと話しちゃって」
「小さくないです。でも大丈夫なんですか?お店の売り上げが悪いんじゃ生活できなくなったり…」
「ありゃ、もしかして心配してくれてる?」
しかし、気がつけば彼女は笑っていた。それは最初に見た諦めの表情とは対照の挑戦的なものだ。
「ごめんごめん。別に悲しい話がしたいわけじゃないんだよ。ただそういう人もいて、そういうこともあるって話。うちはまだお客さんも来てる方だしまだまだ安泰じゃあ、ないかな」
そして丁度話が終わったタイミングで店の扉が開いた。髪を白くさせたその二人組はどうやら高齢の夫婦であるようで、木製の壁掛け時計をえらく気に入っていた。
キザリィさんはその二人を相手に商品の説明をしており、どうやらその時計はあの筋肉男が三年ほどの時間をかけて作り上げた物だと言っていた。
その時間が短い物なのか長い物なのか、それは俺にはわからない。だがあの時計が良いものであることはわかるし、客である夫婦が好んでいることもわかる。
今日、色々キザリィさんと話をしたが、少なくともここに置いてある物が良い物であるということ。それは事実であるとわかった。ならばここで扱ってもらえる俺たちの村の物も、きっと良い物なのだろう。
どうかこの店は、長く平穏が訪れますように。そう願って俺はこの店を出た。
「おい、どこに行きやがる」
…いや、正確には出ようとしたところで筋肉男に止められた。
「まだ金払ってねぇだろうが。変な心配するくらいなら自分のことでも考えてろ」
あぁ、色々不安な出来事が多すぎて完全に忘れていた。そうだったな、俺はこの店に物を売りに来たんだったな。しかも男のセリフを聞く限り、先程までのキザリィさんとの話を聞かれていたようだ。恥ずかしい。
筋肉男から売却金の入った封筒を受け取ると、彼はそれに加えて硬貨を一枚手渡してくる。何かと思い俺は渡されたそのコインをジッと見ていると、彼は小声でボソリと呟いていた。
「その、なんだ。遠くから来て疲れただろ。それで菓子でも食って帰れ」
…か、カッコいい。
こちらに背を向ける筋肉男に対して大きな声でお礼を言って、今度こそ俺はその場を去った。そして貰った硬貨でクッキーを買い、ラムノが待つ路地裏へと行くと二人でそのクッキーを分け合うのだった。




