変わるかもしれない世界
無事十歳編が始まりました。少しずつ一歳ごとの話数が増えていくと思います。
「すみません、もう一回おっしゃってもらえますか」
季節は多分夏。
ジリジリと太陽が人々を照らす中。ようやく慣れてきた畑仕事を終えた俺は、何故か村長に呼び出され彼の家へとやってきていた。その用件はというと。
「わかりにくかったかの?ではユキト。お前には街まで行って村の名産品を売ってきて欲しいのじゃ」
聞き間違いではなく、そういうことらしかった。
この村では木彫り細工のアクセサリーや置物を作っており、それを街に行って売っている。時折街に行く大人たちを見るので、そういう仕事があることは知っているのだ。
問題はどうしてそれを俺がやるのか。それだけがまったくわからなかった。
「はっはっは。何故自分がやることになったのか、という顔をしとるのぉ」
「わかるんですか?」
「歳をとるとな」
俺はまだ十歳だ。確かに昔と比べて外で動くことも増えたし、筋肉だって付いた。だがそれは昔の自分と比べた話であって、俺より力のある同年代の奴なんていっぱいいる。第一、子どもに任せる仕事ではないはずなのだ。この村で唯一の『お金をやり取りする仕事』なのだから。
「ふむ、そうか」
思ったことをそのまま村長に話し、自分には荷が重すぎるという旨を伝える。だが村長はそんな俺を見てニカッと笑った。
「いや、ユキト。やはり儂はお前に任せようと思う」
「何故です?」
「その年でそこまで考えることができるお前に、もっと色んな世界を見て欲しいのだ」
それは予想外の答えだった。
「幼い頃から本を好む不思議な奴だと思っていたが、まさかそこまで物事を考えられるとは。ここまで頭の回る十の子は見たことがないわい」
「あ、いや。それは」
素直に喜べない。本来なら俺は十四と十年生きてきた人間なのだ。一度死ななければ成人している年齢だ。寧ろ精神年齢は低い方だろう。
「それにお前に任せる理由はもう一つある」
「…何です?」
「この前ウォーラに計算を教えていただろう。ケイサンキョウシツと言ったか」
「ゔぇっ」
何故それを。それは俺が人に教える練習として、ウォーラに足し算を教えていた時の話だ。当人以外に話をしていないはずなのにどうして。
「ははっすまんなぁ。儂は最近お前をよく見ておっての、ついつい覗かせてもらったわい」
「趣味の悪い奴…!」
「そう言うな。どこで教わったのか知らんが、中々面白い集会だったぞ」
顎に蓄えた長い髭を揺らして笑うジジイを睨みつける。しかし当人は何も感じていないかのように話を続けるのだった。
「だが、だからこそお前には色々なことを知って欲しい」
「は?」
「最初の話に戻るが、お前には色々なことを知って欲しいのじゃ。その年で頭が回り、知識欲があり、人に物事を教えることができる。こんな何もない村で一生を過ごすには惜しい人材じゃ」
「…買い被りすぎですよ」
「村の長に向かってよくそんなこと言えるのぅ。ともかく、儂はお前に色々なことを知って欲しい。儂がそう思うんじゃ。年寄りの好意はありがたく受け取っておけ」
村長の気持ちはわかった。確かに、俺のためだと言うのであれば素直にその好意を受け取っておこう。だがそれはそれとして。
「この村から街までどれくらいかかりましたっけ?」
「大人の足で大体丸一日。…お前の足なら大体三日あれば着くんじゃないかのぅ」
「ははっ」
三日。三日の間一人で歩き続けるってのか。往復で六日だぞ。
一週間後に待つ苦行を前に、思わず苦笑いが出る俺だった。




