会えない人々
おかしい、こんな真面目な話ばっかりするつもりじゃなかったのに…。
「…で、聞いていいのか」
興奮が収まった様子のミイラ少女。暗くなった空のせいで、だんだんとその表情が見えにくくなっていく。
「何をだよ」
「その、お前の過去というか」
「盗りたくて盗ってるわけじゃないって奴か」
先程口にしてしまった言葉。ただの推測で発してしまった、知ったか振りの言葉だ。そういう言葉は人の神経を逆撫でさせる。そのことがわかっていた筈だから言うつもりなんてなかったのに。
ミイラ少女の方に顔を向けた。暗くなった彼女の表情はもう見えず、何を考えているのかもわからない。
「ごめん」
「なんで謝った」
「お前の心を勝手に代弁したから」
「うるさいっ」
彼女は反抗した。だが拒絶はしなかった。それが今の俺に対する彼女の感情なのだと、そう思ってしまった。
「よくある話だよ」
少しの沈黙の後に、彼女はそう話を切り出す。
「死んだ。二人とも」
「死んだ?」
「パパとママ。なんか良くわからないけど、急に家に来た人にそう言われた」
…あぁ、つくづく自分が嫌になる。少し考えれば想像つくじゃないか。
元々普通の暮らしをしていたであろう彼女が、こんな風に家もなく、今日食べるものに困る日々をおくる理由なんて限られているんだ。それは生活を成り立たせる人々がいなくなったからで、そんなことになったのは死んだか失踪したかの二択に過ぎない。きっと無意識でわかっていたからこそ、今まで口にしなかったというのに。
「戦争が起きてるんだってさ。パパ、帰ってこなくて。死んじゃって」
「いい、言わなくても」
「ママは何か、たまたま実験に失敗したらしくて、変なのを浴びて死んじゃって」
「いいって」
「あたし一人、残っちゃって。気がついたらさ、家を追い出されて、それで、こんな」
「いいって言ってんだろ!」
「お前が聞いたんだろ!」
溜まっていた感情が噴き出した。
互いに互いを怒鳴りつける。誰が悪いわけでもない。…いや、わざわざ傷を抉った俺は悪い奴だろう。
隣にいる少女は声を振るわせていた。俺と出会わなければわざわざ辛い記憶を思い出さなくても良かったのだろうか。申し訳ない。
膝に顔を埋めて嗚咽をあげる彼女を見て、何か償いをしなければならないと思った。彼女のために何かをしてあげなくてはならないと思った。
必死に考えた結果、今の俺にできるのはこれしかないと魔法を使う。手のひらに食べ物が浮き上がる。
「食べろよ」
ウォーラ以外に使ったのは初めてな気がする。
俺は生み出したパンをちぎり、比較的大きめな方を隣にいる少女に向かって差し出した。少女はどこからともなく現れたパンを見て驚いた顔をした、ような気がする。やがてそのパンを受け取って一口頬張った。
「美味しい」
「良かった」
どんなことがあろうと、お腹がいっぱいになることができれば乗り越えられる。食事は人間が幸せになれる手段の一つだ。…その考えは今でも変わらない。
少女が少しでも幸せになれるようにと、二つ目のパンを作り出す。しかし、気がつけば隣にいる彼女は涙を流していた。暗闇の中で光る雫を流していた彼女は、まるで自分の感情を堰き止めていた壁を壊したかのように大きな声をあげるのだった。
「っ、あぁぁっ」
辺りに響くような声だった。赤子のように少女は泣く。きっとこれが本当の彼女なのだろうと、俺はそう感じていた。
「パパっ、ママ。会いたい、会いたいよっ」
それが彼女の本心なのだろう。俺よりも小さい少女が、両親を失くしたんだ。泣いていい、泣くべきだ。
せめてもの救いになればと、泣きじゃくる少女を抱き止める。俺の胸を汚す彼女を見て、何とかしてやりたいと、そう思うのだった。




