そうするのが正しいと思ったから
一週間の折り返しですが、皆さん頑張っていきましょう。
「…ん」
「気がついた?」
空がオレンジ色に染まる頃、俺の膝で眠っていた彼女はようやく目を覚ます。止血作業は慣れてないせいで、今の彼女はミイラの如く全身に包帯がグルグルと巻かれていた。俺のせいでこうなっているとはいえ、全身に薬を塗らなければならないほど攻撃を加えたあのおっさんもどうかと思う。
ミイラ女はその小さな体を無理やり起こそうとする。だが体が悲鳴をあげているようで、苦痛に顔を歪めていた。
「あまり動くなよ。悪化するぞ」
「うるさいっ」
威勢はいい。。精神的に弱っていないのならば大丈夫だろう。体の傷は時間の問題で何とかなるだろうし。
「何でこんなことをする?」
「こんなことって?」
「放っておけばいいのに」
「財布を取られたから?」
ミイラ女は答えない。体育座りをして顔を膝に埋め、俺から表情を隠している。
恩がなく仇しかない彼女を何故助けたのか。考えてみてもわからない、理由はない。ただ強いていうのなら。
「そうするのが正しいと思ったから、かな」
「何言ってんだ」
俺の答えを彼女は鼻で笑った。
「あたしは盗人だぞ。捕まればああいう風に扱われるのは当たり前だ」
「でも、お前だって盗りたくて盗ったわけじゃないだろ」
「…何だと?」
しまった。自分の失言に思わず手で口を覆うが、時すでに遅し。ミイラ女は苛立ちの表情を浮かべて俺を睨んでいた。
俺がそう思ったのは彼女を治療した時だ。持っている薬が塗り薬だし、何より包帯を巻くために彼女の服を脱がさなければならなかった。…話はズレるが、彼女の裸体は直視していない。多分。きっと。
その時、服の手触りがとても良かったのだ。ボロボロのシャツとズボン、そして体のサイズとはまったく合わないコートを着用していたのだが、その全てが柔らかく滑らかな布で作られていたのだった。少なくとも俺の村でこんなに良い生地を使った服など見たことはない。
盗んできたものの可能性はある。だがそうだとしたらわざわざこんなサイズの合わないコートなど盗むだろうか。大体今は夏のように暑い季節だ。仮に盗んだとしても着る必要だってないだろう。もし理由があるとしたら、その衣服を手放したくないから、だろうか。
以上のことから、彼女はもしかしたら元々良家出身の人間なのではないかと推測した。もちろん俺は探偵でもなんでもないので、ただの素人の憶測だ。的外れかもしれない推理を披露するのは少し恥ずかしいものがあった。
「ちょっと待て」
俺の推測を伝えると、彼女はまだまだ体が痛いだろうに上体を起こす。そして顔を真っ赤にし、今まで強い視線を俺に向けた。
「見たのか」
「見たって?」
「さっき言ってただろ!あたしの、その」
さっき。
推測の中で話したことだろうか。そう思い発言の内容を振り返る。コートのサイズ、服の手触り、ミイラ女の治療…。
ミイラ女の治療。
「…」
「どうだよ」
「見た」
「てめぇ!」
「お、怒るなよ!仕方ないだろ!」
世の中にはAEDをするために服を脱がしたせいで訴えられた人がいる。そんな話を聞いたことがあるが、その人もこんな気持ちだったのだろうか。
その場は結局彼女が動けないせいで暴力沙汰にはならなかったものの、落ち着いて話ができるのは更に空が黒く染まる頃だった。




